第8話 アルメリア
正面の丸いヘッドライトを繋ぐように伸びる線から発せられた青い光が、彼をスキャンして賞金稼ぎなのかどうか認識を終え、部屋の破損状況や賞金首たちをスキャンするために移動を開始する。途中、壁にもたれかかって煙草をふかすガラムもスキャンされ、彼女はドローンに向かって唾を吐いていた。
(野郎・・連れてくだと?一体何を考えて―)
彼の真意を模索していく中で、ガラムはハッと瞳孔を開いた。
(3年間、仕事してた・・チンピラぶっ倒したりしたが・・・)
賞金稼ぎの仕事は単純だ。RCPDがリストに上げた賞金首を生きたまま捕える。それだけなのだが別に、個人から依頼を受ける場合がある。この仕事で食おうとする者ならば両方を選択するが、個人依頼は政府の認可を得ていないので犯罪行為には気をつけなければならない。
(子供。そういえば・・多かった気がする。間に違う仕事を挟んでたけど、特に・・あの人が絡んだ時はほとんど)
ガラムの頭の中に浮かんだ人物。それは今回の仕事を斡旋した人物であり、以前にも何度も情報を流していた。
『スキャン完了。賞金首3名の生存確認。建物への被害、ほぼ無し。報酬、110万メタルを支払います』
元々廃れているスラム街への被害などどうでもいいと思えるほど、機械音声はフラットに伝えていった。床に落ちている麻袋も、ただの麻袋と認識して言及は無い。
ポケットから手の平サイズのカード型財布を取り出し、ドローンにかざすとカードに満額の報酬が送られた。
【+1100000】
チャップマンのカード型財布の黒い線に表示されたのは、振り込みが完了した事を現していた。最中、ガラムに対して向けた偽りの笑顔は消え失せ、彼はこの後の事を考えて表情を暗くしている。
『お疲れ様でした』
正面のドローンがアナウンスを告げると、玄関から更に3台の警察ドローンがやって来て現場保存と連行のために動き出す。人だけではリクドーシティの犯罪に手が回らずドローンを採用しているのだが、それでも犯罪が絶えないため賞金稼ぎというならず者に頼る他無いのだ。
そんな光景など見慣れている2人、チャップマンはさっさと麻袋を担ぎ上げてガラムは煙草を床に放って歩き出していた。
踊り場にのみ設置されている蛍光灯のせいで階段は薄暗く、目を凝らせば害虫や亀裂がぼんやりと姿を現してくる。行きは敵との戦闘やその後得られる報酬に心躍らせていたはずなのに、帰りの2人は沈み切っていた。
土砂降りと荒廃したスラムが2人を、冷たく包むだけ。
玄関まで降りて正面の道路を見やると、ガラムは口を尖らせた。
「段取りもわりぃのかよ」
建物の横に駐車場がある廃アパートなので誰かを乗せるなら車は玄関の正面に置いても何ら問題は無いのだが、チャップマンはラングラーを呼び忘れていた。
変わっている所があるとすれば、玄関の壁にもたれて座っているずぶ濡れの浮浪者が2人を見上げていた。行きはいなかったので2人共一瞬視線を送ったがそれだけだ。
「すまない」
やけに素直に謝って車を遠隔操作で呼んだ彼の姿勢に、ガラムは一瞬目を丸くしたがおいそれと許してたまるかと口を噤んで不機嫌な表情を作り直す。
(ったく、調子狂うぜ・・)
気を取り直してポケットから黒い布のボールを取り出し、リンゴのへたのように伸びたつまみを引っ張ると、一瞬でボールが広がってガンケースへと姿を変えた。後は手に持つショットガンを仕舞えば終わり。そうこうしている間に車も到着した。
車がゆったりと旋回すると風が2人を優しく撫でる。ついでに、脇にいた浮浪者から鼻を刺すような不快な臭いが全身に纏わりつく。
臭いの正体は2人共予想が付いていたが、2人は浮浪者にガンを飛ばした。これは、賞金稼ぎとして舐められたままでは仕事が出来ないという、職業病的な要因と、大事な話をこれからしなければならない思い空気の中に異物が紛れ込んだためにイラついたからだった。
つまり、ほとんど本能的に、2人は浮浪者にガンを飛ばした。
「・・マジかお前」
チャップマンが呆れ切った様子で呟く。
「オッサン、今時よぉ現金持ち歩く奴なんていねぇって・・」
ガラムもガンケースを背負いながら溜息を吐いた。
泥と誇りにまみれ帽子を深く被った汚らしい浮浪者は、2人に一輪の花を差し出していた。
長い茎の先にピンク色の花がボール状にまとまって、まるで互いを支え合うかのように小さな花がいくつも咲いている花を。
「物乞いだってキャッシュレスで済ませるぜ?マジで、今テメェに構ってる暇ねぇから」
鋭い視線とぞんざいな物言いに対しても怯まない浮浪者に、ガラムはうざそうに頭を掻いてから足早に彼の元へと進む。
「おいガラム・・」
「もうスキャンしたんだろ?なんかあったか?」
「爆弾もガスも何もねぇ、マジでただの花。名前はアルメリア」
「西はアタシの生まれ育ったトコだ。ちょっとくらいいだろ」
頭を抱えるチャップマンをよそに、ガラムはカード型財布を投げて花を取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます