第5話 阿吽の呼吸
「仕事は単純、窃盗強姦殺人に人攫い。そんなチンピラだ」
3人が部屋に入って行った後、チャップマンとガラムはアパートの玄関に着き、肩に嵌めたカチューシャの形をした機械、通称電子傘の電源を切って仕事の話をしていた。
頭上に展開された黒いバリアは雨を防ぐだけの効力しかなく、腕などは呆気なく通過するがフリーハンドで雨を凌げるこの道具をリクドーシティの住民は好んで使用している。
「んなフツーのチンピラ、どこにでもいるだろ。賞金はいくらだ?」
「そう急かすな。コイツラは質が悪くてな、主に家出したりスラムにいる女性を狙って、自分らの犯行をサイコドライブで撮影、闇市で売り捌いてやがる」
「・・なるほど?前回と似てんな。立場の弱い女を狙ってる点なんか特に」
「殺すなよ、殺したら110万メタルがパーだ」
「オイオイ?それを先に言えよ相棒」
(さて、こっからか・・)
数秒足らずで2人を生かしたまま仕留め、残すは1人だけ。
だが、最後の目標は壁を背に白い長髪の少女を掴んで、あまつさえ頭に銃口を向けている。
「こっち来んなよ!?来たら、コイツ殺して俺も死ぬぞ!」
心の中で特大の溜息を吐き出し、チャップマンは廊下の方に怒鳴った。
「お前のせいだぞこのクソ野郎!」
アームバリアを仕舞って明らかに苛立っている彼の胸を、強く突き飛ばしてガラムが部屋に入って来た。M500ライオットショットガンを肩に担いだ彼女もまた、チャップマンに心底苛立っているようで、眉はつり上がって目も尖らせている。
「もっと下調べしとけや木偶の棒!情けねぇったらありゃあしねぇ!」
「うるせぇ!テメェがちんたらやってるからだろ!」
「あぁ?やんのかオッサン!」
ショットガンの銃口を、おもちゃを扱うような気軽さでするりとチャップマンの胸に押し当てるガラムに、チャップマンは更に険悪になってSOCOMの銃口を額に向けた。
「お、おい・・」
人質を取ったと言うのに、自分を無視して怒鳴り合いの喧嘩を始めた2人に、エルンテは完全に置いてけぼりになってしまっていた。だがまずは、自分が助からなければどうしようもないので息を吸って声を張り上げる。
「お前ら状況分かってんのか!?ガキがどうなって―」
「黙ってろピンクモヒカン!今このクソ馬鹿と話してんだ!」
「指差すみてぇにアイツに銃口向けんな!人質の事考えろメスゴリラ!」
注意しているのに彼もまた、拳銃をエルンテに向けてはガラムに向け直す。
「言っていい事と悪い事の区別も出来ねぇのかカス!華の23だぞ!」
「んな筋肉ムキムキで華だと!?アイツのモヒカンの方がまだ華があるわ!」
「マジかよ・・本当に分別のねぇ野郎だな!」
「分別もクソも知ったことか!」
「ホントにいい加減にしろ!仕事する気あるのかてめぇ―」
いつまで自分を無視して喧嘩を続けるのか。ついに我慢の限界を迎えたエルンテが2人に銃口を向けた瞬間を逃さず、ガラムのショットガンが火を吹いた。
彼女が愛用しているスラグ弾であれば、散弾のように正面一帯を攻撃せずに済む。
エルンテの拳銃を持っている手ごと吹き飛ばし、悲鳴を上げながら崩れ落ちる彼に、チャップマンがアームガードを展開しながら突っ込む。
(今ならッ!)
悲鳴を上げながら崩れ落ちていく彼に、人質を掴んでいる余裕など消えていた。
アームガードをエルンテにぶつけ、チャップマンが唸るとバリアが発光。強い衝撃を発したバリアが、トラックに突き飛ばされたような勢いでエルンテを壁に叩きつけた。
少し窪んで亀裂を走らせた壁の下で糸の切れた人形のように意識を失っているエルンテ。
土砂降りの籠った音だけが室内に鳴り、硝煙と血の臭いがたちこめる一室に流れる沈黙。
「痛って・・」
声を絞り出して肩を抑えるガラムに、チャップマンは振り返ると温かな微笑みを向けた。
「なぁチャップ、この作戦さ?アンタが撃つ方に変えねぇか・・」
「おかげさまで人質は無事。言うこと無しだが・・まぁ、痛いのは嫌だよな」
「ったりめぇだろ?」
「次は俺がやる」
「そうしてくれ」
「あぁ、それと」
チャップマンはSOCOMを腰に巻いた右のホルスターに仕舞って、ガラムにキチンと向き合い誠意を込めて頭を下げた。左のホルスターには、改造拳銃がチラリと見える。
「いつもありがとうな、相棒」
きょとんとした後、顔を逸らして照れ笑いを浮かべながら彼女は口を尖らせる。
「いいんだよ・・相棒」
この場に似つかわしくない空気が流れ、チャップマンは咳払いをして気持ちを切り替える。
革ジャンのポケットからジェット噴射式小型注射器、モバイルドクターを取り出してガラムに放る。中身は止血と鎮痛作用、相手を生きたまま捕まえる賞金稼ぎには欠かせない仕事道具だが、市販で売られているこれは一般人にも広く使われている。
「クソ部屋と玄関の奴を頼む、俺はこっちをやる」
「おう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます