第2話 賞金首たち
「スキャン完了。型番もバッチリ、目標の車だ。中には3人全員乗ってる」
吸いかけの煙草を握り潰し、後部座席の足元に置いていたガンケースに手を伸ばす。まるでプレゼントを目の前にした子供のような笑顔を輝かせる彼女に、チャップマンは振り返らず咳払いをした。
「頼むから前回みたいな事はすんなよ?こんな暑いのにエアコンすら点けられねぇなんて嫌だろ?飯だっていつもよりグレードダウンだ」
対照的に冷静な彼には、今ガラムがどんな顔をしているのか分かっているようで、バツが悪くなり、ガラムはガンケースを背負ったまま申し訳なさそうに眉を曲げる。
「それは・・悪かったよ」
がさつなガラムでも分かっている。言い訳をせずに謝れば誠意は伝わると。
次に起こす言動でそれを、更に確固たるものに出来る事も。
誠意を示した彼女に、チャップマンは静かに微笑んで返す。
「俺らは善人じゃないし、悪人でもない。好きに生きて好きに稼ぐ賞金稼ぎ」
「善か悪かは」
「「勝手に決めてろ」」
互いに向き合って目を見つめ合い、拳を前に出してぶつけた。
「行くぞ、相棒」
「わぁってるって、相棒」
信頼。
性格が反対に思える2人だが、確かにそれはあった。
相手を尊重し、技量を信じあう心が。
「ん?アイツら・・仕事終わりか」
十字路を抜け、チャップマンたちが乗っているラングラーの手前にあるボロアパートに止まった灰色のバンから、慌ただしい様子で降りる3人の男。
【エルンテ、オムニ、
レンズに映った男たちと、担ぎ出している袋をスキャンして表示された文字。
(麻袋・・あれじゃあスキャン出来ねぇ)
「なんだあの袋?」
「わからんが、麻100%ってのは分かったぜ。まぁ、知らなくてもいいモノなのは確かだ」
雨の中でドアを乱暴に閉める音が70メートル離れている車内に、籠って聞こえた。
「よっぽど急いでるらしい。ほれ、さっさと着けな」
ダッシュボードを開いて、カチューシャの形をした銀色の機械を取り出してガラムに渡す。ごく自然に、それを2人は肩に着けた。
「だな。電子傘も無しにアジトに直行なんてよ・・・」
「そーっとだッ!いいか!?そーっとやれよ!」
小綺麗なアメカジファッションをした男が濡れた服をタオルで拭きながら、黒を基調としたバイカーファッションに身を包んだ2人の男に怒鳴る。
「言われなくてもやるっての!」
「てか手伝えよ!」
ヤニで茶色と黄色のグラデーションがされた小汚い部屋に、秘蔵の宝物を扱うようにそっと丁寧に降ろされ、蛍光灯に照らされる。
「おいおい、俺のおかげでその子見つけられたの忘れんなよ?」
アメカジファッションの男がふっくらとした頬を上げてにやりと微笑むと、歳の割に老けて見える2人がうんざりした様子で溜息を吐き捨てる。
「丹建よぉ?小便ついでに行った廃墟で見つけたのは、正直ラッキーだと思う」
「けど、俺ら一蓮タッショーだろ?」
「一蓮托生な」
丹建に揚げ足を取られた男は、ご自慢のピンク色のモヒカンが崩れない様に力加減をしてそばにあったボロい革張りのソファを蹴っ飛ばす。
「オメェもなに笑ってんだオムニ!」
「エルンテ・・お前のそういう天然っぽい所、俺好きだわー」
ピンクモヒカンのエルンテ、金のセミロングを揺らすオムニ。肌触りの良さそうな衣服と育ちの良さそうな顔立ちをしている丹建。普通に生きていれば出会わなそうな3人。
彼らが出会ったのは、つい数か月前だった。
ここ巨大都市リクドーシティは4つの分都市と中央の都心から成る街だ。丹建の両親は都心で働き、この街では勝ち組と呼ばれる人種だった。人同士の競争に勝ち、仕事を的確にこなし、ある時は自身の手を汚してでも守りたい地位。
丹建の家庭は裕福だったが両親は家に居る事が無く、帰って来たかと思えば目の下にクマを作って泥のように眠るだけ。ハウスメイドドローンが家にいて家事をしてくれるが、機械の冷たさは彼の孤独をより一層深めるだけだった。
「さ、仕事はじめよーぜ」
麻袋の口紐を丁寧に引っ張り、丹建はドレスを脱がすように麻袋を下げていく。
徐々に露わになったのは、10歳ほどの少女だった。白い長髪と妖精と見紛う可憐な顔立ちが特徴的だが、髪はボサボサで汚れたタンクトップと半ズボン着ていて裸足。意識は無く、白いまつ毛も下がったまま。
「オッシ!俺が一番なッ!」
我先に動いたエルンテが、ベルトを緩めて盛った陰茎を突き出す。
「おい待てよ」
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