第4章 選抜戦!

第41話 どうしてこうなった

 アーレスの槍を回収してから1ヶ月くらいの時間が経った頃。


「そろそろ選抜戦の時期だ」


 マーリンが教室に入ってきたと思うとそんなことを言い出した。


 選抜戦というのは学園対抗の運動会のような物だ。

 まあこの世界には魔法があるせいで競い合うのはスポーツではなく、魔法や剣の技術になるのだが……


 まあ今回に関しては俺たちに関しては関係ない。魔力が多い貴族のそれもエリート達が切磋琢磨し合うイベントだしな。


 クラスのみんなもそれを知っているのか空気が重い。


「それでなんだが、今回アタシのクラスから1人出場することが決まった」


 クラス中が大パニックになる。なんで!? とか凄い!? とかひとしきりの感想が出た後に全員が一斉にこちらを向いてきた。


「な、なに?」


 絶対リックが出るじゃんかー。とかリックだろー! とみんな言ってくれるが俺ははっきり言って出場したくない。


 ただでさえ俺は王女であるエリカと仲良くしたり、聖女のソフィアと仲良くしていて貴族からは反感の目で見られているというのに、貴重な1枠を奪われたと貴族達が知ったら俺は殺されるんじゃないだろうか。


 暗殺者を雇って後ろからぐさっと……

 なまじ貴族は金を持っているからできるというのも怖いところだ。


「そうだ、みんな分かっていると思うがお前だリック」


 そう言ってマーリンは俺に指を向けた。いやだ。と言ってやりたい気持ちはあるがそれをいえば俺は拳骨を食うだろう。


「本当に俺じゃないとダメですか?」


「上からの指示だ。それにお前の実力はヒーデリックとエリカを倒したことで証明されている、文句があるなら学園長に言え……まあアタシからも推薦はしたがな」


 はぁ!? なんてことを言ってくれたんだこいつは!?


「どういうことだよ! なんでそんなこと言ったんだ!?」


 俺がそういうとマーリンは笑いながら、


「アタシのクラスから代表者が出ないのはイヤだからな」


 と言った。確かに賢者としてのメンツもあるのかもしれないが、それは勘弁してほしい。俺がどういう状況か分かった上で言ってくるというのは酷い話ではないだろうか。


「うぐぐぐぐ」


 かと言ってこれ以上反論すると殴られるかもしれないしなぁ。


「意見がないのならば、以上でホームルームを終わる。各自次の授業には遅れるなよ」


「はい!」


 俺達が返事をするとマーリンは部屋から出て行ってしまった。


「やはりリックは凄いな」


 俺が落ち込んでいるとレオンが声をかけていた。

 因みにリンは今日は学校に来ていない。と言うかここ最近学校に来ていない。


「はぁ……変わるか?」


 凄いと思うなら変わってやるぞ。俺の代わりにいくらでも出てくれ。


「いや遠慮しておこう」


 ノータイムかよ。


「だよなぁ。はぁ、俺は貴族の奴らから何かされないか心配だ」


「もう遅いようだがな」


 というとレオンが顎で窓を見ろと言う指示を出してきた。


「ん?」


 廊下側の窓を見ると貴族達が立っていた。それも1人や2人じゃない。何人もだ。

 しかも全員が俺を睨みつけてくる。


 そう言えば教室の喋り声が聞こえないと思ったらこれが原因かよ……


「リック・ゲインバース! 表に出ろ!」


 外にいた貴族達の一人が教室へと入ってきた。

 仕方ないか……


「分かったよ着いてくから、あまり騒ぐなよな」


 俺が席を立って貴族の方へ歩いて行くと何故かレオンがついてきた。


「ついてこなくていいぞ」


 やっぱりレオンは度胸があるな。他のクラスメイトなんてみんなビビっているのに。


「そう言うわけには行かないだろ。リックを1人で行かすと何をしでかすか分からんしな」

 

 お前は俺をなんだと思っているんだ。でもまあ、


「ありがとな」


 俺達は会話を終わらせて廊下に出るするとすぐに囲まれた。


「おい、平民。貴様なんかが選抜戦に出るわけじゃないだろうな」


「今のは平民差別か」


 そう言ってレオンが一歩前に出た。この学園は一応は平民差別禁止だ。


「ああ、そうだが?」


「っ! それがどう言うことか分かっているのか! お前は今この学園の規則を破っているんだぞ!」


 レオンがそう言うと貴族達は一瞬黙るがすぐに笑い始めた。


「そう思ってるのはお前らだけだよ! 普通ここまで平民クラスに押しかけたら誰か先生に言うだろ? それがないってことはみんな黙認してるのさ!」


 こいつの言う通りなんだよな。しかも生徒だけじゃなく、先生も一緒に差別してるしなぁ。


「で、選抜戦に出るか出ないかだよな?」


 このまま差別云々言っていても話が前に進まないので無理やり終わらせることにした。


「ああ、そうだ。もちろん棄権するよな?」


 とニヤニヤしながら言ってくる。これぐらいでビビるとでも思ってるのだろうか?


「マーリンが俺の棄権を認めてくれたらすぐにでも棄権してやるよ」


 うん。実際俺は棄権したいしな。……まあ絶対に認めてはくれないだろうがな。


 ほぅ? 棄権したいだと? そんなに早く死にたいと言うのなら棄権するがいい。


 とか言われそうだ。


「マーリン様は関係ないだろ!? いいからさっさと!」


 と言って胸ぐらを掴まれた。周りもやっちまえ! とか言ってるし。

 反撃してやろうか。と考えていると、


「お辞めなさい。争いなんて見苦しいですよ!」


 とリンとした声が聞こえてきた。どこかで聞いたことある声だな。


 そしてその場にいた全員の動きが止まった。


 少しすると人並みをかぎわけて誰かが俺達の方へ向かって来た。


「リック君、レオン君。大丈夫ですか?」


 そこには何故か修道服を着たリンの姿があった。

 それに今日のリンは普段と雰囲気が違う。いつも自信のない顔をしていたのだが、今は慈愛に満ちた表情をしている。

 それにメガネをかけていない。


 今まで気づかなかったが、リンって可愛いかったんだな。


「……リンさ、ん?」


 レオンも気になったのか声をかけている。


「いや、いやいや! 何があったんだよ! 制服じゃない服着てるし! 偽物か何かか!?」


 俺の質問に対して笑顔を見せながらリンはこう答えた。


「ヴィナス様という真実の愛と美に触れて私は変わったんです。それに私はもうリン・ノースターではありません」


「は? 何を言って……」


「私はヴィナス様からVの文字を頂いてリン・V・ノースターになったんです」


 なにがどうなってるんだー!?!?

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