第33話 ハニートラップには気をつけよう
「んっーー! 着いたー!」
エリカが1番に馬車を降りて伸びをしている。
「意外と早かったな」
「そうですね」
空を見ると昼頃だろうか太陽は自分のほぼ真上にある。
「おい、小僧。俺は近くの宿にいる。ダンジョン攻略し終わったら教えろ」
ジャンさんはそう言って馬を引いて街の中に消えていった。
それにしてもこの街は意外と賑わっているようだ。人の通りも盛んで活気に満ち溢れている。
ただ一つ気になる事があるなら通行人の殆どが剣や棍などと言った武器を携帯している事だろうか。
「それでどうする? 先にご飯たべるか道具屋に行くか」
これからの行動を2人に尋ねた。
「私お腹すいたわ」
「そうですね、いい時間ですし私もお腹の虫が鳴きそうです」
「じゃあ先にご飯屋に行くか! といってもどこが美味しいかわかんねぇけど……」
見た感じ店はいっぱいあるがどうせなら美味しいところに行きたい。
「そうねぇ、少し街を周ってみて決めるっていうのはどうかしら?」
「いいと思います。そうしますか?」
「そうしよう」
俺たちは街の探索を始めるのだった。
「だ、ダメだ……目星がつけらない」
「多すぎよ……」
「疲れました……」
少し歩いたのだがこの街異常なくらい飲食店が多い。それも肉系ばかりだ。
そして武器屋、防具屋も多かった。
「適当に入るか?」
せっかくの旅だし、美味しいものを食べたいがこんなに店が多いと決められん。
苦肉の策だ。適当に店に入って美味しい店を探す。それも旅っぽくっていいじゃないか。
と自分で自分に言い訳していると誰かに肩を叩かれた。エリカとソフィアは目の前にいる。誰だと思い振り返ろうとすると腕が柔らかい感触に包まれた。
「アンタもしかして飯で困ってるのかい?」
振り向くと褐色の美女がいた。赤髪と褐色の肌が似合っているどこが獣のような鋭い目付きをしている美女だ。しかもめちゃくちゃスタイルがいい。
そして俺の腕を見るとたわわに実ったスイカふたつが俺の右腕を挟んでいた。
「おっ、おっ、おっぱばぱ……」
な、なんだこの美女!? 俺の腕におっぱいが……
「うぶだねぇ、で、どうなんだい飯に困っているんだろう?」
野獣のような目に見つめられる。
「はっ、はい」
照れてしまってお姉さんの方を見れない。
「ちょっとアンタ! リックから離れなさいよ!」
エリカが怒鳴る。
「いきなり失礼ですよ! リックさんも困ってます!」
それに続いてソフィアも怒った。
「確かにこの子は困っているみたいだけど、嫌がってはいないみたいだよ」
うん。実際嫌がってはいない。むしろあれだ。もう少しこのままでもいいかなと思う。
「リック! なにニヤニヤしてるのよ!」
「怒りますよ!」
いやもう怒ってますやん。などとは口が裂けても言えない。
「私、いい店知ってるんだ。来るかい?」
と美女は耳元で囁いてくる。こ、これはいい。
「イかせていただきます!」
俺は恥じる事なく声高らかにそう宣言した。
「リックさん……」
ソフィアからゴミを見るような目で見られた。
エリカに関してはワナワナと震えている。
「いや、ほら! 客引きのお姉さんがここまで体張ってるのに無碍にする訳には行かないだろ? なっ?」
最もらしい言い訳を並べてみるとソフィアは勝手にしてください。と言って顔を背けた。……かなり怒ってるのかな? ちょっと怖いぞ。
「聞き分けのいい子だ」
そう言ってそのままお姉さんに引っ張られる。後ろを見ると2人は目のハイライトが消えながらもついて来ていた。
……仕方ない。これもこの感触のためだ。
俺は後のことは後から考えるようにしてお姉さんの感触を楽しむのだった。
「さぁ! 着いたよ! この店さ!」
連れてこられた店の看板には戦う漢の休憩所と書かれていた。
「オヤジー! これでいいだろう?」
お姉さんがそういうと俺は突然前に飛ばされた
「うぉぉぉ!」
前のめりに倒れ込んでしまう。
「なにを?」
突然の事で困惑していると店主らしき人が口を開いた。
「本当に代わりにお代を払ってくれるのか?」
「あぁ! ソイツがアタイのお代を払うってさ」
と、お姉さんが言った。
「まて、どういう事だ!?」
「アタイのお代も一緒に払っといてくれ! いい店紹介してやっただろ?」
「誰が払うか!」
「アタイの胸触っただろ? じゃっ! そういう事だから頼んだー!」
触ったんじゃなくてそっちが挟んだんだろうが!
そう言ってお姉さんは店を出て行ってしまった。
「エリカ! ソフィア! アイツを追って……く…れたら嬉しいな…なんて」
2人に頼もうとすると2人からドス黒い何かを感じとってどんどんと語尾が弱くなってしまった。
「なんだ。兄ちゃんも災難だったな。まあ俺はお代をさえ貰えればどっちでもいいが、これがあの姉ちゃんの領収書だ」
肩に手を置き優しく慰めてくれていると思ったらいつの間にか領収書を渡されていた。
恐る恐る額を見ると100000ゴールドとなっていた。
「は? え? 高すぎない?」
驚愕のあまりメニューの値段を見るが少し高い程度だ。なんでこんなに高い額に……
「あの姉ちゃん牛一頭分をペロリと完食してたからな」
「ふざけるなぁ! すぐアイツを見つけ出して……」
そこまで言って言葉が止まる。俺の両肩が掴まれたからだ。
「店員さん、すぐに戻ってくるので外に出ても構いませんか?」
ふふふとお淑やかな笑い声が聞こえてくるが俺は恐怖で振り返れない。
店主の顔を見ると青ざめて首を縦に振っている。
「あまり、他の人に迷惑はかけれないものね?」
はははと快活な笑い声も聞こえる。
近くにあったテーブルを咄嗟に掴むがそれ以上の力で後ろに引っ張られる。
「お、おねが……助けっ!」
俺は店内にいる全員に声をかけるが一斉に下を向いた。
「ゆ、許して……」
俺は2人にそういうが聞こえてくるのは笑い声だけだ。
俺の抵抗は虚しく外へと連れ出されるのだった。
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