第32話 旅は道連れ、世はなんちゃら
「今日はよろしくお願いします!」
御者の人に挨拶をする。
「……あぁ」
と、それだけ返ってきた。
御者の人はスキンヘッドで体も鍛えているのだろう。まあ簡単に言うととても怖い。なんと言っても威圧感が凄い。
もう馬車の中に戻りたくなるがその気持ちを抑えて案内をしよう。
「早速ですけど、今回の目的地は死の砂漠っていうダンジョンです」
「……分かった」
えっ、それだけ?
「…………」
「…………」
お互い沈黙が流れる。
うわっ、私のコミュ力低すぎ。
などと冗談を言っている場合ではない。なんとかして声を掛けなければ。
「あ、あの!」
「おい」
声が重なる。お互いに気まずくなり頭を掻く。
なんで俺がこのおじさんとラブコメ空間しなきゃならないんだ! クソ! もしかしてリックのヒロインはこのおじさんだった?
……俺、落ち着け。
「お嬢に何かあったら許さないからな」
俺が頭の中で変な考え事をしているとそう言われた。
「エリカと知り合いなんですか?」
「知り合いも何もお嬢が生まれてからずっと馬車を引いてきた」
そうだったのか。
「エリカの方が俺なんかより強いと思いますけど……絶対に守ってみせます」
「ならいい」
そう言っておじさんは地図を見始めたもう話す事はないと言っているようだった。
じゃあ俺も馬車の中に戻るか。
「それじゃあお願いします」
そう言って馬車の中へと向かうのだった。
「ふーん、アンタも分かってるじゃない」
「エリカさんこそ」
ふふふふと笑いながら2人が向かい合っていた。
「なんの話してたんだ?」
「リック!? アンタには関係ないわよ!」
「そうですね、関係ありません」
……のけものにされてるみたいでショックだが、二人の仲も良くなったみたいだしまあいいか。
「そうか? ならいいけど。それより2人は準備はOKか? ダメそうなら道具屋に寄ってもらうけど」
「私はバッチリよ。武器もお父様にお願いして最上級の物を揃えてもらったし」
さすが金持ちだ。
ジャジャーンと見せびらかすエリカの装備を見てあることに気づく。
「あれ? 聖剣は?」
剣がバハムートじゃない。
「私の実力じゃまだあの剣を活かしきれないから持ってきていないわ」
そういうことか。
「私も準備OKですよ!」
ほらっ! と言って持ってきた物を見せびらかすソフィア。
新しい杖と体力回復のポーションと魔力回復用のポーション。他にも探検に必要なものがバランスよく懐に入っていた。
「おぉ」
流石優等生ちゃんと準備をしてきている。
「それでリック、アンタはどうなのよ? ちゃんと準備してきたの?」
「お、おう。2人と比べるとちょっと少ないかもだけど、一応な」
2人がまさかここまでちゃんと準備しているとは思ってもいなかった為少し見せづらい。
「じゃあ見せてみなさいよ! このカバンね!」
と言ってエリカが勢いよくカバンをひっくり返した。
すると肌着とパンツ体力回復用のポーションが1つと魔力回復用のポーションが1つでてきた。
「え?」
「は?」
エリカとソフィアが困惑してか声を漏らした。
「ん? どうした? ポーションとパンツ! あと替えの下着! それさえあれば大丈夫だろ!」
「ええ、そうね! これなら安心ね! なんてなるわけないじゃない!」
「グベハッ!?」
エリカが笑顔で肯定したかと思うと顔面を蹴られた。
「ちょっとリックさん! 防具や武器は?」
「いや、持ってないが……防具に関しては制服で多少はカバーできるかなと……」
学園の制服は意外と防御力が高い。ゲームでも下手な装備を購入するくらいなら学園装備の方がマシだったくらいだ。
「それだけじゃないわよ! なんでポーションが2本だけなの!? ありえないでしょ!」
「いや、それだけしか買えなかったし」
俺ってお金ないもんね……
「この前のダンジョン攻略で報酬が出たじゃないですか! あれはどこにいったんですか?」
前のダンジョン攻略とは四天王と戦った時の事か。本来であればチュートリアルダンジョンでお金は貰えないが、マーリンが特別報酬をくれた。
多分自分の依頼であんな事になった引け目があったのだろう。
「あー、あれは実家に送ったよ」
だがその金はほぼ丸ごと実家に送った。設定資料集ではリックの家は金がないので、普段ダンジョンで得た報酬は実家に送っているとあった。
俺が送らないと、実家の家計が火の車で回らなくなってしまう。それは許せない。
憑依してしまった者の責任でもある。だから俺は全額実家に入れた。
「バカ! まずは自分でしょ! ジャン! 死の砂漠の1番近くの街に寄ってちょうだい!」
エリカは窓から顔を出して御者に指示を出した。あの人ジャンって名前なのか。
「いや、でも金ないぞ?」
「死の砂漠で得たお金から返して貰えばいいわよ!」
「いや、でも……」
「なら私達が勝手に出させてもらいます」
ソフィアも腕を組んでいて私怒ってますと言っているようだ。
「分かった、なら貸していてくれ後で返す。ありがとな」
「それでいいのよ」
「はい!」
2人とも満足げだ。
それからは意外と早く3人で話していると死の砂漠の最寄りの街に着いたのだった。
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