第25話 さようなら世界
…………俺は生きてるのか?
声を出そうにも声が出ないし、目を開けようにも目が開かない。
出来ることといえば考えることくらいだ。
……それにしても失敗したなぁ。クラウンに前魔王の話はダメだったか。
前魔王の話をした瞬間明らかに目の色変わったしなぁ。
にしても実感ねぇや。気がついたらゲームの世界にいてその世界で殺されたんだよな。
「情けない。情けないな本当に」
あ? なんだこの声。ジャミングがかかってるみたいで聞き取りにくい。
それに耳から聞こえてくるわけじゃないなんというか心に直接話されているような気がする。
「よく分かったな」
偉そうなヤツだな。何様だよ。
「何様、か。その答えに対する答えはノーコメントだ。強いて言うなら君をこの世界送った者とでも覚えてくれればいい」
お前が! 俺をこの世界に連れてきたのか!!
「ああ、そうだ」
……なんで俺だったんだ。俺じゃないとダメな理由でもあったのか。
率直な疑問だ。なんで俺だったのか。そしてなんの為に俺は幻想学園の世界にきたのか。
「それは……まだ語る時ではない。
だが、そうだな一つ教えるとすればリック・ゲインバースの死を回避しなくてはならなかったからだ」
リックの死を? だったらお前がサポートしてやればいいだろ? 俺をゲームの中に連れてこれたんだ。可能だろう?
「何回も繰り返したさ。だが結果的にリック・ゲインバースは死んだ」
……そうか。だが残念だったな。俺はもう死んだぞ? なにせクラウンの一撃で心臓を貫かれたからな。
「知っているとも。だが喜べ、お前はまだ死んじゃいない」
は? いやでも俺は心臓を貫かれて……
「ああ。お前がこうなることを知っていた。だから一度だけお前に魔法をかけておいた」
なんの魔法だ?
「禁忌魔法リザレク。聞いた事はあるだろう?」
知っている。ゲームにも登場する蘇生魔法だ。だが使用出来る者はごく僅かでマーリンさえも使用できなかったはずだ。
ってか待て、リザレクって普通死んだ人にかける魔法じゃないか?
「そうだな。だが俺のは特別仕様だ」
……こいつ何者だ? そんなことができるキャラ俺は知らないぞ。
まあいい、なら俺は生き返れるって事だな。なら俺をはやく生き返らせろ。
「……ダメだな。今のお前を蘇生させるわけにはいかない」
は? 今度はなんだ。なんで蘇生されないなんて……
「お前はこの世界の事をまだ現実だと思っていないな?」
もちろん現実だと思ってるさ。
「嘘だな。お前は心の内ではゲームの世界の話だと思っている。だからお前は自分を犠牲にしてでも誰かを救おうなんて事ができた」
…………
思わず黙り込んでしまう。その指摘が的をいていたからだ。
「まずはその認識を改めろ。いいか、元の世界でのお前は一度死んだ。これからはこの世界の住人として生きろ」
……さよなら現実世界、こんにちは新世界ってか?
……だが言いたい事は分かった。
俺はもうこの世界をゲームの世界だとは思わない。
「その言葉信じるぞ。蘇生に入るぞ」
頼む。
瞬間意識が揺らいだ。思考がどんどん纏まらなくなっていく。
「……ッ……ク…………し……て」
声が聞こえる。誰かの泣き声だ。そして頬には冷たい感触がある。
「……な……だ……く…た……ろ」
……息が苦しい。呼吸をしないと。
「カハッ!」
血が喉に詰まってうまく息ができない。
「!!」
「ペッ! はあはあ、死ぬかと思った」
なんとか喉に詰まっていた血を吐き出す。
そこであることに気づく。
ソフィアが泣いているのだ。ヒーデリックも少し目が腫れているようだ。
「なにっ!? ヤツは殺した筈だ……」
遠くからクラウンの声が聞こえる。
「やはりお前は面白いヤツだよ。リック」
マーリンも来てたのか! つまりこの2人はマーリンと合流できたのか!
改めて2人を見ると青ざめた顔をしていた。
「……ゾンビ?」
ソフィアがとんでもない事を言い始めた。
「な訳あるか! ほら見ろ、俺だよ俺! リック・ゲインバース! ゾンビみたいに腐った臭いしてねぇよ」
「……なんて事だ」
ヒーデリックも驚いている。
「ほら臭いかどうか嗅いでみろよ!」
そう言うとソフィアが抱きついてきた。
「臭いです。とてもとても臭いです」
顔を隠すように俺の体に抱きついてくる。……心配してくれていたのか。
ヒーデリックの方を見ると、ヒーデリックも安堵したような表情を浮かべていた。
確かにアイツの言った通りこの世界の人も生きているんだよな……
「貴様なぜ生きている! 確かに心臓を潰した筈だ!」
クラウンが遠くで叫んでいる。さっきの仕返ししてやるか。
ソフィアを離して立ち上がる。
「俺はなにせ不死身の男だからな! さぁこれで形成はひっくり返ったぜ、クラウン!」
「貴様、貴様、貴様ぁ!!」
さあ、第3ラウンドの開始だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます