第15話 日常

 ピンポーンとチャイムの音が鳴る。

 あー体がだるい。昨日あれから夜遅くまで魔法の練習(サンドバッグ)にされたのだ。


 だるい身体を無理やり起こし、部屋のドアを開ける。


「おはようリック! ……しんどそうだね」


 カインが立っていた。迎えに来てくれたのか。


「おぉ、おはよう。あれからアイツに扱かれてな。……すぐ準備するから部屋で待っていてくれ」


「あははは、大変だったね。それじゃあお邪魔するよ」


 カインを部屋に招き、俺は学校へ行く支度をする。


「よしっ、行くか!」


「そうだね」


 準備が終わり学校へと向かうと言っても同じ敷地内にあるので、教室棟まではそこまで時間はかからない。


「じゃあ授業頑張ってね!」


「おう、お互い頑張ろうぜ」


 俺はAクラスの教室の前でカインと別れる。Dクラスは他の教室より少し奥にあるため少し行くのに時間がかかる。


「おいっすー」


 俺は教室に入りみんなに挨拶する。すると教室のみんなが俺の元へと押し寄せてきた。


「昨日は大丈夫だったか?」

「昨日はカッコ良かったね!」

「昨日は凄かったな!」

「エリカ様に勝つなんて凄い!」


 などの労いの言葉を掛けられたが……


「だぁぁぁ! お前ら一斉に喋るんじゃない! なに言ってるかわからねぇぞ!」


 俺は聖徳太子じゃない。全員の言っている事を聞き取る事なんてできない。


「まあまあ、落ち着け。後で時間はあるんだ。またゆっくり話そうじゃないか」


 レオンがみんなを止めてくれた。


 そしてそれとほぼ同時にチャイムが鳴った。


 同時に扉が開く。


「なんだこの馬鹿騒ぎは……全員席につけ」


 マーリン先生だ。


「ハイ!」


 全員の声が重なり背筋を伸ばして、返事をする。

 勿論俺もだ。ここで逆らったらまた昨日みたいな事に……うっ、思い出したくもない。


「よし、全員席に着いたな。聞き分けがいい生徒は好きだぞ? では全員魔法練習場に向かうぞ」


 ん? 今日の午前中は魔法学基礎じゃないのか? 座学だったと思うんだが……


「マーリン先生! 今日の朝は座学だったはずですが!」


 レオンが勢いよく手を上げて質問をする。さすが真面目マン、こういう時に一番最初に質問してくれる。


「馬鹿者、魔法を学ぶのに座学なんて必要ない。座学をして魔力が伸びるのか? 魔法が上達するのか? 貴様らは理論よりもまず魔法を体に染み込ませろ」


 なるほど、一理ありそうだ。それにマーリンは賢者だ。魔法の頂きにいる人がそう言うならそうなのだろう。


 俺たちは教室を出て魔法練習場へと向かった。


「では始めるぞ、リック前に来い」


 なんで俺が? あぁ、成る程まずはお手本を見せろと言うことか。


「ハイ!」


 俺は前へ出る。しかしみんなの前で俺が魔法を披露するなんて照れるな。


「よし、では全員こいつを的だと思って魔法を放て」


 は? なに言ってやがるんだこのクソババァ。

 ふざけんじゃねぇ! 逃げるぞ!


 俺が逃げようとするとマーリン先生がパチンッと指を鳴らす。すると足に魔力の紐が巻き付いてきた。


「なっ!?」


 拘束魔法のバインドか!?


「リック、貴様はそれを防御魔法でガードしろ。シールドという魔法だ。自分の体の前に盾をイメージしろ。属性の壁は使うなよ」


「ふざけんな! なんで俺が!? 的ならそこにあるだろ!」


 俺は的に指をさした。


「貴様は属性魔法を使ってのバリアしか張れないのだろう? ちゃんとした防御魔法を覚えろ」


「他のやつらは得意な攻撃魔法でいい。ただし、全力でやれ」


 するとみんなが不安そうな顔をする。そりゃそうだろ。人に向けて魔法を打つなんてみんな初めてだろう。


「なぁに心配するな! こいつはなんてたって第2王女様に勝ったんだからな! 胸を借りるつもりで魔法を使え」


 みんなの顔がパァッと明るくなる。「確かに!」とか「これでリックを倒したら実質王女様より強いって事だよな!」とか聞こえてくる。


 ふざけんな! そんなわけないだろ!


「では……始めッ!」


 全員が一斉にこっちを見た。


 マジでやる気か!?


「シールド!!」


 イメージはマーリン先生に言われたようにだ。


 俺が魔法を展開すると全員が魔法を放ってきた。


 最初のうちは余裕だったが、どんどんときつくなってきた。


「ちょっ、マーリン先生! これいつまでですか?」


 やばいそろそろ限界だ。


「もう少し粘れ」


 とは言っても無理だ、やばい魔法が切れる。


 シールドが切れると同時に顔面に氷の魔法が飛んできた。


「ぐふっ!?」


「あっ、すまん」


 そう言って俺の前に防御魔法を展開した。が、遅すぎる一発当たったぞ!


「そこまで!」


 マーリン先生の声にみんなの魔法が止まった。




 あれから時間が経って今は昼休憩だ。

 

「食堂に行かないか?」


 レオンが声をかけてくれた。


「そうだな、じゃあリンも誘うか?」


「ああ、そうしよう」


「リン、一緒に食堂行かねえか?」


「行きたいけど、お弁当作ってきたから……」


 リンが少し寂しような顔をする。


「別に食堂で食っても大丈夫だろ、俺達はご飯注文するしな」


 レオンの方を見ると頷く。


「そ、そうかな? じゃあ私も行こうかな」


 という訳で2人を引き連れて食堂へやってきたが凄く居心地が悪い。なんというか凄い見られてる。それもいい視線ではない。


「交流試合で優勝したからって調子に乗るな」

「平民のくせに食堂を使うのかよ」


 とかの陰口も一緒に聞こえてくる。本人に聞こえていないつもりなのだろうか。いや、わざと聞かせているのか。


「リック達も今からご飯?」


 そんな事を考えていると前からエリカとカインが歩いてきた。


「まあな、そっちも?」


「ええ、それにしても有名人ね」

 

「皮肉はいいよ。そっちもご飯まだだったら一緒に食べないか?」


「ええ、私はいいわよ」


「僕もいいよ」


「リンとレオンはどうだ?」


「そ、そんなエリカ様と一緒にご飯なんて……」


「そうだな、畏れ多いよ」


「2人共昨日も言ったでしょ、様はやめて。私達はこの学園にいる間は対等な関係よ。王族も貴族も平民も関係ないわ。リン、一緒にいきましょ!」


「え、は、はいぃ!」


 そう言ってリンの手を取りエリカは歩き出した。リンは緊張しているようだが、どうにかなるか。


「じゃあ俺達も行くか」


「そうだね」


「あ、ああ」


 俺達はそれを追うように着いていくのだった。

 

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