第14話 新担任
「知らない天井だ」
まさかこんなセリフを吐く日が来るなんてな。
それにしてもどこだ? そうかここは保健室か。思い出した、俺はエリカとの決闘が終わって気を失ったんだった。
そんな事を考えているとカーテンがガバッと開いた。
「アンタ目が覚めたの!?」
エリカだ。後ろにはカインにリン、レオンもいた。
「お、おう。ほれ、この通り」
体を動かして大丈夫だと証明する。
「よっかたぁ」
エリカがホッとした顔をした。なんでそんなに安心しているんだ? ただ倒れていただけだろうに。
「リック君は瀕死の状態だったんだよ」
俺の表情を読み取ってかリンが教えてくれた。
「えっ、そんなに?」
「そうだよ! 頭から血を流しているリックが死ぬんじゃないかってヒヤヒヤしてたよ」
カインの説明を聞いてもあまりピンとこない。頭をさすっても傷跡のようなものは残っていない。
「俺達が保健室に行く前にあった女性がいただろう? あの人が傷をなおしてくれたんだ」
「あいつか! あのクソババァ、マジで次あったら泣かせてやる。俺の事を放置しやがって……」
「ハハハハ」
カインが頬をかき引き攣った顔をしている。それよりも気になるのはエリカだ。先程から下を向いて顔色も悪いようだ。
「それよりエリカは大丈夫なのか? 結構傷ついていただろ?」
「え、えぇ。大丈夫よ。私の傷は浅かったし……そ、その……」
なんだ? 下を向いて申し訳なさそうな顔をしている。
あっ、もしかして暴走して俺が死にそうになった事を後悔しているのか!
「エリカ、貧乳とか言って悪かった」
俺は深々と頭を下げた、俺から見れば気にする程の事ではないと思うが本人からしたらコンプレックスだったのだろう。
「べ、別にいいわよ」
「でもな、エリカこれだけは言わせてくれ。お前のおっぱいは標準なんだ。大きすぎる事もなく小さすぎる事もない。むしろ俺はそれぐらいのおっぱいが好きだ」
エリカの顔がどんどん赤くなっていく。そして体はワナワナと震え始めた。
「まあなにが言いたいかって言うと……ナイスおっぱい」
俺はサムズアップをしてエリカに笑いかけた。
「ウガァァァ!!!」
「グヘラッ!」
エリカ渾身の右ストレートが俺の頬に刺さった。
「俺は怪我人だぞ! 落ち着け! お前らも見てないで止めてくれ!」
「今のはリックが悪いよ」
カインの言葉を聞いた2人はうんうんと頷いている。
「入るぞー」
そんな事を話しているとクソババァが入ってきた。近くで見て改めて思う顔とスタイルはいい。
まあそれでも俺は許さないけどな!
「リック・ゲインバース、お前の周りは賑やかだな」
「なんで何事もなかったかのように入ってこれるんですかー? 俺、アンタのせいで死にかけたんですけどー?」
早速イチャモンをつけてやる。
「だから治してやっただろ? それに死にかけたのは貴様が弱かったからだろう」
ムカッとくるが言い返せない。俺が強ければこんな事にはなっていなかった。
「つーか誰なんですか? 勝手に部屋に入ってきやがって、学園の関係者ですかー?」
「ん? あぁ、アタシの名前はマーリン・ライトスだ。一応、強欲の賢者とも呼ばれている」
マーリンっていたのか? しかも強欲の賢者だと? そうか彼女がマーリンか。強欲な賢者のマーリンね。
「生意気な態度とってすみませんでした」
すぐに土下座する。ベッドに頭をめり込ませる。
こいつがマーリンだったとは思っても見なかった。でもそれで見た事があった理由がわかった。
この世界には賢者と呼ばれる、魔法使いのトップが7人存在する。それぞれ七つの大罪がモチーフとなっており目の前にいるマーリンは強欲担当という事になっていた筈だ。
ゲームでは名前とイラストが何回か出てくるだけだったので覚えてなかったが、1人1人が化け物級に強かったはずだ。
「そう畏まるな。アタシが疲れる」
そう言われて頭を上げる。怒ってはないようだ、良かった。賢者が本気を出せば俺なんて速攻で消されるだろう。
でも待て、なんでそんな人がこの学園に居るんだ?
「分かりました、それでマーリンさんは何故学園に?」
「なに、面白いヤツがいないかと思って見にきただけだ。だがその甲斐はあった。貴様だよ、リック・ゲインバース。
平民なのに貴族と同等もしくはそれ以上の魔力を持っている。まあここまでなら偶々であり得る話だが、最後に放った暴走魔法。あれは暴走魔法が出せるとわかって発動したな? 何故あの場面で出せると思った?」
確かに俺は暴走魔法が出せると心の中では確信していた。だが本当の事を言うわけにもいかない。ごまかしてみるか。
「いやー、マグレっすよ?」
「嘘だな、お前の目は確信に満ち溢れていた、あの絶望的な状況でエリカを倒すつもりでいたな」
ぐっ、なんて洞察力だ。
「そ、それは……」
「まあいい。別に今理由を聞かなくてもいつでも聞けるからな」
「……なんでですか?」
まさかここに居座るつもりなんじゃ?
「アタシが貴様のクラス、Dクラスの担任になったからだよ」
「えっ、嘘だろ?」
俺はリンとレオンの方を見る。
「本当だ、もう他のみんなには挨拶も終わっているぞ」
レオンが答えてくれる。
「いや、リンガー先生は?」
「アタシが担任を変われと言ったら喜んで変わったぞ」
あぁ、元々平民の担任とか嫌だったんだろなぁ。
それにあの人力が上の人に対して弱そうだし。
「いやでも学園長は?」
「アタシがこの学園の教師をやるんだ。喜ぶに決まっているだろ。ただDクラスの担任をしたいと言ったら嫌な顔はされたがな」
……確かに。賢者が学園の教師なんて学園からしたら願ったり叶ったりだろう。
「……では明日から楽しみにしているぞ。くれぐれも遅刻をしないように」
そう言って部屋から出ていった。
……と思ったら帰ってきた。
「そういえばリック、アタシに向かってクソババァとか呼んでいたな」
「は? いや、でも、あれは俺も切羽詰まってて……」
覚えていたのか!? まずいこのままじゃ……
「言い訳は聞かん。他の生徒より先に少し教育してやる」
そう言ってマーリン先生は俺の首根っこを掴む。
「いや、俺、怪我人! 労って!」
「アタシが治したんだ。もう完全に完治しているだろう。さっ、行くぞ」
俺はそのままズルズルと引きずられる。
「みんな助け!」
全員が一斉に顔を伏せた。
「この薄情者!」
「なぁに怖がるな、また怪我をしても治してやるさ」
ニタァと暴力的な笑みを浮かべるマーリン先生に思わず身震いしてしまう。
「暴力反対! 暴力反対!」
俺の抗議なんて知った事じゃないと言わんばかりに俺はそのまま引きずられていくのだった。
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