第2章 聖女様のお腹は純白ではなく真っ黒です
第16話 新たなヒロイン
あれから数日の時が経った。俺の生活も特に変化はなく貴族からは疎まれ、マーリン先生からは雑な扱いをされている。
少し変わった事があるとすればエリカがDクラスに来るようになったことぐらいだろう。
休み時間に俺やリンと話しに来て、授業が始まるとAクラスに戻っている。本人が言うには貴族と話すのは色々としんどいらしい。
そして今、俺がなにをしているかと言うとマーリン先生に雑用を押し付けられている。
昼からの授業で杖を使うから魔道具置き場から10本ほど取ってこいと言われた。
勿論断ろうとしたが断ったら愛の指導(サンドバッグ)にされそうで怖くて言い出せなかった。
「ゴホッ、ゴホッ! 埃っぽいな」
杖が置いてある部屋に来たはいいが全く使われていないみたいだ。埃が溜まっている。
まあこの学園では杖のような魔道具が使われることはないだろう。
魔道具とは魔力が低いものが補助の使うアイテムであると一般的には見られているからだ。
この学園の生徒の殆どが貴族でプライドが高い。魔道具を使っているところなんて見られたら、まず間違いなく笑いものにされるだろう。
「あった、これか」
そうこうしている内に杖を見つけた。10本ほど借りる。
それにしてもここら辺は静かだな。使われていない教室ばかりだからだろうか。人通りも一切ない。
そんな事を考えていると声が聞こえてきた。女の子の声だ。
「ん? どこだ?」
耳を澄ませながら声がした方へと歩いていく。
「あー、本当に人ってバカですね。ちょっと微笑むだけで聖女様万歳ですからね」
この声聞いたことあるぞ。もしかして……
声のした教室の扉は少し空いていた。
ちょっと覗いてみるか。
扉の隙間から中を覗くと金髪ロングの美女がいた。綺麗な金髪をくるくると手で回しながら独り言を言っている。
「これもまた神の導きです。って言った時のみんなのあの顔といったら……ぷっ、今思い出しても笑えてきますね」
間違いない。彼女は俺たちと同じ一年生でクラスはCクラス。
また救国の聖女と呼ばれ、貴族、平民から熱い人望を持っている。
何故、交流試合に出なかったのか? 多分Cクラスの代表が彼女じゃなかった理由は聖女様に戦わせることなんてできない! とかだろう。
さらに言えば彼女は攻略可能なヒロインである。エリカは高飛車なお嬢様タイプだが、彼女は腹黒系聖女だ。
でも彼女の本性を知るのはかなり親密になってからだ。それまで数多くのプレイヤーは慈愛に満ち溢れた聖女様だと思っていたはずだ。俺もそうだった。
あざとい行動の数々も優しさに満ち溢れた行動も全て彼女の演技だった時には一回は絶望したものだ。
でも段々とそれがいいって気持ちに……ってそれは関係ないか。
早急に立ち去ろう。主人公であるカインが彼女の本性を知った時には彼女からの一定の信頼があったからまだ許してもらえた。
もし、なんの関係もない俺がこの場面を見だなんて知られたら……考えただけでも恐ろしい。
くわばらくわばら。触らぬ神に祟りなしだ。
「ぐへぇ」
俺が立ち去ろうと後ろを向いた瞬間何かに首根っこを掴まれた。
「あのぉ……どこまで聞いてました?」
首を掴まれた状態で後ろを見ると満面の笑顔をした聖女様がいた。
「な、なにも聞いてないです。杖を取りに行けって先生にパシられて……」
俺は咄嗟に言い訳をする。そしてほらっと持っている杖を見せた。
「へー、そうなんですか。ところで私って人の視線に敏感なんですよ。理想の聖女様になるにはいつ見られてもいいようにしないとですからね」
「いや、マジっすよ! 本当にたまたま偶然!」
「あれを見てください」
聖女様が指を刺した方向を見ると天使? のような人がいた。羽は生えていて頭の上にはリングもあるが、見た目が明らかに天使ではない。むしろあれは悪魔と呼ぶに相応しいだろう。
「な、なにあれ」
あんなの見たことないぞ。
「私の召喚獣です。まっ、普段は回復魔法しか使いませんが私、召喚魔法も得意なんです。……何を言っているか分かりませんよね」
ああ。本当に何を言ってるか分からないが、一つだけわかることがある。とにかくヤバいと言うことだけは分かる。
「彼が私の独り言をリック君、貴方が聞いていたと言っているのです」
ま、まずい。この事は彼女が1番知られたくない秘密のはずだ。このままじゃ消されるかも。
「お、俺の名前知ってるのか。それとさっきのことは悪かった。嘘ついてごめん。だから許して」
「ええ、知ってますよ。有名人ですから。その回答についてですが答えはダメです。そして嘘をついた人には天罰が降ります。そうでしょ?」
は? なにを……
「ガハッ」
さっきまで遠くにいたはずの天使に腹を殴られる。
「……カ……ハ……」
ダメだ呼吸がうまくできない。
「では、良い夢を」
彼女はこれぞ聖女と言うような慈愛に満ちた笑顔を俺に向けた。
そこで俺の意識は途絶えた。
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