これはとある会社のお話です

いずも

社会人に休息なし

 うちの会社はいつも明かりが点いている。


 といっても24時間開いてるコンビニみたいなお店ではない。

 単に営業時間が終わった後は夜間の人が来て、荷物の受け入れなどを行っているだけだ。

 深夜に大型のトラックが入ってくるので常に敷地の出入り口は開いてるし、いつも明かりがランランと輝いている。


 その昔、会社に忘れ物を取りに戻ったことがあるのだが、深夜のオフィスといえばどこか不気味で深夜の学校並みに何かが起こりそうな雰囲気があるものだ。その点弊社と言えば真夜中でも工業地帯であるかのような明るさなので問題ない。

 誰でも素通り出来てしまうのはセキュリティ的にどうかと思うが、ただの一社員が気にするようなことではない。


 流石に事務所内は真っ暗――かと思われたが、何故か明かりが点いている。

 まあ夜間の人がいるし仮眠しているのだろう。そう思って静かに事務所内の扉を開く。


 するとそこに居たのは自席で作業している先輩。

 こちらに気付いたので声をかけると

「ちょっと終わらせておきたい仕事があって。もうすぐ帰るわ」

 翌日もいつもどおり出社して仕事をする先輩はタフだなと思った。



 労基署から是正勧告があったらしく月の労働時間が改善されて出社時間が一時間遅くなった。まあ就業時間の一時間半前から仕事するんなら就業時間って何だよって話だ。



 その日は一日有給を取っていたが、どうしても日々の業務というものは発生するもので、誰かに任せるのも億劫で早朝出社してさっさと終わらせて帰ろうと考えた。

 そこで、普段より一時間以上早く出社したらすでに事務所は開いてるし、残業のつかない時間帯にも関わらずみんな普通に仕事をしている。

 曰く「この時間から始めないと間に合わない」と。



 政府が働き方改革を推進する前に指針としていたのが『各業界で完全週休二日制の導入』だった。単純に一年を54週として、年間の休日108日を目標として掲げたのだ。業界によってはさらに上の数字を目指している。

 そんなわけで弊社も完全週休二日制に移行した。

 まさか本当に実現するとは思ってなかったので驚いている。


 そんなわけで日曜は休みなのだが、どうしても間に合わない仕事があって休日にこっそりと出社して片付けようと会社に向かう。

 当たり前のように課長がいる。人が居ない方が邪魔されずにのんびり仕事が出来る、と笑いながら言う。


 別の部署の社員も出社している。近づいてみると書類整理をしているようだ。

「営業時間内にはこんなこと出来ないから」

 そうなのか。よくわからないがそうなのだろう。



 とうとう弊社の24時間素通り管理システムにもメスが入った。

 納入業者と時間の調整をして、夜間は完全に閉鎖しようという話になった。

 今まで24時間開けっ放しだったので何も疑問に思わなかったのだが、なぜほぼ人のこない真夜中に無駄な電気代を使ってまで開けていたのか意味がわからなくなる。今話題のSDGsについて弊社も取り組んでいるのだ。偉い。

 当たり前? その当たり前のことが出来ない企業がどれほどあることか。



 そんなわけでうちの会社はいつも明かりが点いている。

 え? 話が違う?


 うん。どうしても道路の事情によって深夜に到着する荷物があるからその時期は仕方ない。深夜の高速を走っているとトラックばかりだろう。事情はわかってほしい。


 そして来た荷物を片付けなければならないから出社する人間がいる。これも当然の流れだ。


 荷物が来たなら商品が欲しいとやってくる取引先がいる。商品の到着時間はだいたいいつも同じなので同じ時間帯を狙ってやってくるのは仕方ない。時は金なり。


 そんな彼らの相手をしていたら早朝出社組がやってくる。

 ああ、仮眠する時間もない。


 そしてなし崩し的に仕事の段取りに取り掛かる。

 いつもどおりの一日が始まるのだ。



 だからうちの会社はいつも明かりが点いている。

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