第14話

祖母



朝が来ると二人は森を出て、ダンジョンの町に向かった。


翼竜は朝が来る前にいなくなっていて、目の前に沢山の天女草の山と金魚尾草、赤霊芝、貴重な鹿角霊芝が置かれていた。


それらを回収した後、武闘狒々に送られて森を出た。


ダンジョンの町に戻ると、門の前でイソイチ達が出迎えてくれた。


店に戻り、シナンを手伝って薬草の処理を手伝う。


「シナンさん、翼竜サン金魚尾草をいっぱいくれたんでしょうか、毒草って知らないんですかね」


首を傾げる。


シナンは天女草を丁寧に魔術で20度で乾燥させながら、フフフっと笑った。


「金魚尾草は先の赤い部分だけを切って処理すると滋養強壮の効果があるんだよ、私の学友が教えてくれたんだよ、スヴァルにも教えてあげようね、所で魔術はどれだけ使えるんだい」


「いいえ、全く使えません、剣術だけです、魔力を操作だけなんですよ」


「そうなのかい、じゃあ私の薬術教えられないじゃないか」


シナンは肩をガックリと落とした。


「じゃあ、魔術を使わなくても使える薬草を教えてあげようね」


その日から、シナンの授業が始まった。

日が経つにつれてスヴァルはソワソワして上の空になることが多くなった。


「どうしたね、スヴァル」


お店の裏手にある縁側に座ってぼんやりと外を眺めているスヴァルの隣にシナンが座った。


「今日イソロクさんとアルが頑張って作っているイイモノが出来るんですよね」


悲しそうな顔をしたまま無理やり笑った。


「スヴァル、嫌なら行くのを辞めな」


眉を寄せて顔を歪めて俯いた。


「スヴァルや、そのままで戦ったら私の兄みたいに亡くなるよ」


「お兄さん戦で亡くされたんですか」


「あぁ、気の弱い優しい兄だった」


シナンが遠い空を見上げた。


「そうですか、お辛いことを聞いてしまってすいません」


「いいさ、気にしてないさ、この島一番強い剣豪が何を気にしていなさる」


シナンが中腰になってスヴァルの頭を撫でた。


「それは、もう5年以上前の話ですよ、あのう、何時から私がコトノハだって気がついていらしたんですか? 」


「初めからだね、あんたが小さい頃から見ているんだから分からないはずがないだろうが、良くうちに駄菓子を先代巫女のセンノハ様とウチに買いに来ただろ」


「そうでしたか」


あの頃の苦々しい気持ちを思い出していた。


「何を悩んでいるんだい」


ため息を一つついて肩をガックリ落とした。


「私、お祖母様の言いつけで幼学舎にも、小学舎にも通っていないんです。


なので私、魔術が全く使えなくて。


それに、ヨツバちゃんが死んでしまったのは、私のせいで、ミツバちゃんは私を恨んでいるかもしれない。


でも私、ミツバちゃんのことをお姉ちゃんのように思っているんです。


私、ヨツバちゃんに嫉妬していたんだと思います。」


いつの間にかももの上で作った握りこぶしに涙が落ちた。


シナンがスヴァルの横に座って背中をさすった。


「そうさねぇ、、、。


あの試合は会場にいた誰もが息を吸うのも忘れるくらいの素晴らしい試合だったと思うよ、センちゃんも生きてたら誇りに思うだろう。


センちゃんは、言ってたよあの子は、器用な子じゃない、ひとつの事をやらせた方が巫女として強くなれるって。


それにまだ、6歳の子が魔法を使う数十人の野盗をたった一人で打ち負かしたんだって自慢していたよ。


私とセンちゃんは女学舎の頃からの親友でね、よく店にスヴァルを自慢しに来てたもんだよ。」


シナンが懐かしそうに目を細めて続けた。


「センちゃんは次女だったろ、女学舎の頃にお姉様の先先代のコトノハ様が刺客に襲われて亡くなったんだ。


なんでも魔術に気を使いすぎて、剣術が疎かになったらしいんだよ、その事があってからセンちゃん魔術に不信感があってねぇ。

目の敵にしていたから、あんたをどうしても死なせたくなかったんだろうねぇ」


「そんなことがお祖母様にあったんですね、知りませんでした」


ーー祖母は私を大事に思っていてくれたんだ。


ポタポタと涙がおちる。


そこにドタドタと近づく足音がして、急いで涙を手で拭った。


「嬢ちゃんここに居たのか、探しちまったぜ、来てくれ出来たんだ。」


イソロクは不精髭を生やし目をらんらんとさせやり切った清々しい顔をしている。


「イソロクあんた、気持ち悪いね」


気持ち悪い佇まいのイソロクをシナンが睨んだ。


「ばぁちゃんひどいよー」


イソロクのズボンの裾をアルが引いた。

イソロクはアルを見て思い出した。


「そうだ、嬢ちゃん来てくれ、イイもんが出来たんだ」


「はい、イイ物が出来たんですね、とっても楽しみにしていたんです」


イソロクとアルに引かれて工房に行き戸を引くと、そこには赤い甲冑があった。


ポカンと口を開けて、手で顔を覆った。肩を揺らしてクスクスと笑った。

満開の咲いた花の様に笑った。


「ありがとう、、、。ありがとうございます、こんなに素敵な甲冑を貰っていいんですか」


「あぁ嬢ちゃんに貰ってほしいんだ、これは嬢ちゃんが倒した赤鬼の素材で作った甲冑なんだ」


ーー甲冑を着て城に乗り込むのはちょっと痛いけど嬉しい。


「ありがとうございます、これを身に着けて、、」


ギュっと目を瞑って、自分に言い聞かせるようにウンと頷いて、顔を上げた。


「戦いに行ってきますね」


真剣な目でイソロクを見た。


イソロクは頭を掻きながら、少し口角をあげて嬉しそうにした。それから困ったように眉尻を下げた。


「嬢ちゃん、これは俺たちからの礼だ、無理にこれ着て戦わなくてもいいんだ。

もちろんこいつを着て戦いに行ってもいいが、俺は嬢ちゃんに死んでほしくないんだ。

俺が付与できる魔法を甲冑に仕込んであるからそう簡単に嬢ちゃんを傷つけたりしないが、戦いに行かないのが一番だ」


「うん、ありがと、私が元気じゃなかったから、気を使わせてしまいましたね」


ふにゃっと笑う。


「なんだその、この甲冑を嬢ちゃんの子供とか出来たらスッゴイことをしたお礼で貰ったって言えばいいんだ」


イソロクが自慢げに胸を張った。


「何自慢げにしてんだい、お前は何もやってないじゃないか」


シナンがイソロクの背中を叩いた。


「わぁ、痛った、叩かなくったっていいじゃないか」


「気持ち悪い顔のお前が悪い」


「ひでぇなぁ、ばあちゃんこの顔は生まれつきだよ。


あぁ、そうだ、嬢ちゃんコレ、アルから」


イソロクがピンク色で直径5㎝の珠の付いたブレスレットを差し出し渡した。


「これは?」


「あぁ、この甲冑を仕舞っておくための魔術具だ、まぁ、俺が魔法陣を珠に描いてブレスレットを作ったんだがな」


「なんですかぁ、もう、イソロクさんが作っているじゃないですかぁ」


「ほんとだねぇ」


シナンと顔を見合わせて笑った。


ブレスレットに甲冑を仕舞って母屋に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る