第11話
バァル湖の森
次の日の朝
スヴァルとシナンは朝早くから起きだしてふたりそろってバァル湖に向かって北に進んだ。
翼竜が嫌う白い服にシナンは杖を突き背中には大きな竹籠を背負っている、スヴァルは白いパーカーのフードを目深にかぶってトランクを背負っている。
石畳のほとんどが割れてそこから雑草が伸びている。その道を歩いているものは少なく、追い越す者も先を歩く者も表情は暗く皆疲れているようだ。
バァル湖はオッソの町とマギナスホールのダンジョンの中間あたりにあり、3時間位の道のりだ。
しばらくこの道を歩いていると、後ろから規律正しい大群の足音が聞こえて来た。
100人程の兵がズンズンとスヴァル達を追い抜いて行ってしまった。
「あの旗はオッソ領の南に位置する鹿尾族ケルウス領の旗かい、やけに少ないねぇ」
シナンが振り向きながらスヴァルを見た。
青に鹿の角のシンボルが、描かれている。
「そうですね、オッソ領主の二女エリエーニ様の嫁ぎ先の侯爵領の旗ですね、オッソ領を統治するのでしょう、あの規模じゃ先遣隊でしょうか?」
「なんでだい、オッサの連中はオッソの城を占領しなかったんだい、まさか領主様はこのことを見越して、ウルスス様の御神体をケルウス領主に渡しておいたのかい」
シナンが、目を見開いて驚いている。
オッソ領、オッサ領では御神体を祀り、代々受け継いできた。
御神体がなければオッサ領オッソ領を例え領主を殺しても領地を奪う事は出来ない。
破国神ウルススが、認めないと言われている。
「多分先月領主様がケルウス領に行かれた時にエリエーニ様に渡しておいたのでしょうね」
「領主様も大胆なことをなさる、御神体を領主城から動かすなんて、ただ、オッサ領の連中に支配されるより、健全に領地を治めているケルウス領の領主様なら安心できるよ」
シナンが前を歩きながら肩をガックリと落としていた。
「きっと大丈夫ですよ、シナンさん」
「あぁそうだね
、、、私はオッソ領主様に治めていてほしかったよぉ」
シナンがぼそりと呟いた。
「何か言いましたか?シナンさん」
「イイヤ、何でもないよ、さぁ先を急ごう。」
「そうですね」
しばらく石畳の道を進み丘を登ると、遠くに湖が見える。
丘まで来るとシナンが道をはずれて森にズンズンと入って行ってしまった。
スヴァルはシナンの後を追って森に入った。
森に入って数mした所に1m50cm程の紫色の水晶が設置されている。
その水晶の上部が平らで、そこに六芒星が彫られていて、六芒星の中心に鬼の爪がはめ込まれている。
その水晶が森を囲んで等間隔に設置されていた。
シナンはその紫色の水晶の横に立ってスヴァルの方に振り向いた。
「さあ、ここから危険な森だよ、鬼の爪を首にかけな」
スヴァルも頷いてトランクから鬼の爪を取り出して、首にかけた。
イソロクさんに鬼の爪を首にかけられるように加工して貰ったものだ。
魔力の増強する紫色の水晶と生き物が嫌う鬼の爪で森の中の生き物の生息域を限定していた。
森に生きる生き物は、この紫の水晶と鬼の爪には近づかない。
森に入る者は鬼の爪を持っていないと森の生き物が次々と襲って来るのだ。
鬼の爪を持っていれば、大きな爪を持ったウサギのタイタンクローラビットや、毒を持った鼬のポイズンガレー、木に擬態するアルマジロ、デンドロンタイタンブラニーノス
など沢山の生き物はこっちが襲わない限り襲ってはこない。
ただ、強いものに挑む習性を持つ怪力の狒々と己を最強と疑わないニシキヘビは、鬼の爪を持っていても襲って来る。この二匹も夜行性のため日のあるうちに森に入れば問題ない。
「~のはず、そのはずなのに、なんで?」
スヴァルとシナンは狒々の群れに襲われている。
立ちはだかった数匹を峰打ちで倒したら、どんどんと増えていき、で、今に至る。
隣で腕を組んで走っている、シナンがウンウンと頷いている。
「そりゃぁねぇ、武闘狒々だしねぇ、今通っているのが狒々たちのナワバリだからね、始めに私が殺しちゃいけないって言ったんだけどさぁ、、、。なんだろうね、やりすぎだねぇ」
シナンはもう何だか呆れている。
樹上には枯れた大きなウツボカズラで出来た武闘狒々達の住処が無数にぶら下がっている。
「えーっどうしたら良かったんですか?」
「んーーそうさねぇ、ギリギリで勝てましたって位に勝てば、良かったかねぇ、でも大丈夫さ、そのうちどうにかなるさっ」
シナンが言い終わると同時に、目の前に ドン と追いかけている狒々たちより一回り大きい狒々が立ちふさがると、追いかけていた狒々たちが大きな狒々と私達を、あっという間に囲まれてしまった。
「この狒々にギリギリで勝てばいいんですか、シナンさん?」
隣にいるシナンを見ると、シナンの姿はなく、取り囲んでいる狒々に交じっていた。
「この狒々は群れのボスだ、がんばりなーー」
シナンは手を振りながら大声で叫んだ。
「えーーっそんなぁ」
そこにボス狒々の腕がスヴァルのいる場所に伸びて来た。
ふぅと息を吐いて一気に跳躍した。
次の瞬間ボス狒々はそこに倒れていた。
「なっ何をしたんだい」
シナンが目を見開いて驚いている。
「えーーっと、ジャンプして後ろを取って首に一撃を入れただけですよ」
首を傾げた。
すると、狒々たちの群れがササっと割れて道が出来る。
スヴァルとシナンが歩き出すと頭にコブのある2匹の狒々がついて来た。
ーー私がはじめに倒した狒々だぁ
「シナンさん、後ろの狒々が付いて来てますよ」
シナンがチラッと後ろを振り返った後、スヴァルをみた。
「あぁ ボスを倒したから護衛がついてきたんだね、この森の中だけだから安心しな、ただし、あの狒々たちに何かあげてはいけないよ、主従の契約を結んだことになるからね」
「ご飯あげちゃだめですか?」
「当たり前だね」
「名前もダメですか? 」
「あの狒々を一生面倒を見るつもりかい、あいつら飯をやたら食うし、主従関係を結んだら飯は主人が用意するものだって言う習慣があるからね、その代わり戦闘になったら強いよ、どうだい1匹、飼ってみるかい」
後ろを振り向いて自分より大きくごつい顔の狒々と日々を共にしている想像をして、ゾッとした。
「可愛い生き物がいいです」
シナンがヤレヤレと首を振ってフッと笑った。
「そうかい」
「そういえば、何で武闘狒々を殺さないように言ったんですか? 」
ん? スヴァルをチラリと見た。
「あいつら執念深いんだ。特に母狒々は、何年でも待って殺した奴の子供が出来たら殺しにくるんだよ、スヴァル、気をつけるんだよ」
コクコクと頷いく。
「絶対殺さないです」
肩を抱いて震えた。
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