第10話

戸籍紋章のイロハ




その後、朝日が昇りシナンの宿で昼まで寝た。


「おはようございます」


「おう、起きたのか、もう昼だがな」


居間に行くとそこには、イソイチが足を引きずりながら、碗や箸などを用意していた。


「はい、皆さんはどうしたんですか?」


「ばあちゃんは、台所で昼の用意だ。イソジとイソゴ、イソロクは、昨日の片付けだな、、、。


そのぉ昨日は悪かったな、あんたを疑ったりして、

一昨日の夜、うさぎ耳の奴らがダンジョンに蠢く何かを持ち込んだのを見て、あんたもソイツ等の仲間かと思っちまった。


あんたのおかげで、ばあちゃんとイソロクは、助かったんだもんな、

ありがとうよ」


「気にしてないよぉ、みんな無事で良かっねッ」


へにゃっと笑って照れくさくて耳を撫でた。


「ばあちゃんとイソロクの命の恩人にこんなことを頼むのは忍びないんだが、あの大量の魔石と素材の3分の1を譲ってもらうことは出来ないだろうか?この町の再建に当てたいんだ。」


イソイチが昨日の魔獣の魔石や素材のリストを渡して拝みこんだ。


「うん、いいよ」


ペラペラとリストを眺めながら酒琥の魔石があるのを発見した。


昨日倒した魔獣の群れの中にいたらしい、酒を呑んだ様な酔っ払った動きで攻撃してくる虎の魔獣だ、マギナスホール4階層ではかなり強い魔獣で、酒琥の魔石を酒に漬け込むことで酒宝珠を作ることが出来る。


「そうかぁ、、。ダメだよなぁ。

頼む4分の1でもいい」


「なんなら私、天女草をとるのに必要な鬼の爪と酒宝珠を幾つか貰えれば」


「って、えーーーっ いいのか、本当に助かる」


シナンが台所からお盆にご飯を乗せてやって来た。


「天女草を取りに行くのかい?なら金魚尾草に気をつけな、金魚尾草は、猛毒だ、天女草の2つの花弁が天女の衣のように見える。対して金魚尾草は、額の部分がヒラヒラして一見天女草に似ているが額の先端が赤いんだ見間違えるんじゃないよ」


「はい、大丈夫だと思います何度か取りに行ったことがありますから」


食卓にご飯、汁物、おかずがどんどん並べられ昼食の準備が整うと、イソイチが外で作業をしている2人と1匹を大声で呼んだ。


イソロクがスヴァルの顔を見るなり腰を90度に曲げて謝った。


「すまねぇ嬢ちゃん」


「どうしたんですか、イソロクさん」


首を傾げて聞いた。


「スマン、一番いい魔石をアルに取られちまったんだ」


「そうだったんですか?昨日からアルとジャレていましたよね。

私に謝ったってことは私に魔石を渡そうとしてくたんですね、ありがとうございます、では、一度渡したとして、私からアルにあげたことにすれば丸くおさまりますね」


にこりと微笑むと、イソロクがチラリとスヴァルを見てから苦笑して足元に居たアルを抱き上げて撫でた。


「イヤ、それなんだかアルが嬢ちゃんを守るって言う話に落ち着いたんだ、その対価に魔石が欲しいってジェチャーで会話してな、喧嘩よりジェスチャークイズの方が難しかったぜ」


イソロクが肩を落としてヤレヤレと首を振った。


「アルと相談して嬢ちゃんにはもっといいもんを用意してやる事にしたんだ、それを用意するまで、7日、いや、5日で用意する、だからその時間を俺にくれないか 」


イソロクが90度に腰を曲げた。


「イイ物を私が貰っていいんですか」


イソロクがコクコクと首を縦に振った。


「俺やばあちゃん兄貴たちを救ってくれたお礼をしたいんだ」


「皆さんからたくさんのありがとうを貰っているので、この上何かを貰ったら貰いすぎになってしましますよ、

でも、一番いい魔石よりイイ物が気になるのでぜひお願いします」


スヴァルも90度で腰を曲げた。


「任せてくれ」


イソロクがドンと胸を張った。


「ほれ、そこの二人席につきな、お昼だよ」


「はーい、いただきます」


ーー戦火の街を見た時から、こんなほのぼのとした時間を過ごすことなんて出来ないと思ってたのに、今こんなに気持ちが暖かいなぁ。


お昼ご飯を食べた後のお茶を飲みながらほのぼのとしていた。


シナンがスヴァルに向き直った。


「あんた、5日ここに留まるのかい」


首を横に振った。


「いいえ、これかバァル湖に行く予定です」


ウンウンとシナンが頷いた。


「スヴァルや、天女草を取りに行くんだろ、じゃあ私がバァル湖の取っておきの場所を教えてあげようね、道中の護衛は頼んだよ、明日の朝に出発だ、いいね」


スヴァルがペコリと頭を下げた。


「お願いします」


シナンが、パンパンと手を叩いた。


「じゃあ、お前たち午後はダンジョンに潜って鬼角末逆牛と鬼面翁魅牛を狩っておいで、今だったら簡単に6階層の草原地帯に行けるはずだ、イソロクもついて行って、地上と6階層を繋ぐ転送魔法の宝珠が動かせるか見てこられるかい、イソイチは魔石や素材の仕分けをしな、その足じゃ歩けやしない」


イソロクとアルが嫌そうな顔をした。


「おれ工房に篭もりたいけど、兄貴たちは魔術具の修理が出来ないからしかたないなぁ。

まぁ、俺は戦うのはァ、カラッキシだから仕方ねぇ、転移魔法の宝珠の修理だけならやるよ」


ガックリと肩を落としてイソロクの膝の上に居るアルを力なく撫でた。


「イソロクはオッソ領の魔術具師紋章 ロのイ位5番だからなかなかの腕なんだよ、俺とイソジとイソゴはオッソ領剣客紋章イのハ位200番と205番と250番だ」


剣客はダンジョンに潜ったり、剣の腕を買われて護衛などをする人だ。


イソイチの話を聞いていたイソゴが目をキラキラさせて話し出した。


「旅人のスヴァルさんは知らないと思うが、戸籍と言えば、所在地の領の中で職業の紋章ランキングがあるんだ。

紋章証は、2年に1度昇級試験を行って位が与えられている。


イが一番上でハニホヘトと下がって行くんだ。

1つの位の中に上からイロハと位があって、その後に順位が着いているんだが、


オレのばあちゃんはオッソ領薬術士紋章イのイの5番なんだよ、これがどれだけ凄いことか分かるか?


上に居る4人はオッソ領主城に居る、うさ耳族のアマシロの方々だけなんだ。

オッソの街に居る薬術士の中ではうちのばあちゃんが一番なんだよ、うちのばぁちゃんかっけぇだろ」


イソゴの鼻息が荒い。

イソゴが、ハッとなり顔を真っ赤にして俯いた。


オッソ領薬術士紋章イのイ位1番は母で、カナエ叔母様が4位だ。


「オッソ領イのイ位、、、薬樹堂のおカミさんだったんですね、シナンさん」


「旅の人もオッソ領のしがない薬屋を知っているのかい」


「えーっと、ゴジョウさんの道場で噂を聞きました、とっても有名ですよ」


ーーそうだ、私フロティス国出身にしているんだった。


イソロクはポンと手を打った。


「ゴジョウアマシロと言えば、ベアード島剣豪紋章イのイ位2番の方だな、数年前に大陸に武者修行に出て、

フロティスの国に道場を開いた人だぁ。


イのイ位1番はコトノハアマシロは、ウルスス神社の巫女様だったなっ、

島で1番有名な剣豪だよ。


スヴァルさんもダンジョンに潜りながら武者修行なんだろ、なら、イのイ位1番のコトノハ巫女様に修行をつけて貰えればいいのになぁ」


「何、馬鹿なこと言ってんだよ、巫女様がこんな所を歩いている分けないだろ、全くうちのバカ息子共は、昼食べたらササッとダンジョンに潜りな、牛が狩れたら今日はすき焼きだ」


その言葉にイソイチ、イソジ、イソゴ、イソロク、アルがガッツポーズをした。


4人は一気に昼食を食べ、お茶を飲み干して、ダンジョンに向かった。


「スヴァル、今日の夕飯の準備を手伝ってくれくかい、酒宝珠の準備しようね」


スヴァルも一気にお茶を飲み干した。


「はーい手伝います」


勢いよく立ち上がってシナンの後をついていった。


夕日が沈むころイソロク達は帰って来た。

手には大きな塊肉を持って帰って来た。


その夜はすき焼きを堪能したのだった。


転移魔法の宝珠も直せた。

美味しい鬼角末逆牛と鬼面翁魅牛を安全に借りに行くことができるようになったようだ。


ーーこれで食糧難は脱することができるだろう。


ワイワイとした家族団に間違って入ってしまったような感覚に囚われ新しい島にいる家族を思い出し、厳しかった祖母のことも思い出す。


ーーシナンさんがおばあちゃんだったら良かったのに。

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