第7話
ダンジョン
マギナスホールの中は薄暗くむき出しの岩壁で、所々に橙灯石がぼんやりとマギナスホール内を照らしている。
壁の至る所に爪痕や血の跡など魔獣の気配のないマギナスホール内を余計に気味悪くしている。
魔獣に出会うことなく地下2階層に行き、しばらく警戒しながら進むと、違和感のある岩壁を見つける。
コンコンと岩壁を叩いてみる、岩壁がビクッとなる。
「こんばんわ、魔獣横溢、終わりましたよ」
「ホントですか」
男の声がする。
「おい、イソジこんなダンジョンの中でおいしい話はねぇ、気をつけろ妖狸にちがいねぇ」
また違う男の声がした。
「カチーン、誰が化け狸だ」
怪しげな岩壁を蹴り壊すと、ボロボロと岩が砕け落ちた。
中には、アッと驚いた顔の男3人がしゃがんでいた。
「「「でっで、出たー」」」
3人が驚いて手を挙げて目が飛び出るくらい驚いた。
「はぁぁあ 何が出たのか言ってみぃ」
眉間に皺を寄せて、ドスの効いた声で怒鳴った。
「「「すいませーーん」」」
男三人が顔の前で両手を合わせて拝んでいた。
3人は身体中に擦り傷や切り傷は見えるが大きな怪我はしていないようだ。
「そっちのほうが狸耳でしょうに、全くヤになっちゃう、ん? 狸耳? シナンさんの家族ですか」
「ばあちゃんを知ってるんすか」
「ばか、イソジ騙されるな」
一番大きな男がイソジの肩をたたいている。
イソロクより少し大きい男が真剣な目でスヴァ
ルを見上げた。
「イソロクは、ばあちゃんは無事か?俺イソゴだ」
「はい、地上で魔獣たちのおかたずけをしてくれていますよ、私スヴァルといいます」
「おれ、イソジです、次男です、こっちの俺を叩いているのが、イソイチです」
イソイチがぺこりと頭を下げた。下を向いたままぼそりと呟いた。
「俺、見たんだ、昨日の夜数人が何かをダンジョンに持ち込んだんだ。怪しいと思ってつけた。家族に危険が迫るかもしれないと思って、そしたら魔獣たちが次々と暴れだした。まだ、奴らは下にいるはずだ、あんた下に行くんだろ。気をつけろよ、あいつら魔獣を暴れさせるなんて狂ってる。」
ひとしきり話し終わると黙った。
イソイチは左足を庇いながら立ち上がった。
イソジがイソイチの肩を支えて歩き出した。
「俺たち、ばあちゃんとイソロクを手伝います、兄貴、兄弟の中でも家族思いなんです。」
イソジは優しく微笑んで、兄弟と地上に向かった。イソゴは兄たちに付いていきながら振り返り、ペコリと頭を下げて兄達を追った。
引き続きマギナスホールを下へ下へと降りて行く。
マギナスホール内で光の輪が至る所に浮かび魔物たちを新たに生み出している。
生み出されたばかりの魔獣達は、まだ弱いため、スヴァルを見て逃げていく。
幼い魔獣は無視して進み、4階層から5階層に抜ける坂道は、かなり暗く5階層入口の小さな光を目指して進み、5階層までやってきた。
目の前に青空が広がり、雲ひとつないのに雨がさらさらと降っている。
ーー狐の嫁入り?この辺りに魔獣の気配はないなぁ。
トランクからジャノメ傘を取り出してさし、森の中の一本の砂利道をすすんで行く。
しばらく歩くと道が石畳になり道の両サイドに赤い灯篭が等間隔に置かれている。
開けた場所に出た。
深い森をバックに寝殿造の大きな建物があらわれた。
庭には、緋毛氈と野点傘、緋毛氈の上に銚子と3つ重ねられた大、中、小の盃があった。
緋毛氈に近づくと、ツーンと嫌な臭いが微かにする。
咄嗟に手で鼻を抑えて後ろに跳躍した。
この臭いに心が折れそうになる。
ーーこの先行きたくない、、、吐き気が襲って来る。頭もクラクラしてきた。
そうだ、気分転換してシナンさんに貰った飴舐めてから行こう。
糸飴を引いて薄緑の飴を一つ口に入れて、布で口と鼻を覆った。
薄荷が口の中に広がり、嫌な匂いが気にならなくなった。
ーーこれなら行けそうな気がする。
建物の中に入り奥に進むと、臭いはどんどん強くなっていき、臭いの強い方に向かう。
襖の先が臭いがいちばん強いところのようだ。
襖を開けると、顔見知りの3人の男が絶命して倒れていた。
ーーアマコクのヨシとアシとナシおじさんだ。
まだ交流があった頃、おじさん達、双子が生まれたって言ってたのに、子供は今は5、6歳くらいかなぁ
なんでこんなことに。
部屋の真ん中に 何かの燃えカスがあり、小さな牙が見えた。
それが匂いの元になっていた。
ーーそっか、この臭い鬼顔樹の葉と実と生き物を焼いた時に出る臭いだぁ。
この臭いで魔獣が狂ったんだ、煙を浴びたら危険だ。
これを放置したら、怨みと憎しみを撒き散らす場所になっちゃう、大昔の呪法だね、文献で知ってるけど、見たのは初めてだ。
鬼顔樹の実は死者の声を聞く時に使われるこの島のイタコさんがよく使う木の実だ、何度か使っているところを見たことがある、葉には幻覚作用があるから使用禁止になっていたはず、そこに生き物、しかも子供の動物を使うことによって怨嗟を産みだした、なんて酷いことを。
この牙、イノシシの子供の牙だ、私が倒したイノシシの子供かもしれない。
ギュッと目を閉じた。
ーー祈りを捧げよう、ここで命を失ったもの達に地上で私が殺したモノたちに・・・。
トランクからマニ車を取り出して回し、祝詞を捧げること数時間、辺りの怨嗟がはれた。
清いとまでは行かないが、普通の空間に戻り、燃えカスとおじさん達を清めて森に埋めた。
建物に戻ってサラサラと降る雨をしばらく眺めていた。
ふと後ろに気配を感じて警戒して振り向くと、ユズリハ位の身長のおかっぱ頭で狐のお面を着けた赤い着物の女の子が立っていた。
女の子は何も言わずに、スヴァルの袖を引いた。
「どうしたの」
・・・・。
「どこかに連れて行きたいの」
・・・・・。
スヴァルが動かないでいると、女の子が顔を傾けて、袖を強く引く、ちょっとイラっとしたみたいだ。
女の子がスヴァルの胸元を指差した時に足もダンと踏み鳴らした。
胸元に目をやる。
薄ぼんやりと光っている。
ハッとして胸元にあるタリスマンを取り出した。
女の子が引っ張っていた方向に向かって光が伸びて行く。
その光に連れられて光の指す方に女の子と向かった。
向かった先には木彫りのクマが赤い上着だけ着て足を開いてペタンと座っている、右の小脇に壺を抱えて、壺に左手を突っ込んでいる像だ。
タリスマンの光が壺を指した。
緑の魔石が耳飾りと共鳴し光り、壺から緑の魔石が飛び出しスヴァルの耳飾りに収まった。
女の子は、頷いていた。
使命を終えたとばかりにフッと姿を消す。
徐にトランクから鮫引きクジで引いた、ウル山廃吟醸を取り出して、クマの像の隣に置いた。
その場の雰囲気が嬉しそうにキラキラしていた。
嬉しそうな雰囲気を感じ取って
フフっと笑ってヨイショっと立ち上がり軽い足取りで5階層を出た。
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