第8話
アルクトス
1階層までたどり着くとグゥウウとお腹が鳴った。
転がっていた岩に腰を下ろしてトランクから竹の皮に包まれたおにぎりを出した。
ーー母様のお手製のおにぎり
シアワセ、ひと仕事終わったご褒美、いいよねぇ。
?・・・。
視線を感じる、どこから?
まぁ、いいか。
口をアーーンと開けて食べる前に、アルクトスが隠蔽魔法を解いてゆらぎの中から現れた。
アルクトスがいきなりスヴァルの腕を掴んで、おにぎりが食べられてしまうのを阻止し、
おにぎりがポロリとスヴァルの手からこぼれ落ちた。
すかさず2匹目のアルクトスが現れそれをキャッチした。
ーーアルクトスだぁ人前に現れることはまず無いっていう魔獣だぁ
その昔このマギナスホールの両側にある山の山頂が大災害で崩れてマギナスホールの穴が埋まる前まで生息したと言われる魔獣だ。
ーーまだ生息してたんだぁ
赤茶色の120cm位で二足歩行するクマとネズミを足したような姿の魔獣だ。
四足歩行のアルクから二足歩行のアルクトスに進化すると社会性が産まれ、集団で循環魔法を駆使して米作りをする、農業系魔獣だ。
稀に太陽光を取り入れるため、地上に開けたの穴に、おじいさんとおにぎりが落ちて来て、アルクトスのおにぎりとおじさんのおにぎりを交換し互いの農業の発展に貢献したと言う昔話がある。
ーー私のおにぎりぃ、、、。
でも大丈夫、もう一個ある。
竹の皮の包みを開いてもう一個出して、食べようとすると、またアルクトスに腕を掴まれポロリとまたおにぎりが落ちた。
落ちたおにぎりを3匹目のアルクトスがキャッチする。
キッとアルクトスを睨んで、背を向けた。
竹の皮に包まれた最後のおにぎりを持つと、すかさずアルクトスが回り込んで今度は直接おにぎりを奪った。
「もう、許さないんだから」
鬼の形相で立ち上がり、アルクトスを捕まえようと手を伸ばした。
殺気を感じ取ってアルクトスが素早く躱すと、
脱兎のごとくアルクトスが逃げ、壁の中に入っていった。
鬼の形相となったスヴァルが壁に突っ込む。
そのまま、壁を通り抜けると目の前に、田園風景が広がる。それらを全て無視してアルクトスを追いかけること1時間。
アルクトス達は、魔法を駆使してどうにか逃げ続け、泣きながら走っている。
アルクトスは魔力が尽き、心がポキッと折れた音がした。
そして、振り返ってスライディング土下座をした。
アルクトスの懐から両手いっぱいに米をだして、スヴァルにさしだし、頭を地面に擦り付けて、フンガと泣いた。
「アルクトスの米とおにぎり3つを交換してくれ!だって。
イヤ、私のおにぎり3つ返してください」
フンガーフガフガ
「何?病気の子に栄養のあるものを食べさせたかった!だって。
そんな嘘見抜けないとでも思ってんの」
フンガーー
「嘘じゃない、って」
他のアルクトスも泣き出した。
フンフンフンガーー
フンガーンガンガ
田園風景にゆらぎが生じてそこから5匹のアルトクスが大きなお釜を持って来た。
お釜から湯気がたっている。
後から現れたアルクトスがお釜の蓋を開けた。
そこには銀色に輝くご飯がある。ご飯のいい匂いが漂う。
怒りで忘れていた空腹を思い出して、お腹が鳴いた。
あとから現れたアルクトスが頭を下げてフンガと鳴いた。
「これで許してやって欲しいって!」
炊きたてご飯と母様のおにぎりを持ったアルクトスを見比べた。
「しょうがないですね、母様のおにぎり本当に元気が出て美味しいんですよ、心して食べてくださいね」
最初のアルクトスをビシッと指さした。お釜のご飯を次々とおにぎりにして、竹の皮をトランクから出し、出来たおにぎりを並べて行く。
出来たおにぎりを一つ貰った後、残った物はアルクトス達に分けた。
一緒におにぎりを食べ終わり、スヴァルは、出口に向かった。
入って来た壁の前で最初に現れたアルトクスがスヴァルの手を引いて止める。
懐からおにぎり3つ分の入った籾入り麻袋をスヴァルに渡して、フンガッと鳴いてゆらぎの中に消えていった。
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