第6話

魔獣横溢




「ばあちゃん大変だ」


息を切らせて狸耳の男が入ってきた。


3人は急いでお店に戻った。


「なんだい、今忙しいんだよ藪から棒に、私を驚かして心臓発作て死んだらどうするんだいイソロク」


「いや、ばあちゃんならどんな鬼が出てきたって負けやしねぇよ」


イソロクはボソリと呟いた。


「で、何があったんだい」


イソロクは肩で息をして、2mはありそうな巨体で全身に汗をかいて戸口で扉を支えにして立ち、額から流れる汗を手で拭っている。


「ダンジョンが溢れたんだ、


昔ばあちゃんが話してくれた大量の魔獣が群れになって推しよせて来たことがあるって話してくれたろ。


それがきてるんだ、今ダンジョンの2階層で兄貴達が抑えてる、ばあちゃんここからはやく逃げてくれ」


息を切らせながら焦って捲し立てた。


シナンは奥の台所にスタスタと行って、一杯の水を持ってイソロクの目の前まで行き、水をズイと差し出した。


イソロクは、それを受け取ってグイッと飲み干した。


シナンはキッと見上げ大声で叫んだ。


「バカ言ってんじゃないよ、お前たちが頑張ってるのに、おめおめと私が逃げるわけないだろうがぁー、さっさとお前もイソイチたちの所に戻りなっ」


お店の商品の薬丸や塗り薬やら魔術具をどっさり持たせて追い立てた。


「分かったよ、ばあちゃん」


イソロクが後ろ髪を引かれながらダンジョンに向かって走り出した。


ダーンダーン


2回続けて爆発音がダンジョンの方から聞こえる。

ダンジョン入口の建物がぶっ飛ばされ、土煙が舞っている。


イソロクは店から少し離れた場所で棒立ちになって立ち尽くした。


「シナンさん、私ちょっと行ってくる。」


駆け出す。


後ろの方でシナンが叫んでいる。


「危ないよーー戻ってきなぁぁ」


走り出したまま、振り向かずに片手を上げて振り答える。


ーー多分ダンジョンの奥でオッサ公爵家に使えるアマコクの奴らが何かをしでかしたに違いない。


止められるのは私だけだ。


イソロクを追い抜いて、土煙の向こうを睨んだ。



土煙から大量の殺意と大群の押し寄せる足音達が、獲物を求めて奇声をあげている。


そこには大小色とりどりの鬼や、野狐、牛鬼、猩々、様々なマギナスホールの魔獣が凄い数、押し寄せて来ていた。


ーー昔読んだマギナスホールの魔獣百科に載ってた地下1から5階層の魔獣達みたいだ。


大して強くない、問題は量ちまちま退治しても埒が明かない、考えても仕方ないやれる所までヤルしかない。


抜刀し魔力を刀に纏わせる、刀が魔力を帯びて黒光し、魔獣の群れに突っ込んだ。


距離5mの所で刀に纏わせた魔力を斬撃として放つ。先頭にいた10体の体が半分になって吹っ飛ぶ。


スヴァル最大の範囲攻撃だ。


それを見た魔獣達が少し怯む。


そこに、突っ込んで10、20、と倒していく500体を倒した頃には、スヴァルの周りを取り囲まれていた。


群れの1番赤く大きい鬼の爪がスヴァルの背後を捉えた。


スヴァルがするリと歩を進めソレを難なく避け、身を半転させる。

伸びた赤鬼の腕に向かって上から叩き切る。


赤鬼の腕は落ちることなくスヴァルの刀を受け止めた。


反射的に後ろに跳躍した。


先程までスヴァルのいた所にに忍び寄っていた赤鬼が持っていた棍棒があった。


ーーあら?刃が通らない、もっと魔力込めてみる?


刀に倍の魔力を纏わせる黒光りする刀に黒い靄がかかる。


赤鬼に向かって駆け、横に薙ぎ払う。

赤鬼の腿を数cm切って、赤鬼が腿に力を入れて刀を取れなくなる前に引き抜いた。


ーー危なッ、斬撃耐性でもあるのかなっ?あっ忘れてた、魔力を目に集中させて、見る、ん?この鬼魔力の流れはおかしい?


後ろの方から魔力が流れてきてる??

傀儡タヌキだ、玩具を操って戦うタヌキに化かされちゃった。

大元を断てば問題ない!


懐から棒手裏剣をサッと出してタヌキに投げ、命中し大きな赤鬼だったものが倒れ動かなくなった。


そういえば!魔獣百科で傀儡タヌキは自信の力を過信して共闘を嫌う、なまじ強いから他の魔獣は手を出さない。

今倒したってことは・・・。


死骸を乗り越えて魔獣達が一斉に襲いかかってきた。


ーーやばっ


刀に魔力を纏わせて、流れるように何度も刀を払い近づけないようにしているが、段々と魔獣との距離が狭まっている。


スヴァルは寝かせていた耳を立てて、耳の毛を逆立てながら、魔力を流した。


影から見えない帯状の魔力が1本勢いよく地面に刺り、スヴァルが浮かび上がり魔獣に囲まれた状態から脱した。


この魔法は耳族に伝わる伝承魔法だ。

耳族の固有魔法に当たる、父と母の4つの魔法から2つを選ぶ。


見えない帯は、影帯といい、父親から伝承されたものだ。


「流石に死ぬかと思った」


ほっと一息した所で、すぐ後ろから

フンガと鳴き声がして、振り返ると、アルが魔獣の頭を次々とジャンプしてきて、スヴァルの頭に飛び乗った。


アルが耳飾りを叩いてフンガと鳴いて魔力を溜める仕草をした。


「何?耳飾り?魔力?あっ、耳飾りに魔力を流してって事?」


アルがフンガと大きく頷く。


「よくわからいけど、わかった、青い魔石に魔力を流して見るね」


アルは当然とばかりにフンガと鳴いた。


アルに言われた通りに魔力を青い魔石に流した。


青い魔石が鼓動を打ったように感じてそこからスヴァルを中心に波が起こって津波を産んだ。


廃墟建物を巻き込んで魔獣達が津波に飲まれドーナツ状の形の中で激流が起こり切り揉みになり上も下もごちゃ混ぜになった。それがしばらく経つと、パッと津波が消えた。


ドーナツ状に抉れた土地に、瓦礫と魔獣だったものが轟音をたてて抉れた土地に撒かれた。


辺りはすっかり暗くなっており雲に隠れていた月が顔を出し町を照らした。


津波が消えたあとの残骸と月がこの世のものとは思えないような光景だった。


その残骸の中に月明かりでぼんやりと光る魔石が無数に散らばり、まるでホタルの様だ。


ーー何とかなったね、囲まれた時は死ぬかと思ったよ。


「アル君助けに来てくれてありがと」


アルを撫でた。


周りを見渡すと魔獣だった残骸が壁になっている。


ーー飛んだら出れるけど、1回はあの残骸に着地しなければならなそうだなぁ。


「アル君どうしよう、どうやってここから出る?それに腐り始める前に片付けないと」


アルを頭の上から地面に下ろした。


アルは首を傾げている。


フンガ?と鳴いた。


「何?燃やすの?アル君どうやって燃やすのよこの量の残骸を」


フンガー


「赤の魔石を使えって?


持ってないよー、赤の魔石は無いの」


フンガ


「なぜって?


アマコクの人達に奪われたの」


フガフガ


「うさ耳は魔石を守るのが使命だ!って、


そうなんだけど。」


フガフガ


「それに赤い魔石と神霊石は一緒なはずだって


アル君詳しすぎない?」


フンガ


「えっークマは知っていて当然なの?


クマの言っている事が分かるのがおかしいって


そっかー。でも、アル君とお話できるからいいや。」


アルがスヴァルから顔を背けてフンと鼻で笑った。


「何?アル君何か言った?」


フンガ


「何も言ってないって


そっかー」


おーい おーい


瓦礫の山にトンネルを作って、イソロクとシナンが魔獣の素材や魔石を持った手を大きく振って近づいてきた。


「良かった、赤鬼と戦ってる所は見えていたんだが、いきなりどっかから水が出てきて、津波になったっと思ったら、水が渦巻いて瓦礫が魔獣を・・・。」


捲し立ててイソロクが魔石を強く握りしめている。


「良かったよ、瓦礫埋もれてあんた死んじまったかと思ったよ、ぽっかりあんたのところだけ穴が空いてたんだね」


シナンはほっとした顔をしている。


「心配かけてすいません」


耳をぺこりと曲げた。


「無事で良かったです。魔獣の群れに突っ込んで行っちまった時は、ほんと驚きました、それよりこの魔石全部じゃなくてもいいから貰いたいんだ、いいだろうか」


イソロクが気遣わしげに、スヴァルを見た。


「良かった、この残骸どうしたらいいのか悩んでいたんですよ、この残骸お任せしてしまってもいいですか、私マギナスホールに入って中を確認して、魔獣横溢の原因と取り残された方が居ないか確認しに行きたいと思っていたんです」


渡りに船とコクコクと頷いた。


「コチラはお任せ下さい、いらないものと金になるものを分けておきますよ」


「では、マギナスホールに行ってきます」


シナンとイソロクとアルはスヴァルを見送った。


「ダンジョンの中に魔獣が居ないからって気をつけなーー」


シナンがスヴァルの背中に向かって叫んだ。


「それと息子達が居たらよろしく頼む」


シナンの声にスヴァルは大きく手を振って返した。

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