二人きりの真夜中

卯野ましろ

二人きりの真夜中

優士やさし

「何?」


 ある日の真夜中、まだ私たちはベッドの中で目を開けている。


「腕、痛くない?」

「全然平気」


 私は今、優士に腕枕をしてもらっている。一緒にベッドに入ると、すぐに優士は「腕枕をさせて欲しい」と言ってきた。私が「うん」と答えると、優士は喜んで左腕を差し出してきた。空手と柔道で鍛えられたその腕は、相変わらず頼りがいがあって胸が高鳴る。たくましい腕に寄った直後、優士の右手が私の頭を撫でた。

 大きくて、温かい手。


「頭撫でるの好きだね」


 そんな私は中学生のときから、優士に頭を撫でられるのが好き。弱っているとき、そうやって癒してもらっていた。


「そうだな。かわいいものを見ると撫でたくなる」

「しろまるちゃんみたいに?」

「ひとみは犬でも妹でもないけどな」


 頭を撫でてくれた手は、やがて私の背中に回された。そして、二つの体が密着。ベッドの中で抱き合う私たち。


「……ひとみの胸、柔らかい……」

「ふふっ、エッチ」


 がっしりとした体に、やんわりと膨らみが当たってしまった。


「……まだ少し恥ずかしいんだよな……」

「うん、それは分かるよ」


 昔のように顔を赤く染める私たち。柔道部の練習中、優士の右手が私の左胸に触れてしまったことを思い出す。

 そこまで大きくはないと私は思っているけれど、優士にとっては充分刺激的らしい。


「でも……おれがひとみの体を意識していたのは、あのときだけじゃなかったよ」

「私も」


 真剣に柔道をしていたけれど、やっぱり私たちは男と女で、それに特別な感情を互いに抱いていた。性を全く意識しない方が難しい。


「イタッ……」

「大丈夫?」


 月に一回の、あの痛みが走った。私が苦しみ出した直後、腹部に温もりを感じた。


「女の子は大変だな」

「……ありがとう」


 お腹を擦られると、ちょっと痛みが和らいできた。

 いつか私のここにも、赤ちゃんがやって来るのかな……。

 幸せに包まれながら、そんなことを考えているうちに私は眠りについた。




「おやすみ」


 隣で眠る彼女に囁いた。つらそうな表情だったが、今は穏やかな寝顔だ。

 きれいだな……。

 すぐ側にある、もち肌にキスをした。

 こんなにも柔らかい体を、おれは畳の上に投げ付けたり、強い力で押さえ込んだりしていたのか。ひとみは確かに強いけれど、決して頑丈ではない。女の子の体は繊細だ。この体で、おれたちと鍛えて、戦っていたことが信じられない。あの男にも劣らない力は、一体どうしたら出てくるのか……本当に不思議だ。

 中学時代、ひとみを越えようと必死だったことを思い出す。ひとみを守れる男になりたかった。ひとみを泣かしてしまったけれど、おれは彼女よりも強くなることができた。


「……ん……」

「あっ」


 しまった。

 つい頭を撫でてしまい、ひとみが起きたようだ。


「ごめん、起こしちゃったか」

「……優士……」

「ん、何?」

「もう腕、良いよ……疲れたでしょ?」


 まだ気にしてくれていた彼女の頭に、おれは笑いながら再び触れた。

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二人きりの真夜中 卯野ましろ @unm46

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