真夜中の光

希見 誠

第1話

「おい、見ろよ」

「ああ、信じられない。今、真夜中だぜ」

 東京の夜は昼間のように明るい。それはバブル景気のころから変わらないが、今はそれとは異なる。

「この明るさを生み出すのに、一体どれだけの二酸化炭素を排出していると思う?」

「ああ、ゼロだ。本当にゼロだ。完全に自然の明かりだ。本物の太陽の光なんだ。よくこんなことができたな」

「なに、排出権取引が許されるなら、日照権取引だって可能じゃないかと思ってな。北欧諸国に掛け合ったら、喜んで白夜を買い取らせてくれたよ。せっかく昼間が長いのに、奴ら働く気がないんだな」

「ああ、怠け者な連中だよ。その点、我が国の人間は勤勉だ。これでバリバリ働けるぞ」

「だが環境問題のことがある。そこでエネルギーが余っているところから、足らないところに融通する。環境も保護できて産業も発達する。これぞ経済の理想的な在り方だよ」

「京都議定書の目標数値もこれで達成できるぞ。議長国なのに肩身が狭かったからな」

「ああ、まったくだ。これで日本は環境先進国となったぞ。もう、夜の照明に電気を使う必要はなくなったんだ」


 一方その頃、北欧では。

「信じられるか?これが真夜中だぞ」

「ああ、真っ暗だ。ありがたいなあ」

「これでようやくぐっすり眠れるな」

「しかし、日本人は何を考えてるんだろうな」

「本当だよ。こっちはお金を払ってでも暗い夜が欲しいのに、奴らの方から買ってくれるんだから」

「悲しい連中だよな。金のことしか頭にないんだ。ぐっすり眠れた方がよっぽど幸せなのに…」

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真夜中の光 希見 誠 @warabizenzai

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