ニャタロウパン店
サビイみぎわくろぶっち
ニャタロウパン店
「で、これって本当に食べられるの?」
「タロウさん!その言い方は、あまりに失礼ですにゃ!衛生面にも栄養面にも気を配って、一生懸命作ったのにっ」
「でもさ、大きさも焼き上がりも見事に全部バラバラ…。これじゃ売り物に…」
「にゃ~~~っ!これはわざとですっ。食べる人のことを考えて、ひとつひとつを少しずつ変えてあるんです!」
「う~ん。でもさ…」
僕はこの街で、パン屋を営んでいる。
実はさっきまで、クマの幼稚園のピクニックのお昼ごはん用のパンを30個注文されていたのを忘れていたのに運良く気が付いて、急いで配達に行っていたのだ。
でも、そうすると自分の店に出すパンを開店時間までに焼くことができない。
本当に困った僕は、一緒に住んでる猫のニャタロウに手伝いを頼んだ。初めてのことだ。
普段は店の看板猫として接客しかしてないニャタロウに開店の準備を任せるのは不安だったが、ニャタロウは「任せてください!」と大見得を切った。
「開店時間にお店に並べるのは、食パンとバゲットだけでいいからね。今オーブンに入れたばかりだから、時間になったら取り出して…あ、火傷に気を付けろよ」
「タロウさん、早く行かないと約束の時間に遅れますにゃん」
「あっ、本当だ。じゃ、ニャタロウ、頼んだ。今、オーブンに入ってるのだけでいい。他は僕が帰ってきてからやるから…」
「大丈夫ですにゃ。いってらっしゃ~い」
そして、僕は無事に配達を終えて、開店10分前に帰ってくることができたのだが。
ニャタロウは、自分の手で今日の分のパンを全て作り終えていた。
でも、僕の目から見ると、店に出せるような代物ではない。それを言ったら、ニャタロウは怒っちゃったんだけど。
「まあ、いいか。せっかく焼いてくれたんだし。今日はこれを店に出そう」
ニャタロウが焼いたパンは大量だった。それに、もうすぐ開店時間だ。
「良かった。分かってもらえて。きっとお客さんも大喜びですにゃ」
全く反省の様子もなく、ニャタロウは笑う。ま、いいけど。
開店時間だ。常連さんが店のドアが開くのを待っている。
「いらっしゃいませ」
今日の最初のお客さんは、ニワトリのコ子さんだ。
「今日のパン、いつもと違うのね。コッコ」
すかさずニャタロウが言った。
「タロウさんは今朝、配達だったので、今日のパンはボクが焼いたんです。おいしいですよ」
「まあ、そうなの」
「コ子さんへのお勧めは、これとこれとこれですにゃん」
「全部いただくわ。コッコッ」
あ、売れた。ニャタロウは接客が上手いなあ。
二人目の客だ。ゾウのエルキンズさんだ。
「なんか、今日はいろんな大きさのパンがあるけど…パオ」
「エルキンズさんへのお勧めはこちらのパンですにゃ」
「ありがとう。パオン」
こんな感じで、ニャタロウのパンは、まあまあ良く売れた。
ほんの少しだけ売れ残ったパンを、僕も食べてみた。
ふうん、まあまあおいしい。全然知らなかったけど、ニャタロウもパン作りの勉強をしていたらしい。
「今日はご苦労さま。助かったよ」
ニャタロウにこう言うと、ニャタロウは目を細めてゴロゴロと喉を鳴らした。
そして、これは後日談である。
結論を言うと、その後、店は大成長を遂げた。ニャタロウの功績で。
ニャタロウのパンを食べた人が、「これはおいしい!」とニャタロウのパンを気に入って、毎日店に出して欲しいと要望を出してきた。
そして、評判が評判を呼んで、新しいお客が増えて、僕は店主の座を追われ…はしなかった。
ニャタロウはちょっとズルいのかもしれない。
「タロウさんが僕のパンの焼き方をマスターしてくれればなあ…」なんて言うから、調子のいい僕はその通りにしてしまった。こういうズルさは、決して悪いものではないんだろう。
今では、僕の店は全国にいくつも支店を展開している。
僕はというと、今も元の店でパンを焼いていて、毎日が楽しい。
ニャタロウは、普段は昔と同じ看板猫をやってる。でも、実は夜中に店の事業計画をたて、商品開発をしてるのは、全部ニャタロウなのだ。
商才に長けた猫って、本当にいるんだね。
ニャタロウパン店 サビイみぎわくろぶっち @sabby
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