短編69‐2話  数ある声かけたらものすっごいヒロイン

帝王Tsuyamasama

短編69‐2話  数ある声かけたらものすっごいヒロイン

「それじゃあこれが鍵だ。よろしくな」

「わかりました」

 俺は明るい茶色のスーツを着ている西守先生から、倉庫の鍵を手渡された。俺、薬名やくな 翔之助しょうのすけは、生徒会長とはいえ中学二年の学生だから、黒い学生服装備。女子は紺色セーラー装備に青いリボンの学校だ。


(……のはいいんだが……)

 参ったことが起きてしまった。

 いつもは倉庫は鍵がかかっていて、その鍵も先生が保管しているという、普段学生は入れない場所だ。

 今度文化祭があるから、そこで使う看板などを出すために、鍵を借りたというわけなんだ。

 何に困っているのかというと、その倉庫を開け閉めするときは、原則複数人で行うように決まっているから。

・もし一人で行って、なにかトラブルがあってはいけないから

・開けたまま頻繁にその場を離れることになっても、他の人が倉庫に残ることができるから

・結局重い物を運ぶときに、二人以上いた方が便利だから

 などなど。っていうことで、生徒会のだれかを連れていこうと思ったんだが……みんなそれぞれ、文化祭の準備で忙しいようだ。

 鍵を借りているんだから、今の間に倉庫の用事を済ませたいところで……

(う、う~ん……)

 今、生徒会室に人がいるにはいるんだが……一応聞くだけ聞いてみよう。

 書記である一年生の井関いぜき 寛太郎かんたろうがいる。身長は低め。一年生ながらに、生徒会を盛り上げようと頑張ってくれている。

 各クラスから提出された書類をまとめたり、コピーしたり、パンフレット用の情報を書き出したりしている。

「井関。今忙しいか?」

「見てのとおり忙しいですよぉ~。あ、なにか用事ですか?」

「いや、その作業を続けてくれ」

 まぁ、それだけ多くの机の上の書類と戦ってるんだもんな……。

 生徒会室にはもう一人、生徒会役員がいる。その周りには、三年生の放送委員が集まっている。放送委員会は文化祭において重要な役割だからなぁ。

梨野なしの

「……わかったわ。オープニングはそれでいくとして……」

 梨野なしの 三咲みさきは生徒会の副会長だ。髪は肩に掛かるかどうかくらい。身長は女子の中ではやや高いっぽい。

 しっかりしてるから、なにかといろいろ任せてしまっているかもしれない。でも任せなかったらそれはそれで、一人でばっかりせずにもっとこちらに任せなさい、と言われてしまいそうな、まぁそんなキャラクターの女子だ。

「梨野~」

「……午前中の自由時間に使う曲は任せるわ。特に生徒会がチェックすることもないから、よろしくね……」

「なっしの~」

「……放送内容にスケジュールがあるのなら、それも教えてもらえると……なに? 薬名、呼んだ?」

「い、いや、続けてくれ」

 疑問符クエスチョンマークを少しの間浮かべられ、また放送の話に戻っていった梨野。よく考えれば、俺が外に出るのなら、生徒会室に梨野がいてくれるのは助かるか。


(だれか手の空いているやつ、いないかなー)

 俺は校舎の中を歩き始めた。

 クラスや部活や委員会、それぞれの単位で文化祭の準備が進められていっている。

 飾り付けなどはまだだが、生徒会長になったからには、文化祭をちゃんとまとめあげないとな。

(……なんて思ったところで……)

 これがなかなか見つからない。生徒会の役員って、そんなに数が多くないし、もちろんそれぞれが何らかの用事で動いているわけだし。クラスや所属している部活も、ある程度手伝うことだってある。

(はっ! これがまさに、『猫の手も借りたい』っていう状況!?)

 ことわざって、めっちゃ汎用性あるやつもあれば、結構使う場面限られるものもあるよなー。てか猫の手じゃ見張りもなにもないか。ははっ。

(……俺、疲れてんのかな)

 実は。俺が生徒会長をがむしゃらにやっているのには、一応理由が

(って! あれはっ!)

 前から女子三人組がしゃべりながら歩いてきているが、その真ん中にいたのは!

ゆき!」

「わわあわわわ!!」

 毎回なんだそのおもしろい反応っ。いつもそうやって、全身使って俺の言葉に反応してくれっから、牧宮まきみや 希雪きゆきって一緒にいてて楽しいんだよな。

 身長は女子では普通くらい? 目の前の三人組の中では、少しだけ雪が大きいみたいだ。髪は肩より長い。

 雪とはいわゆる幼なじみっていうやつ。幼稚園のときから知っているが、小学校のときから仲良くなったかな。部活や委員会が違う今でも、会えばもちろんよくしゃべっている。クラスの副級長をやっている。

 って、つい声をかけてしまったけど、三人組ってことは、やっぱなんか用事があるんだろうか。横の二人も俺を見たり雪を見たり。

 一緒に行けそうな生徒会のメンバーが見つからない以上は、普段の委員会で会議を一緒にしている、級長や副級長でも連れていってもよさそうだ。

「一緒に来てほしいところがあるんだ。今忙しいか?」

「えっ!? わた、わたた、私っ?!」

 その反応は、つまり~……どうなんだ? 横の二人も、ちょっと雪を見ている。

「忙しかったら大丈夫だけど」

 こんなことになるなら、あらかじめ倉庫行くメンバー決めておいたらよかったか。

「あ、もしかして生徒会のことじゃないですか? 先輩、副級長でしたよね?」

 髪をくくってる女子と短めの女子がいて、くくってる女子が雪にそう言った。そうか後輩だったのか。

「そ……そうなの?」

 まっすぐ見てくる雪。今日も元気そうでなにより。

「ああ。部活で忙しいか?」

 う~ん。なんか、いくらでも見ていられる雪の顔。

「部長に伝えておくので、いってきてください」

「あ、い、いいの?」

「はい! ちょうど一段落したところじゃないですか! どうぞどうぞ!」

 なんか、雪が先輩って……い、いや、ここは笑ってはいけないところだっ。普段の雪を見慣れすぎてしまっているから、ついっ。

「じゃ、じゃあ……いってきます!」

 いってらっしゃーいと見送る後輩’s。


 雪と横に並んで、廊下を歩く。

 さっきと同じく、文化祭準備の光景が並んでいるのに、なぜか雪と一緒だと、もっと明るく見える……感じ?

「雪」

「ひゃいっ!」

 もうほんと雪ツボ。

「悪いな、来てもらって。部活の用事があったんだろ?」

「ううん、大丈夫。職員室と事務室に行く用事が終わったところなの」

「そっか」

 今思えば、雪と同じ部活をするのも楽しそうだったなと思う。

 入学したてのとき、部活一覧表を見て、なんとなくで決めたからなぁ。

「雪はさ。高校、どこ行くか考えてる?」

「こ、高校っ? まだそんな先のこと、わからないよっ」

「俺も」

「なんだしょうちゃんもかぁっ。って、じゃあなんでそんなこと聞いてきたの?」

「……雪と同じ部活するのも、楽しそうだと思った~……から?」

 なんかずっとこっち見てる雪。前に電柱あったらぶつかるパターン。

「わ、私もっ。翔ちゃんと一緒に部活、やってみたいな。ああでも、私そんなにぴょんぴょん跳ねられないと思うけどっ」

 雪がぴょんぴょん。ハンドボールの概念が覆される瞬間!

「俺に合わせてくれなくても、雪が俺と一緒にやってみたいことでいいよ」

「……しょ、翔ちゃん急にそんなお話、どうしたの……?」

 その両手をほっぺたに当てるのも、雪らしくてなんかいい。

「ほんとにふと思っただけっていうか。さっき後輩と一緒のところを見たら、なんか思った」

 ……遊園地のときも、その両手ほっぺた。たくさんしていたな。

(緊張したけど、思いきってよかった)

 母さんが商店街の福引きで、十人分のチケットを引き当てたんだ。

 俺と姉ちゃんがふたつずつもらって、それとは別で家族四人で行くとき用。残りふたつは、とりあえず現在は未定のまま保管。

 雪を誘ったのは、もちろん好きだったから。でも遊園地に行って、文化祭が終わったら告白しようと決めた。

 生徒会長になったのも……これ雪には内緒だが。かっこよくなって、強いおとこになりたいと思ったから。きっかけ自体は、元生徒会長だった先輩の話だったけど。

 低学年のときは毎日のようにしゃべっていたのに、なんかだんだん、雪のことを意識してきたら、嫌われたらどうしようって気持ちが強くなってきて。

 これまでいろんなきっかけを頼っては、雪に声をかけてきた。正直今でも、雪の隣にいると緊張するけど、やっぱり俺は雪の隣にいたい。

(……だ、だれかとすでに付き合っていたら……)

 い、今は考えないようにしよう。俺は文化祭で告白する。今はそのことだけに集中しよう。あ、もちろん生徒会も頑張る。

「私は、翔ちゃんみたいにぴしっとできてないよ?」

「俺そんなにぴしっとしてるか?」

「うん! だって生徒会長様だよ? ぴし中のぴしだよっ」

 ……ぴしっと告白できるように、頑張ります。


 茶色い倉庫に着いた俺たち。裏門の近くにあって、校舎で隠れるようなところでもあるので、周りに学生はいないな。

 俺は赤色のタグが付いた倉庫の鍵を、南京錠に挿し込み、くるっと回し開錠。金属ちっくな音を響かせながら、横開きの扉を両方開けた。

「ここ初めて中見たよ」

「俺は一回」

 そう言いながら、俺は一歩、倉庫の中へ。

 中には文化祭や体育祭で使う看板や得点表・古そうなボール類・赤いパイロンコーン・石灰をまくやつ・玉入れのやつとか、体育祭文化祭で使うアイテムが中心に保管されていた。あれ、体育祭で玉入れってやったっけ? 綱引きや大縄跳びはやったけど。

 手を軽く前で組んだ雪も入ってきた。

(……あれっ。この状況……)

 静かな倉庫で、雪と二人。

(……な、なんか。今ならなんか、言えそうな気がする)

 でも何を言おう。でもせっかくだからなにか言いたい。

「雪」

「な、なにっ?」

 俺は改めて、雪の方を見た。外からの光がちょっと雪にかかっている。

(と、とりあえずな? とりあえずだからなっ)

「……あ、ありがとう」

 うん。そりゃそのはてなまーくだらけの顔になるわな。

「どう、いたしまして……?」

 でもそんな雪の顔。やっぱりずっと見ていたいな。

「まず看板を運ぼう。雪はそっち持ってくれ。これつけていいから」

「ありが……とうっ」

 学生服の右ポケットに入れていた白い軍手を、雪に渡すときに、ちょっと手が当たってしまった。

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短編69‐2話  数ある声かけたらものすっごいヒロイン 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

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