第11話 あらくれ先輩冒険者

 この日から俺達は冒険者不足状態のため、ギルドに依頼されたきり溜まったままになっていたFランククエストを、着々とこなしていく。

 低レベルモンスターの討伐に薬草採取も、なんでもやった。

 果ては行方不明になったペットの捜索まで。

「ありがとうございます、『イチャつく二人』」

「また何かあったら『イチャつく二人』に来て貰いたいねぇ」

「『お熱い二人』……じゃなくて『イチャつく二人』のにーちゃんとねーちゃん、ありがとよ!」

 そうやって感謝をされる度に、俺とラァムは着実にギルド受付嬢への殺意を高めていった。

 こうして「イチャつく二人」の名はその活躍につれ、不本意ながら徐々に王都とその周辺へと知られていってしまう。

 そしてそれが、思わぬ事態を招いた。

 その日もFランククエストをこなし、その報酬を受け取り、ギルドを後にした俺達。

 時間も遅くなってしまったことから、二人でどこか安い定食屋で夕食を取ろうと、人気の無い路地に入った時だ。

 前方の角から、見知った顔が現れる。

「よぉ新人くぅん、こんな所で会うなんて奇遇だねぇ?」

「……またあんた達か」

 それはあの時の、荒くれ先輩冒険者達だった。

 面子も全く一緒である。

 だが彼らは皆その顔に、不敵な笑みを浮かべていた。

「……どうやら何か企んでいるみたいだな。仕返しでもする気か? ムダムダ、なんせこっちにはラァムが居るんだからな!」

「端から私に頼る気満々じゃないですか。まあ降りかかる火の粉は払いますが」

「そういうことだ! 返り討ちになるのがオチだし、やめといた方がいいんじゃないか?」

「なぜ何もしないつもりのあなたがそんなに偉そうなのか理解不能ですね」

 しかし、荒くれ達の態度は変わらない。

「それが今回はそうはならないんだなこれがぁ!……ボスゥゥッ!」

 その言葉を合図に彼らの背後から、黒いローブのフードを目深に被った男が現れる。

「……こいつらか」

「はい! ギルドの風紀を乱してるのはこいつらでさぁ!」

 一目見ただけで理解した。

 この黒いローブの男は別格だと。

 それもきっと、ラァムよりも……。

……終わった。

 情けないことに、堪らず俺はその場にへたりこんだ。

 それを見た荒くれが何を勘違いしたのか、ギョッとする。

「こ、このガキィ? ボスのオーラを前にして座っただとぉ? しかもそのまま微動だにしていないぃ?」

 ラァムは冷静に突っ込んだ。

「腰が抜けたのでしょう」

「しかも口元には余裕の笑みがぁ?」

「もう笑うしかないのでしょう」

「しかも悟りを開いたかのような目までぇ?」

「自分の死を悟ったんですね」

「……なんだよ驚かせやがってぇ。小娘だけじゃなく、お前もほんとは力を隠してたとかいうパターンかと思っただろうがぁ。……まあ、たとえそうだとしても俺らのボスはギルドで一番の危険人物だぁ。お前らが終わったことに変わりはないけどなぁ?」

 俺はへたり込んだままで言う。

「そうか、あくまで俺とやろうってのか?……くくく、笑えるな。本当に思っているのか? やりあえるレベルに達しているとでも?」

 すかさずラァムから突っ込みが入った。

「レットは弱過ぎますもんね。というか、どうしてそんな誤解を生むような言い方しかできないんですか。普通は強者側の台詞回しですよそれ」

「ドラコン倒したもん……」

「まだ言いますか。……しょうがありませんね、また私が守ってあげま――」

「ほう、これをかわすか」

 一瞬だった。

 一瞬にして荒くれ達のボスであるアサシンは距離を詰め、ラァムの首筋目掛けダガーを繰り出していたのだ。

 寸前のところでそれを回避したラァムだったが、刃が掠めた皮膚からプツプツと血が滴のように溢れ出している。

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