第7話 いちゃつく二人
「ぐっ!?」
俺だけでなく、ラァムも殺意を露にする。
あの受付嬢めぇ……!
そう、パーティ名を受付嬢に任せた結果、『いちゃつく二人』にされてしまっていたのだ。
依頼主が気を使い、こんなことを言い出す。
「あ、ああそうそう、最近ウチの牧場の羊の毛を使ってフェルト人形を作り始めたんだ。王都の土産物として売ろうと思ってるんだが、サービスだ! おたくらに一つずつやるよ!」
そう言って渡されたフェルト人形は、えもいわれぬ名状し難い造形をしていた。
あえて言うならば……さっき倒したスライムに似てるか?
こんな可愛くないもの、売れる訳が……。
そう内心思った俺の隣で、真逆の感想が述べられる。
「……かわいい」
「えぇ……」
さっき同じ見た目のヤツ容赦なく蹴り殺してたのに……。
ラァムはその土地土地の変わったお土産を買い集めるタイプなんだろうなと、俺は察した。
そしてこれを聞いた依頼主は上機嫌となる。
「若いお嬢さんに気に入って貰えたならもう人気間違いなしだな! よーし、じゃあオマケでウチで飼ってるヤギのチーズもつけてやろう! あと今朝鶏が産んだ卵もあったな! バターも居るか? 干し肉もあるぞ! 遠慮せずに持ってけ持ってけ! ガハハ!」
「そんなに!? ありがとうございます!」
不気味なスライム人形に見とれているラァムに代わり、俺は礼を述べ、ありがたくそれらを頂いたのだった。
それからギルドへの帰り道のこと。
会話もなく、気まずい雰囲気が流れる中、静かであったゆえに「ぐー」とラァムの腹の虫が鳴くのが聞こえた。
照れ隠しなのか、ラァムは誰ともなく当て付けのように言う。
「働いたからか、お腹が空きましたね。働いたからか」
「……だったら、さっき依頼主から貰った食材で軽く何か作ろうか? 調理器具は鞄に入れて持ち歩いてるんだ」
「ピクニック気分ですか?」
「クエストが長くなることもあるかもしれないだろ!? そのためだよ!」
「なるほど、準備だけは立派な冒険者ですね」
「準備だけは余計だ!?」
「ではお言葉に甘えて、働いた私のため、働いていないあなたに何か作って貰いましょうか」
「はいはい。……でもそうだな、何か緑が欲しいな」
レットは道の脇に自生していたノビルを抜き、カラシナの葉をもいだ。
それを見ていたラァムが不安げに告げる。
「……私、ヤギではないので雑草はちょっと」
「ちゃんと食べられる美味しい野草だから!?」
「ならいいんですけど……」
レットは腰のポーチから取り出したスキレットを火の魔法にかけ、温まったところにバターを投入した。
バターはジュワァと溶け、辺りに芳ばしい匂いが広がる。
そこで適当な大きさにちぎったノビルとカラシナをフォークで炒め、卵を割り入れた。
次第に火が通っていく卵を急いでかき、とろフワな形の定まらないトロトロスクランブルエッグ状にしていく。
そこへヤギのチーズを投入。
スキレットの柄を持つ手を空いた方の手でトントン叩くと、とろフワなスクランブルエッグがチーズを包んでいった。
それを木皿へと、崩れないようにフォークで支えながら移す。
その手際と出来上がった料理を見たラァムは、驚いた様子で言った。
「綺麗でおいしそうなオムレツ……。本当に私が食べてしまってもいいんですか?」
「もちろん! でもちょっと待ってて、最後の仕上げがあるんだ……」
「ラブ注入とかそういうのはいりませんから」
「違うから!?……まあ見ててよ」
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