夏休み約束編④~二色同時発動~
能力向上等の基本的な魔力は黄色で行い、靴の裏だけ茶色の魔力をまとわせようとした。
しかし、2色同時に魔力を使えずに氷の上で転んでしまった。
確実に立ち上がるため、オーラを茶色に変えて足へ集中させる。
滑らないように足から魔力を放出して、アースネイルの応用で地面を作り出す。
なんとか体勢を整えるものの、このままではけち火に囲まれながら走り続けなければならない。
俺の進行を邪魔するように、青色のけち火は地面を遠くまで凍らせており、普通のけち火が体当たりをしてきている。
(こんなことを続けていたら時間が足りない!)
なんとか走れるようになったものの、速度が上がらないためけち火を振り切れない。
けち火を盾で振り払っている時、赤と青のけち火が衝突し、紫色の火の粉が舞った。
その光景を見て、俺は足を止めてしまう。
(ああ……そうか……
自分のするべきことが分かったため、立ち止まる。
けち火が腕にいる狸に向けて体当たりをしてくるので、《黄土色》の魔力を盾に込めた。
「魔力を混ぜればいいんだ! これで同時に使える!」
黄色と茶色の魔力を同じ量になるように調整して、《黄土色》のオーラを身にまとう。
単色よりも体へ負担がかかるものの、新たな力を思う存分使用する。
それ以降、次の目的地までひかれている氷の上を難なく走り、けち火に追い付かれることはなかった。
なんとか4周終わらせてから多宝塔の前に倒れ込むと、豆狸が胸の上に乗って心配そうに顔を覗いてくる。
(さすがに休憩なしで2周走りきるのはきつかった……)
3周終わった時もすぐに出発しろと言われたため、ここまで休憩する時間がなかった。
4周が終わったものの、もう夕方になっており、5周目へ行く前に夏美ちゃんとの約束の時間になってしまう。
移動しようとしても体力と魔力がほぼ枯渇して動けないため、倒れながら回復するのを待つしかない。
『残り11時間19分50秒、1周。休憩時間5分』
多宝塔は無慈悲に時間を知らせてくるため、一応質問をしてみることにした。
地面に寝た状態で手を合わせて、心の中から多宝塔へ言葉を向ける。
『ここで中断した場合はどうなりますか?』
目を閉じて反応を待っていても返事がされない。
(今は夏美ちゃんの彼氏だからそっちを優先するか……)
なんとか動けるようになったため、豆狸と一緒にホテルへ向かおうとした。
豆狸を手に持ってから立ち上がると、自分が非常に汚れていることに気づく。
「さすがにこのままじゃだめだ」
人と会うのに土で汚れ、所々焦げている服のまま行くわけにはいかない。
1度家へ帰ってシャワーでもあびようとワープホールを発動させようと魔力を込める。
『中断時間に応じてそれ以降の難易度が変わります。中断しますか?』
『する』
『わかりました。中断を了承します』
中断することができるようなので、安心して豆狸を抱えたままレべ天の家へ戻る。
リビングでくつろいでいたレべ天へ夏美ちゃんと会っている間だけ豆狸を任せることにした。
「天音、この子頼む」
「え!? いきなりなんですか!? 小さな狸?」
「お遍路クエストのキーモンスターだから、手荒に扱うなよ」
「そうなんですか!?」
そう言いながら豆狸を床へおろすと、興味津々に鼻をすんすんと動かして部屋の中のにおいを嗅ぎ始める。
レべ天は目を輝かせながら豆狸へ近づいて、体をなでていた。
「かわいいですね。お名前は?」
「つけてないよ。なんなら、天音が決めてくれ」
「いいんですか!?」
「じゃあ、任せた」
天音が豆狸を抱えて、楽しそうに名前を考え始めている。
適当な着替えを見繕って、シャワーを浴びて体をきれいにした。
俺の着替えが終わっても、リビングには狸を抱えたままレべ天がぶつぶつと何かをつぶやいている。
「メスだから……たぬこ、たぬみ、なかなかしっくりこないね」
同意を求めるようにレべ天は豆狸の頭をなでている。
時計を見たら19時を過ぎそうだったので、狸をひとなでしてから徳島へ戻ることにした。
「じゃあ、しばらく頼む」
「任せてください! 良い名前を考えます」
「ああ、よろしく」
自信満々に胸を張るので、あまり期待せずに返事だけをしてワープを行う。
霊山寺に戻り、夏美ちゃんへ数分で着くとメッセージを送ってからホテルへ向かった。
夏美ちゃんたちが泊まっているホテルに着くと、入り口で夏美ちゃんと田中先生が数人の人に囲まれていた。
2人が困っているようなので、助けるために盾を持ってから近づく。
「お待たせしました。この人たちは敵ですか?」
全員が一斉に俺の顔と盾に注目して、焦りながら夏美ちゃんが俺の左腕を押さえた。
「なんでもないよ! あの人たちとはちょっと話をしていただけだから、もう行こう!?」
「それならいいんですけど……」
田中先生がこの隙に夏美ちゃんのそばまできていた。
夏美ちゃんに引かれながらホテルから離れようとすると、集団が俺をにらんでいる。
(かわいい殺気だな。モンスターをまともに倒したこともなさそうだ)
集団に対して興味がなくなったので、必死に俺の腕を離さないようににぎる夏美ちゃんへ声をかけた。
「夏美ちゃん盾をリュックへ入れたいんだけどいいかな?」
「本当? 殺さない?」
「そんなに迷惑のかかることはしないよ。俺は彼女役の夏美ちゃんを助けるためにごみを振り払おうとしただけだって」
「離すけど、ちゃんと入れてよ」
夏美ちゃんが俺の盾の行方を気にしているため、リュックへ片付ける。
すると、横をあるいていた田中先生があきれるようにつぶやく。
「人のことをごみってひどい言い方ね……」
「なら、大勢で囲んで人を困らす人のことをそれ以外なんと呼べばいいんですか?」
「うーん、邪魔者……とか?」
田中先生も邪魔と思っていたらしいので、強引に振り払えばよかったと考えてしまった。
ただ、対応していた田中先生の様子からナンパとかではないと感じていたため、今後も続くようなら対応を考えなければならない。
「そもそも、あれはなんだったんですか?」
「先にきていた弓道協会の役員の人の孫とか息子たちよ。年齢が近いからって晩御飯に誘われていたの」
役員の親族に怪我をさせたら、2人立ち位置が悪くなってしまっていただろう。
力で解決しなくてよかったと思いながらも、ある疑問が頭に浮かぶ。
「あの人たちはなんであんなに弱そうなんですかね」
「どういうこと?」
「いえ、役員の親族だというのにまったく脅威に感じなかったので」
「日本代表のあなたから見ればみんな同じなんじゃないの?」
「そうなんですかね……」
俺が強くなったからそう見えただけなのかと、腕を組んで悩む。
(スライムとバフォメットの脅威度を比べてみようかな……)
俺の中にある基準が変わったというのなら、別の指標を定めればいいだけだった。
簡単に問題が解決したので街を眺めながら歩いていたら、田中先生がお好み焼き屋さんの前で止まる。
「今日はお好み焼きよ。金時豆が入ったのがおススメらしいわ」
俺は朝から何も食べていないため、お腹に入ればなんでもよかった。
お店へ入ろうとしたら、夏美ちゃんが不安そうな顔を田中先生に向けている。
「真さん、甘いのを入れてお好み焼きに合うんですか?」
「私も食べたことがないからわからないわ。とりあえず入りましょう」
田中先生は楽しみにしていたのか、楽しそうにお店の扉を開けた。
意外にも混んでおり、30分ほどしてから席に案内される。
「豆玉を3つお願いします」
メニューを見ることもなく、椅子に座った直後に田中先生が注文をしてくれた。
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