夏休み約束編③~四国お遍路巡り~
四国お遍路イベントは88箇所ある寺のどこからでも始めることができる。
しかし、せっかく行えるのなら、始点と言われている徳島県の北東にある鳴門から開始したい。
(
霊山寺内にある
この世界のお遍路も厄払いなどの意味があるようで、認知はされているようだった。
(本当の意味でのイベント攻略はされていないみたいだけど)
霊山寺の入り口にある仁王門を通り、本堂へ向かわずに多宝塔の前に立ち、手を合わせる。
そして、心の中で塔へ語りかけるように祈った。
(クエストを教えてください)
しばらく同じ姿勢で待っていたら、頭の中に無機質な声が響いてくる。
『24時間以内に遍路を5周せよ』
「は!?」
予想していなかったクエスト内容に混乱し、思わず声が出てしまった。
聞き間違いかと思って、再度心の中でクエストの確認を行う。
『残り23時間59分40秒、5周』
聞き間違いではないようなので、俺は霊山寺の本堂へ手を合わせに駆け始めた。
手を合わせてお辞儀をすればその場所へ行ったことになるので、それを後87箇所行えば1周が終わる。
次のお寺へ向けて走りながら、ゲーム内でのイベント内容を思い出す。
このイベントは本来、ハイキングのようにワイワイと和やかな雰囲気で行われていた。
クエストも複数用意されており、お遍路途中にいるイベントモンスターを数体倒すものや、1日で何箇所訪れなさいなどといった、簡単に終わるようなものばかりだった。
(それがなぜ24時間以内に5周巡れなんてクエストになるんだ!!??)
2箇所目の
俺の背後に現れたモンスターは
大きさは一角ウサギ以下の40センチほどしかなく、ノンアクティブモンスターでスライム程度の強さしかないため、無視することにした。
両手に盾を持ってお寺を出ようとしたら、なぜか豆狸がついてこようとしている。
小さな狸が必死に俺を追いかける姿を見て、居ても立っても居られなくなり、肩へ乗せてみた。
「ついてくるならここに乗っていろ。これでいいのか?」
言葉を話さない狸は俺の肩を手足でしっかりとつかみ、落ちないように踏ん張っている。
必死にしがみついてくる狸がかわいいので、1回毛をなでてから走り始めた。
「ふるい落とされるなよ。行くぞ豆狸!」
「キュー!」
返事をするように幼い鳴き声を出すので、遠慮せずに全力で走る。
急停止急発進を繰り返し、約4時間半で1周目を終えることができた。
久しぶりに息が乱れるほど全力で走り、心地よい疲労感があった。
戻ってきた霊山寺の多宝塔に手を合わせて、クエストの進行状況を確認する。
『残り19時間25分56秒、4周』
周回が少なくなっていることがわかったので、同じペースで走り続ければ、なんとかクリアできそうだった。
さっさと終わらすために多宝塔から立ち去ろうとした時、なぜかクエストを告げる声が頭に響いてくる。
『保護した豆狸をクエスト終了まで守り切りなさい』
「え!? ここで追加クエスト!?」
なんとなく拾ったモンスターがクエストに組み込まれていることに驚き、肩に乗る狸を見た。
つぶらな瞳が俺に向けられており、不思議そうに首をかしげている。
(まあ、別にいいか……)
こんな小さなモンスターを連れて走るくらいなんの負担にもならない。
気にせずに2周目へ突入しようと霊山寺を出たら、外に《けち火(び)》と呼ばれるモンスターが待機していた。
ここへ入る時には存在していなかったモンスターの存在に、クエストとの関連性を疑ってしまう。
けち火は炎の中に人の顔が浮かんでいる怨霊系モンスター。
1メートルほどある赤い炎から火を吹いて攻撃をしてくる。
出口にいる3体ほどのけち火がゆらゆらと宙を漂いながら俺を見張っていた。
寺の敷地内には入ることができないのか、一向にこちらへくる気配はない。
(あいつらからこの狸を守りながら走るのか……建物とか木は燃えないのか?)
周囲への影響などを考えていたら、俺の肩に乗る狸が何度も小さく鳴いている。
豆狸は自分の数倍ほど大きなけち火に怯えているのか、震えて体を俺へ押し付けてきた。
「任せろ。あいつらの攻撃がお前に届くことはない」
お遍路を巡るうちに愛着がわいてしまった狸を安心させるように左腕で抱える。
腕に収まった狸が俺の胸にしがみついてきた。
「2周目の開始だ!」
お寺の外へ出た途端、3体のけち火が一斉に俺に向かって火を放射してくる。
熱風を感じながら駆け抜けて、次のお寺を目指す。
後ろをちらっと見たら、引き離したと思っていたけち火が距離をつめてきており、自分へバフ魔法をかけなおしてしまう。
それでもなおけち火の方が速く、動揺してしまった。
(嘘だろ!? 今の俺よりも速いっていうのか!?)
身体能力Lv50や移動速度向上LV50を付与した俺よりも速いモンスターを、リバイアサン以外では初めて相手をする。
考えられるとすれば、けち火がイベントモンスターなので、イベント対象者の実力に比例して強くなるという仕様に変わっているかもしれないということだ。
回り込んできたけち火たちは、俺の抱えた豆狸に向かって火を吹くものや、体当たりをしてきていた。
「アースブレイクパリィ!!」
スキルを二重発動させて、それらすべての攻撃を防ぎ、同時に体へ雷の魔力をまとわせた。
リバイアサンよりも速くなる能力向上を行い、雷の如く疾走する。
流石にこの速度では、けち火はついてこられないらしい。
左手の盾で狸を風から守るように抱えながら走る。
2回目の出発から2時間もしないうちに2周目が終了した。
お寺へ参拝するために留まるとけち火に追いつかれていたので、常に雷を身にまとって走ることになった。
辿り着いた3度目の多宝塔を見上げるように、地面へ大の字に倒れてしまう。
息が上がり切り、荒い呼吸を止めることができないので、心の中でクエストの確認をする。
『残り17時間58分20秒、3周』
かなり早く回れたため、時間的に余裕ができた。
息が整うまで休むために目を閉じたら、再び感情のない声が頭に響く。
『10分以内に出発しないとクエスト失敗とします』
「なんでだよ!!」
俺を苦しめようとするクエストの条件の追加に、思わず声とともに立ち上がっても返事をされない。
俺が急に動いて驚かせたのか、豆狸が俺の足元へすりよってきた。
「ああ、ごめん。もう行かないといけないらしいから、きてくれる?」
「キュ!」
左手を差し出すと豆狸は嬉しそうに鳴いて、俺の腕に納まる。
参拝してから寺の外へ出ようとしたら、スマホがうなり始めた。
画面を見たら、夏美ちゃんから電話がかかってきており、俺が必要なことが起こったのかと思ってすぐに出る。
すると、夏美ちゃんは声をひそめるように、小声で話しかけてきていた。
「……一也くん、ちょっといいかな?」
「大丈夫だよ。なにかあった?」
返事をして、お遍路巡りを中断すると最初からになるのかと疑問を持ちながら歩いていると、お寺の外に《青い》けち火が現れ、地面を凍らせている。
色が違うのは知っていたが、まさかこんな妨害をされるとは思わず、足が止まる。
「ねえ、私の話聞いてる?」
「……ごめん、最初からもう一回言ってもらってもいい?」
衝撃的な光景に、夏美ちゃんの話が何も耳に届いていなかったので、素直に謝ってしまった。
ため息をつきながらも、夏美ちゃんは再度俺へ何かを教えてくれる。
「時間的にお昼は食べちゃったと思うから、晩御飯を一緒に食べに行きましょう」
「分かった。夕方ぐらいにホテルの前で待っているよ」
「ありがとう、よろしくね」
夏美ちゃんとの電話を終了し、夕方までにクエストを終わらせなければならなくなった。
俺は氷の道を走破するべく、案を考える。
(2種類の魔力を同時に使うしかないか……)
今までやったことのない技術を習得するために氷の道へ向かって走り始めた。
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