夏休み編⑪~最強への足がかり~

 大量の鞭を購入してから、俺は再びファラオの眠るダンジョンへきていた。

 目的は、鞭熟練度の向上と、多重攻撃マルチプルアタックの取得だ。


 ほとんど物理攻撃の効かないメタルゴーレムに対して、全力で鞭を振るい続けていた。

 武器として売られている物がなかったため、乗馬用やコスプレ用のといったありとあらゆる鞭をすべて購入し、千切れたら新しい物を取り出して使用している。


 鞭を振りながら、鞭王が京都で繰り広げた活躍を思い出す。

 縦横無尽に鞭を振るい、襲いかかってくる鬼を一歩も動くことなく迎撃し、本気のぬらりひょんでさえ相手にならなかった。


 その活躍を支えた原動力こそ、多重攻撃という《パッシブ》スキルだ。


 同じ多重という意味なら、マルチプルショットや五月雨突きも同じように発動させることができる。

 しかし、鞭熟練度Lv10で取得できる多重攻撃は、体力回復力向上と同じ常時発動スキルのため、魔力を使用しない通常攻撃でも効果を発揮する。


 一心不乱に鞭を振っていたら、鞭と同じ形の魔力の塊が飛び出した。

 メタルゴーレムに当たるものの、魔法攻撃のため打ち消されてしまっている。


「やっとLv3か」


 ちょうど、今Lv3で取得できる《ワイドアタック》を使えることができた。

 ワイドアタックは、武器の大きさに対してLv分まで遠くの相手へ届くように攻撃範囲が広がるスキルだ。


 これで多重攻撃を取得した場合、1回分の魔力消費のみでLv本数分の攻撃が《自動》発動する。

 手応えを感じながらメタルゴーレムの攻撃を避けながら鞭を振るっていると、スマホが振動した。


(やっと楽しくなってきたところだ! 邪魔をするんじゃない!!)


 ワイドアタックを使用し続けることで、メタルゴーレムとの距離を空けながら戦うことができる。

 ようやく鞭に慣れてきたので、今戦闘を中断したくない。


 何度も唸るスマホを無視して戦闘を継続していると、今度は鞭から風の刃が放たれた。

 メタルゴーレムの体に一筋の切れ目のようなものが残り、効果を確認する。


(《ソニックウェーブ》を取得できたぞ!)


 斬撃系の遠距離攻撃が可能になる《ソニックウェーブ》。

 魔法攻撃ではなく、剣と同じような斬撃系の攻撃になるので、魔法の効かないメタルゴーレムにダメージを与えることができる。

 これは鞭熟練度Lv5で取得できるスキルのため、順調に上昇していることがわかった。


(どんどんいくぞ!!)


 俺はリュックに詰まっている鞭が使えなくなるまで振り続け、なくなったらレべ天に送ってもらうという作業を繰り返す。



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『もう1本も鞭がありません』

『そうか、ありがとう』


 レべ天から大量に購入した鞭が尽きたことを知らされたので、急所突きでメタルゴーレムに止めを刺す。


 どれくらい鞭を振っていたのかわからないが、魔力が残っていなくてワープが行えないため、歩いて地上へ出ることにした。


 俺が地上に出ると太陽が昇っており、ダンジョンへの扉が元からなかったかのように見当たらない。

 暗い地下にいたので、明るい日差しに目が慣れず、周りに何があるのかわからなかった。


「もしかして、佐藤一也くん?」


 目を細めている俺へ、後ろから女性のような声が聞こえてきた。

 その方向へ顔を向けると、見たことがあるような女性とその仲間と思われる人たちが防具と銃器を持って立っている。


「ピラミッドカーニバルに参加する人ですか?」


 その言葉を聞いて、先頭にいる女性の人が苦笑いをしながら俺を見てくる。


「あなたも参加するんじゃないの?」

「申し込みをしていないので、参加しませんよ」

「それなのにこんなところにいるの!?」

「こんなところ?」


 女性がこんなところと言うので、周りを見たら何かを囲うように等間隔で人が集まっていた。

 その人たちがみんな同じ方向へ顔を向けていたので、俺もその先を見たら、遠くの方に複数のピラミッドが立っている。


(表ピラミッド……普通のファラオしかいないから倒しても……)


 なんの条件もなしに入れるピラミッドを《表ピラミッド》と呼び、水属性の攻撃に弱い上級モンスターが集まっているため、魔法職のレベル上げ道場になっていた。

 俺は水の攻撃をウィンディーネに頼り切っていたため、覚える気がなくなっていた。


(ただ、海底神殿に行くのはしんどいんだよな……)


 修復が終わった海底回廊のダンジョンへ行くのは、スカイロードと同様に明の補助がなければ難しい。

 水を自由に使えるようにならなくとも、水属性のオーラを使用するために水属性の魔法を覚えようと考えた。


(人が多いのも嫌だし、終わった後にくるか……)


 俺が考えているときに、周囲からカウントダウンが聞こえてくる

 カーニバル開始の合図だと思うので、最後に女性へ質問をした。


「これっていつ終わりますか?」

「《ミノタウロス》がいるから、日没には撤収よ!!」

「教えていただき、ありがとございます」


 太陽の位置を見て、まだ時間に余裕があると思ったので、街へ向かって歩き始めた。

 俺の後ろでは、カウントダウンが終了したので、混乱しながらも日本人のPTがピラミッドを目指して走っていた。


 街に着いた俺はレべ天に杖を送ってもらい、隠密を使用しながら杖を構える。


「ウォーターミサイル!!」


 杖から1発の水が勢い良く発射され、地面に当たると貫通するように穴が開き、周囲が濡れていた。

《ウォーターミサイル》はファイヤーアローが水になったようなものだ。


 このスキルもLv分の本数が発射され、威力が増すので、熟練度を上げるに越したことはない。

 表ピラミッドの攻略準備が整った俺は、日が暮れるまで近くのお店で休むことにした。


 日没になったので街を出るために歩いていたら、《ミノタウロス》が数体運ばれているのを目にする。

 4メートルほどある牛の巨人が銃でめちゃめちゃにされた状態で運ばれており、じっくりと眺めるために足を止めた。


 ミノタウロスは、牛頭人身の巨人で、斧を振るって攻撃をしてくる。

表ピラミッドを守る兵士としての役割をもっており、1階部分に大量に存在するため、今日の狩りで倒されたものが運ばれているのだろう。


(銃器でも倒せるんだな……)


 そう思いながらピラミッドに向かうと、完全に日が沈んでいた。

 なぜか表ピラミッドの入り口を数人の屈強な男性が塞いでおり、日本人の女性がアラビア語を使って抗議をしている。


「まだこの中に仲間がいるの! どいてよ!」

「もうだめだ! 夜になるとミノタウロスが狂暴になるから死にへ行くようなもんだ! あきらめろ!」

「でも!!」


 女性が涙ながらに訴えているものの、入り口を塞ぐ男性たちは一向に退こうとしていない。

 俺は気にせずピラミッドへ入ろうとするものの、大きな手に遮られた。


「命を粗末にするな。お前はまだ子供だろう?」


 現地の男性が俺を心配するように見下ろしてくれていたが、俺には不要の気持ちだった。


「問題ないです。通してください」

「お、おい!!」


 それでも俺を止めようとしてくる男性の手を引いて後ろへ向かって転ばすと、ピラミッドの入り口に顔を真っ赤に染めて、興奮したように鼻息の荒いミノタウロスが現れる。

 夜になり憤怒状態になっているミノタウロスは、地面へ向けて持っていた斧を叩き付けて轟音を響かせ、門番のように威嚇しながら周りを見回す。


 ミノタウロスの起こした音を聞き、周囲にいた人たちが一斉にこちらを見ていた。


 抗議をしていた女性や、止めていた男性、帰ろうとしていた人たちが恐怖を浮かべながらこちらを見る中、俺は杖をミノタウロスに向けて《宣言》を行う。


「ピラミッドに引きこもるモンスターども!! 今から倒しに行くから待っていろ!!」


 その瞬間、ミノタウロスが俺へ向けて斧を振るってくるので、パリィで受け流し、頭に向かって杖を叩き付けた。

 多重攻撃による杖の一撃でミノタウロスの頭蓋骨を粉砕し、道を塞ぐように倒れるため、飛び乗って後ろを振り返る。


「俺は先へ進みます。ついてくるなら勝手にどうぞ」


スキル


体力回復力向上Lv50

(Lv5) ┣[+剣熟練度Lv5]攻撃速度向上Lv50

(Lv10)┗キュアーLv50


剣熟練度Lv50

(Lv3) ┣挑発Lv50━[上級]宣言Lv50

(Lv5) ┣バッシュLv50

(Lv10)┗ブレイクアタックLv50


両手剣熟練度Lv50[上級+剣熟練度Lv10]

(Lv10)┗一刀両断Lv50


メイス熟練度Lv50

(Lv3) ┣[+ヒールLv3]身体能力向上Lv50

(Lv10)┗魔力回復力向上Lv50


ヒールLv50

(Lv5) ┣移動速度向上Lv50

(Lv10)┗[上級+キュアーLv10]ホーリーヒールLv50


杖熟練度Lv50

(Lv3) ┣ファイヤーアローLv50

     ┃(Lv10)┗━[上級]ウォーターミサイルLv1 NEW

(Lv5) ┣ライトニングボルトLv50

     ┃(Lv10)┗━[上級]ライトニングストームLv50

(Lv10)┗テレポートLv40━[上級]ワープホールLv50


短剣熟練度Lv50

(Lv3) ┣鑑定Lv50

(Lv5) ┣スキル鑑定Lv50

(Lv7) ┣急所突きLv50

(Lv10)┗[上級]隠密Lv50


盾熟練度Lv50

(Lv5) ┣[上級]パリィLv50

(Lv10)┣シールドバッシュLv50

(Lv10)┗[上級]シールドブーメランLv50


拳熟練度Lv50[上級]

(Lv3) ┣アースネイルLv50

(Lv5) ┣[+ファイヤーアロー等]魔力放出Lv50

     ┃(Lv10)┗属性付与Lv50

(Lv5) ┣旋風脚Lv50

(Lv10)┗錬気Lv50


弓熟練度Lv50

(Lv3) ┣気配察知Lv50

(Lv5) ┣鷹の目Lv50

     ┃(Lv10)┗[上級]暗視Lv50

(Lv10)┗[上級]マルチプルショットLv50


槍熟練度Lv50[上級]

(Lv3) ┣騎乗Lv50

(Lv5) ┣ソニックアタックLv50

(Lv10)┗五月雨突きLv50


鞭熟練度Lv18[上級]

(Lv3) ┣ワイドアタックLv18 NEW

(Lv5) ┣ソニックウェーブLv18 NEW

(Lv10)┗多重攻撃Lv18 NEW


銃熟練度Lv1


[シークレットスキル]

守護神の加護

海王の祝福

水神の寵愛

空神の解放


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