夏休み編⑩~絵蓮さんの優勝祝い~
「それってどういう意味なの?」
「……意味ですか?」
「ええ、贈った意味よ。あなたがなんの理由もなしにプレゼントなんてしないわよね?」
なぜか尋問口調になった絵蓮さんの言葉を受けて、悪いことをしたかと考えてしまった。
しかし、花蓮さんにはこれまでPTメンバーとしての感謝を形にしたかったと感じて贈ったため、なんにも後ろめたいことがない。
絵蓮さんの視線に負けることなく、瞳を見返した。
それに、花蓮さんだけではなく真央さんにもプレゼントを贈ったので、一緒に伝える。
「花蓮さんだけではなく真央さんにも、これまでのPTメンバーとしてついてきてくれたお礼としてプレゼントをしましたよ」
「真央も貰ったの!?」
絵蓮さんは真央さんのことは知らなかったのか、テーブルを叩きながら俺へ聞いてきていた。
別に隠すことでもないので、プレゼントを思い出しながら絵蓮さんに説明をする。
「はい。真央さんには、銀色の指輪をプレゼントしました」
「ゆ、指輪!? ちょ、ちょっと待って!! 花蓮にも指輪をあげたの!?」
指輪と聞いて絵連さんがうろたえ始めるので、俺は逆に落ち着いて対応することができた。
アクセサリー屋さんでしたことを振り返り、花蓮さんのために買ったものを思い出す。
「花蓮さんには剣の飾りが付いたネックレスを選んであげましたよ」
「あなたが? 選んであげたの?」
「はい」
絵蓮さんから質問をされているときに、ランチのプレートと飲み物を届けてくれた。
お腹がすいていたので両手を合わせてから食べようとしたら、絵連さんが悲しそうに箸を持っている。
しばらく無言のまま食べていたら、前に座る絵蓮さんが箸を持ったままほとんど食べようとしていなかった。
体調を崩したのかと思い、声をかけようと絵蓮さんを見るために顔を上げる。
「ねえ、一也くん。私、剣術大会で優勝したんだけど、お祝いってしてくれないの?」
絵蓮さんは俺が顔を向けると同時に、伏し目がちに俺へ聞いてきていた。
そのお祝いなら当日の夜にした記憶があるので、食べながら返答をする。
「おめでとうって言いませんでしたっけ? それに質問に答えるっていうプレゼントもしましたよ」
「あ、うう……そうだったわね……」
絵蓮さんは俺の言葉を聞いて、悔しそうに食事を始めていた。
そんな姿を眺めていたら、強くなるためにモンスターに対して剣を振るっていた絵蓮さんと同一人物なのかと感じてしまう。
(そんなにお祝いしてほしいのかな……)
優勝したお祝いは終わったので、今の強さになるまで頑張った件で褒めてあげたいと考えてしまった。
先にランチを食べ終わり、ドリンクを飲みながら思考を巡らすものの、何も答えが出ない。
もう直接聞いた方が絵蓮さんの希望に添えるので、コップをテーブルに置いた。
「絵蓮さんがお祝いされるとしたら、何をしてほしいですか?」
「え!? してくれるの!?」
「……検討するので、希望を聞きます」
「本当!? 嬉しい!!」
食事を再開する絵蓮さんは先ほどまでとは違い、笑顔になってくれた。
俺が少し何かをするだけでこんなに嬉しそうにしてくれるのなら、できるだけ叶えてあげたい。
なににしようかなと言いながら箸を動かす絵蓮さんも食事が終わり、にこやかに俺へ話しかける。
「一也くんが本気で戦っているところを見たいわ。それと何か私へプレゼントしてくれると嬉しいな」
「ひとつじゃないんですか?」
「ええ、希望だから複数考えてみたの。どうかしら?」
絵蓮さんが微笑みながらテーブルに肘をついて、ふたつのことを要求してきていた。
どちらでもいいと言ってはいるものの、別に両方してあげても問題ないことに気がつく。
(俺が戦っているところへ連れていくのと、何かをあげるだけなら片手間で済むよな……)
絵蓮さんの苦労を考えたら、本当にこんなことでいいのかと悩んでしまった。
黙っていたら、絵蓮さんが少し顔を下げて俺のことを上目づかいで見てくる。
「だめ……かしら?」
そんな顔をされたら断れなくなったので、絵蓮さんの希望通りにすることにした。
「両方やります」
「両方!? いいの?」
「大丈夫です。今は装備がないので、準備ができたら連絡しますね」
「嬉しいわ! ありがとう!」
伝票を持ってお店を出ようとしたら、絵蓮さんが支払ってくれると言ってくれた。
言葉に甘えてお礼を伝えながらお店を出た時、なんのプレゼントをすればいいのかわからなくなる。
「絵蓮さん、プレゼントはなにがいいんですか?」
「それは一也くんが考えてほしいな」
前を歩く絵蓮さんが振り向き、弾けるような笑顔を俺へ向けてきていた。
絵蓮さんに試されているような気がしたので、1度だけうなずく。
「わかりました。考えておきます」
「ふふっ。よろしくね」
そう言いながら踵を返して、上機嫌に手を後ろで組んで絵蓮さんが歩き始めていた。
すると、少し歩いてから、あっと声を出して急に立ち止まってしまう。
「ごめん、一也くん。私、これからやらなきゃいけないことあるのを思い出したから、行くね」
「わかりました。一緒にお昼に過ごせてよかったです」
「私もよ。じゃあね」
絵蓮さんへ数回手を振って見送り、俺も本気で戦うために必要な準備をすることにした。
スマホで近くにある雑貨屋さんを数軒探し、俺の求める《もの》を大量に購入する。
購入したものはリュックに入れて、パンパンになったらレべ天に家へ送ってもらっていた。
『一也さん! さっきから何を送っているんですか!? 私はこの子たちのお世話があるので暇じゃないんですけど!!』
この作業を数十回していたら、学校にいると思われるレべ天から苦情が届く。
ただ、杉山さんの手が空いていないので、大量に安い物を購入するしか強くなるための用意ができない。
『あと数件で終わるから、もうちょっと頼むよ』
『そんなに大量の【鞭】を何に使うんですか!? 乗馬用でもこんなに用意しませんよ!?』
俺はありとあらゆる店から、鑑定して【鞭】という結果が出た商品を買っていた。
上級になり鞭熟練度が獲得できたことで、俺は次に使用する武器は鞭以外に考えられない。
最強筆頭の武器である鞭。
上級職のままエンシェントドラゴンに勝つには、この力が必要だと思った。
『これからダンジョンに籠って、《
『あのスキルを……わかりました。それならいくらでも力をお貸しします』
『ありがとう!』
雑貨屋さんに置いてある鞭のような形状の物を手にして、鑑定する作業を再開する。
同時に、鞭が最強と言われる由縁を思い出してしまった。
あれは、大量に上級職へ上がる中、それまで誰も使わなかった鞭にこだわった1人の少女が繰り広げた活躍であり、俺が拳を極めると決心した出来事。
(のちに、【
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