夏休み編⑧~ファラオの眠る部屋へ~
階段を降りようとするものの、ここにも見えない壁があり、先に進めない。
倒さなければ通れないため、ガーゴイルの背後に立った。
(やるか!)
ガーゴイルは見ていないときにしか攻撃が効かない。
今回は気配がわかるため、攻撃をあえて受けてからのカウンターを狙うという手段をとらなくてもよい。
今は硬い尻尾のようなものを踏んで、目を閉じる前に拳に魔力を込めておく。
目を閉じると足元の尻尾が柔らかくなるので、全力で炎の拳を放出する。
「五月雨バーニングフィスト!!」
振り向こうとしていたガーゴイルが多数の炎の塊とともに壁に叩きつけられ、気配が消えた。
目を開けて暗視を発動させたら、焦げたような跡が壁に残っている。
(強くなったもんだ……)
ゲームで苦戦した相手を瞬殺して、自分が過去以上の能力を持っていることを実感した。
部屋の中央にある階段の先には、俺が会いたくてたまらない主がいるので、胸の高鳴りを抑えながら足を進める。
階段を下りた先には、ここだけ異様に輝いている黄金の扉が待っていた。
扉の中心には見飽きたファラオの紋章が描かれている。
この扉にも開けるような仕組みがないため、両手で押し込むものの、まったく動かない。
(おかしいな……何もしなくても開いたはずなのに……)
このダンジョンへ入る時と同様に力任せに開けようとしたとき、全身を押されたように後ろへ弾き返されてしまった。
予想外の力が加わり、思わずしりもちをついてしまう。
(なんなんだ!?)
俺の知らない不可視のモンスターがいると思い、気配察知を発動してもなにもいない。
よく分からない状況になって困ってしまった。
また扉を殴るために拳を振り上げようとしたら、体を止められる。
『あなたにはここを通る資格がありません』
レべ天以外の声が頭に響いたので、力を抜くと解放された。
扉の前でどこにいるのか分からない相手へ向かって言葉を放つ。
「どういうことだ!? お前は誰だ!!」
声が反響して、待っているものの返事がない。
納得がいかないので、それからも何度か扉を強引に開けようとしたら、突き飛ばされたり、止められたりするので全力で抵抗することにした。
全身に赤いオーラをまとわせて、すべての力を拳に込める。
(当たって砕けてやる)
一刀両断をするために手刀を構えて扉の前に立った。
全身を押されるものの、抵抗して足を踏み込む。
『もう止めてください!! あなたが最上級クラスではないため入れないんです!! 何をしても無駄ですよ!!』
「あ……ここって制限があるダンジョンだっけ……」
このダンジョンはファラオという王の前に立つ資格が必要であった。
その資格が、【最上級職業であること】なので、この世界でいうと格が【7】にならなければいけないと思われる。
「くそっ! この先に主がいるのに入れないのか!」
声の主に扉が開けられない謎を気付かされてしまい、全身の力が抜けてしまった。
扉の前にいると悔しさが込み上げてくるので、その場から離れて【ファラオの秘宝】を探すことに切り替える。
(まあ、今回は様子見できたし、【秘宝】さえ確保できればいいや)
ダンジョンの構造や敵の様子などを確認できたため、あとは秘宝さえ手に入れれば、当初の目的を達成することができる。
(ボスに会えなかったのは残念だけど、これで他のダンジョンも同じように存在することがわかった)
世界中に存在するダンジョンに思いを馳せながら壁を調べていたら、扉と同じファラオの模様が刻まれた箇所を見つけた。
そのほかの場所にも似たような紋章があるものの、微妙に違っており、同じものはここにしかない。
俺は大体の位置を知っていたために探し当てることができたが、何もわからない状況でこれを発見することはできないだろう。
この部屋に何か隠し要素がないか探していたマッパーが偶然発見した秘宝。
その効果は本人しか分からなかったが、すべてのダンジョンをマッピングした英雄が持っていたものだ。
凶悪なモンスターがはびこる場所においても、草1本の種類にいたるまで詳しく書いてあるサイトを全世界の人間が参考にした。
(おそらく秘宝の恩恵によるものだと思うが、あの執念は俺の拳に通じるものを感じたな)
模様が刻まれている壁を押し込むと、石が擦れる音とともに人がぎりぎり入れるスペースが開いた。
中には小部屋の中心に胸の高さほどの台があり、茶色い皮でできたブレスレットが置かれている。
金でできたファラオの紋章が小さく入っており、手に取ると勝手に左手へ巻きついてきた。
外そうとしても留め具のようなものがないため、引きちぎるしかない。
俺の手首にフィットしているために隙間がなく、どうしようかと悩んでいたら、台の上が輝き始めた。
思わず光源から目を守るように手を出して、光をさえぎる。
光が収まると、台の上に褐色の少女が座っていた。
白い服に身を包む少女が指を鳴らすと、部屋が明るくなる。
「はじめまして、佐藤一也さん。私はこのダンジョンの守護者、【セティ】です」
「……はじめまして」
必要がなくなったヘッドライトを外して、ていねいにあいさつをする。
セティと名乗る少女の声は、ファラオの扉の前で俺の頭に響いた声とそっくりだった。
セティが台から降りようとするものの、地面へ足を伸ばしてもなかなか届いていない。
危なっかしくて見てはいられないので、一言かけてから助けることにした。
「ちょっと抱えるね」
「すみません……」
セティの脇を抱えて、優しく地面へ降ろす。
金色に輝く髪の毛が舞い、俺に向かって頭を下げている。
「ありがとうございます。助かりました」
「気にしないで。それより、これ取れないの?」
装備を外した左手首を見せると、セティが俺へ笑いかける。
「はい! それは一也さん専用になったので外すことができなくなりましたよ! おめでとうございます!」
少女が嬉しそうにあどけない笑顔で祝福をしてくれているので、外してくれと言えなくなった。
手をぱちぱちと叩く少女の横に座り、左腕を上げる。
「それで、これはどんな効果があるの?」
「ファラオの空間を作り出すことができますよ!」
「……なにそれ」
「ご説明しますね!」
セティからブレスレットの効果を聞き、マッパーが全ダンジョンのマッピングができた理由がわかった。
これに魔力を込めると、半径5メートルのフィールドが形成される。
そのフィールド内にいたら、自分が認知されなくなるようだ。
発動時間の制限はないが、別の場所で使うためには24時間のクールタイムが必要になる。
また、この中から何をしても外へ影響が及ばないので、攻撃は一切できないし受けない。
それに、効果が自分にしか使えないようだ。
説明を聞き終わった俺は、思わず左手のブレスレットを見ながらつぶやいてしまった。
「超快適なひきこもりフィールドが作れるのか……」
俺の言葉を聞いて、セティに苦笑いをさせてしまう。
この場所にはもう用がないので出ようとしたら、セティが手を振りながら見送ってくれた。
「一也さんが最上級職になるのを待っております」
「任せろ。セティも待たせてごめんね」
俺も手を振りながらワープを行い、日本へ帰る。
エジプトは真夜中だったのに、日本では太陽が昇っていた。
(時差どれくらいなんだろう……後で調べるか……)
リュックの中にある謎の金属を杉山さんへ渡すために武器屋へ向かい始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます