夏休み編⑦~ピラミッド侵入~
「よくやったぞ!」
「一緒に飲もうぜ!!」
集団が複数の人たちに笑顔で囲まれて、祝福されているようだった。
話を聞いていたら、一緒に突入する人が自分の意見も言えないようじゃ安心できないそうだ。
それに、あえてアラビア語用の紙を渡されたのは、ギルド員の優しさらしい。
ここには英語を勉強できずに、冒険者しかできないという人もいるため、アラビア語がわからないと会話がまったくできないことがある。
そのため、グループの中に誰かひとりでもアラビア語が分からないと受付をしたくないそうだ。
無事に日本の人がカーニバルに参加できるのを確認してから、俺はギルドの外へ出た。
(もう日が暮れている……)
街にある大きな時計を見たら、19時になっていた。
リュックから簡易的な食料を取り出して、夕食を食べ始めた。
「ねえ! きみ、佐藤くんでしょ?」
「え!?」
食事で気が緩んだのか、座って食事をしていたら声をかけられた。
名前まで知られているので、ごまかすことができない。
上を向くと、先ほどアラビア語を書いた20代前半の女性が立っており、俺を笑顔で見ていた。
食べているものを飲み込んでから、女性の対応をする。
「はじめまして、私はRank4になったからピラミッドカーニバルに参加するためにきたんだけど、あなたもなの?」
「いいえ。俺は観光にきました」
ここから離れるために立ち上がり、服のほこりを払っていたら、女性が苦笑いで俺を見る。
「佐藤くんって……うそが下手って言われない?」
「どうしてですか?」
上手な自覚もないが、観光が目的ではないことがわかったのか気になる。
離れる前に理由を聞くために女性の顔を見たら、指を出されてそれと言われた。
「観光にきていたら現地の美味しい物を食べようとするでしょ? でも、佐藤くんはそこらへんで買える物で済ませている。そんな人が観光にきたと思うかしら?」
「なるほど、気を付けます。それじゃあ、あなたの無事を祈ります」
指摘された通りだと思いながら、その場を去ることにした。
追いかけられないように、小道に入って隠密を行う。
レべ天に黒騎士装備を送ってもらい、ピラミッドへ向かって走り出した。
孤独な王がいるピラミッドは地表にはない。
多数の無機物モンスターと共に地下にあるダンジョンに閉じこもっている。
(あのダンジョンも海底神殿などと同じように砂漠のどこかに存在しているはず)
入り口はふたり以上で近づこうとすると消えてしまう。
しかし、海底神殿よりも見つけやすい点もあり、他のピラミッドの近くには絶対に現れない。
近くがどの程度かわからないが、ピラミッド地帯には見渡す限りなにかの造形物があるため、そこから離れた地面に砂以外のものがないか探し始める。
探索から数時間経つものの、なにも見つけることができない。
夜の砂漠に吹く風が冷たくて、昼間の暑さがうそのように感じる。
(ファラオが
足を進めていたら、自分の考えで何かを思い出しそうになった。
ファラオのダンジョンは必ず暗い場所に出現していた。
(影になっている場所か!!)
今日はよく月が見えているため、この光でも影が落ちている場所が怪しい。
砂山で見えにくくなっている所を重点的に探していたら、1枚の板が地表に埋まっているような気配を感じた。
それに、それ以上地下の気配を探ろうとしても、遮断されたように何もわからない。
(ここだ……ファラオの隠匿している影響がダンジョン全体に及んでいる……)
板のようなものに乗っている砂を旋風脚で振り払った。
地下への扉のような見えるものの、つかむようなものがない。
拳で軽く叩くと石のような材質だったので、手に魔力をまとわせて思いっきり殴った。
(侵入方法も同じということは、この先にあいつがいるはずだ)
叩き割った先が地面の中へ下っていくような階段になっていたので、真っ暗な空間に向かって足を進める。
何も見えなくなる前に、
階段の周りには壁しかなく、ひたすら螺旋階段のように回りながら降りている。
どれだけ時間が経ったのか分からなくなった頃、ようやく階段が終わった。
両脇が数メートルほどで、高さが3メートル程度の小さな廊下が奥に向かってのびている。
(この通路か……懐かしいな……)
ゲームの中で何度も通った通路に足を踏み入れた。
俺の足音が石の廊下に反響すると、目の前に銀色の巨人が現れる。
何もいない空間にいきなり現れたモンスターに対して驚きもせず、俺はオーラを身にまとい戦う準備を始めた。
(メタルゴーレム! やはり立ち塞がるか!)
全身が特殊な金属でできているファラオの眷属。
このメタルゴーレムには魔法が効かないため、物理で倒すしか方法がない。
しかし、アダマンタイトよりも固い金属のため、物理攻撃も効きにくい相手だ。
(この敵が強すぎて、こいつがダンジョンの主と言われるほど倒せる人がいなかった)
倒さないと見えない壁によって先に進めないようになっているので、こいつを無視して奥に行くことは不可能。
メタルゴーレムがドシンと足音を鳴らしながら俺に向かってきていた。
こっちでも魔法が効かないのか試すために、炎の拳をメタルゴーレムに向かって放つ。
「バーニングフィスト!!」
俺の炎がメタルゴーレムに当たるものの、弾かれることもなく触れた瞬間に消滅してしまった。
炎以外の拳も試したが、すべて打ち消される。
本当に魔法が効かないのを確認して、メタルゴーレムを倒す手段を思い出す。
(こいつを最初に倒した人は短剣を使っており、一撃で倒すことができたらしい)
倒した人はその時の戦闘を記録しており、短剣の一刺しで倒す様子を見て嫉妬したこともあった。
ゲーム内での俺は、武器に負けないために数日全力で殴り続けて倒していた。
(今の俺ならこのゴーレムを一撃で倒せるはずだ)
メタルゴーレムを注視して、短剣スキルである【急所突き】を発動させる。
ゆっくりと歩いてくる銀色の巨人の身体に、針のように細い点が見えた。
(そこか!!)
近づいてくるメタルゴーレムに浮かび上がっている点を打ち抜くように拳を振り抜く。
金属に俺の拳がめりこみ、俺を襲おうとするゴーレムの身体が動かなくなった。
拳を引き抜くと、硬直していたメタルゴーレムが頭から崩れ始める。
俺に覆いかぶさるように崩れようとしていたので、後ろへ跳ぶ。
地面に転がる金属が消えずに残っているため、直径が30センチほどあるものを手に取るととても軽い。
「金属がこんなに大きいのにほとんど重さを感じない……」
杉山さんならこれを使って防具を作ってくれそうなので、リュックがパンパンになるまで詰め込んだ。
(次の敵は……めんどうだな……)
暗い廊下を進んでいたら壁が広がり、大きめの部屋になって進めなくなる。
部屋の中心には翼をもつ【ガーゴイル】の像が鎮座しており、それ以外にはなにもない。
俺が近づいて全力で叩くものの、びくともしなかった。
何度殴っても同様に壊れる気配がないので、像から離れて距離を取る。
(これも同じなのか……)
ファラオの寝室を守る護衛を前にして、軽くため息を吐く。
魔力を全身に駆け巡らせ、戦う準備を行った。
ガーゴイルを見ないように目を閉じると、俺に近づく気配を感じる。
風切音が聞こえるので、両手に魔力を集中させた。
「パリィ!!」
俺に向かって飛び込んでくる【もの】を防いで、暗視を発動させる。
すると、目の前に動かなくなったガーゴイルが爪を弾かれた状態で固まっており、その先には下へ続く階段が現れていた。
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