夏休み編⑥~エジプトへ~
Rank【8】の世界中が認めている冒険者となれば、どの国でもフリーパスのはずなので、この方法が使える。
海へ飛び込み、レべ天に黒騎士の装備を送ってもらってから、ディーさんへ呼びかけた。
『ディーさんお願いします』
『任せて! 今行くわ!』
返事をしてから、1秒も経たないうちに小さなリバイアサンに乗ったディーさんが俺の前に現れる。
リバイアサンが俺をにらんでいると、上に乗るディーさんがぺちぺちと鱗を叩いていた。
「リバちゃん! 威嚇しちゃダメでしょ!」
「ごめんなさい……ディーさまが懇意にしている人間と聞いたのでつい……」
しゅんとしながらディーさんへ謝るリバイアサンの姿を見ていたら、またにらまれる。
ディーさんが気にせずに手招きをしながら俺を見ていた。
「一也さま、乗ってください。目的地まで一瞬ですよ!」
リバイアサンからはにらまれたままなので、運んでくれる方へ確認をする。
「えっと乗ってもいいかな?」
さらにギロっとにらまれると、ディーさんが声のトーンを落としてリバイアサンを見る。
「リバちゃん? いいよね?」
「どうぞ……乗ってください」
そう言いながらリバイアサンが頭をさげてくれるので、ディーさんの近くに座ろうとした。
「一也さま。振り落とされたら危ないので、私に抱き付いてください」
「わ、わかったよ」
俺を乗せる様子を見て、海流を操り俺を放り出しそうなので、後ろからディーさんに抱き付く。
その瞬間、海が揺れるような魔力を感じるものの、満足そうなディーさんは気づいていない。
またがっていたリバイアサンへ目を向けると、体中から魔力があふれ始める。
「ディーさん行きませんか?」
「そうね。リバちゃん、できるだけ安全に頼むわね」
「はい……」
ディーさんができるだけと強調しながら言うと、リバイアサンは出だしはゆっくりと泳ぎ出す。
この速度なら安全と感じた直後、周りの景色が後ろへ吹き飛び、信じられない速度で泳ぎ始めた。
ディーさんが楽しそうにつかまっている俺へ顔を向ける。
「どうですか!? 楽しいでしょ!?」
「すごいですね!」
「リバちゃんに乗って海を移動するのが気分転換に最高なの!」
ディーさんがはしゃいでいるのもつかの間、リバイアサンが急停止してしまった。
まだ数分も泳いでいないのにどうしたのかと思っていたら、ディーさんが悲しそうな顔をしている。
「もう着いたみたい。一也さま、もうひと泳ぎしますか?」
「いや、いいよ。ディーさんとリバイアサンも連れてきてくれてありがとう」
リバイアサンから離れると、すぐにいなくなってしまった。
(そんなに嫌われてしまっているのか……)
リバイアサンを倒したことで俺は恨まれていると思われる。
移動手段としては格段に良いので、リバイアサンと良好な関係になるためにはどうすればいいのか考えなくてはならない。
(とりあえず、ピラミッドの近くでワープポイントを記録しよう)
この姿では目立つため、隠密を使用して海岸から上陸した。
ビーチには大量の人が海水浴にきており、道路をはさんだ向こう側には高層マンションが建っている。
(砂漠……どこ?)
イメージしていたエジプトは砂漠しかないという印象だったので、近代的な建物が並ぶ風景を見て、場所を間違えたのかと考えてしまった。
スマホでマップを見たら、俺の今いる場所がエジプトを示している。
そのままスマホへ行きたい場所の入力を始めた。
【ピラミッド ダンジョン】
画面上に徒歩で1日以上かかると表示されているので、目的地に向けて走ることにした。
隠密を使用しているので、姿が見えることがないため、装備を脱いで暑さから解放される。
(暑いわ!! 防具も熱くなるし着けていられない!!)
エジプトの首都であるカイロ周辺にあるピラミッド地帯へ向かっていたら、日差しが強すぎて皮膚が痛くなってきた。
道も舗装がなくなり、砂に足を取られて進みにくい。
なんとかしてピラミッド地帯へたどり着くものの、体力が限界を迎えそうなので、近くの街で休むことにした。
(エジプトってきたことなかったけれど、ピラミッドがないところは普通の土地なんだな……)
スマホで位置を確かめたら、今いる場所が首都のカイロだと表示されている。
ワープポイントのために、人の目に付かないところを探す。
隠密を使って歩いているので、人に当たらないように注意をしていたら、気になる言葉が耳に入ってきた。
「明日はピラミッドカーニバルなんだから、準備を怠るなよ」
声の聞こえた方向には、重火器を持った集団がいる。
準備を行うための場所に向かっているようなので、この国の様子を知るために尾行することにした。
(ピラミッドカーニバルってなんだ?)
ワードで検索してみたら、大量の人がピラミッド地帯に向けてモンスターを狩る日のようだった。
月に一度開催され、ピラミッド内部にいるミノタウロスやミスリルゴーレムなどのモンスターを討伐することもあるそうだ。
(へー、日本よりも討伐しているモンスターのランクが高いな)
ピラミッド内部にいるグリーンドラゴン級のモンスターを倒しており、ミスリルの確保量は世界でも有数のレベルなため、日本よりも討伐が盛んなイメージを持った。
調べていたら、ピラミッドにいるモンスターの素材の需要があるため、高額で取引されているのが主な理由らしい。
追っている集団がある建物に入るので、俺も一緒に中へ入らせてもらった。
中はギルドのようになっており、武器を持った人たちであふれている。
俺が追っていた集団は受付のようなところへ向かい、何かの手続きをしていた。
悪いと思いながら受付の方に回り込んで、どんなことをしているのか盗み見する。
「あなた方は7日後に南西からの突入です。詳しい時間は記入しておいたので確認をお願いします」
「ありがとう」
受付の人から紙を受け取った男性が人を引き連れて、フロアの方へ行ってしまった。
俺は受付の人が持っている用紙を見て、腹ごしらえをしたら今すぐにピラミッドへ行こうと決意する。
【7月用ピラミッドカーニバル申込書 No.4838】
(こんなに入られたら、ピラミッドのソロ突入なんて不可能だ!)
カーニバルは数日間続くので、今日を逃したらいつになるかわからない。
様子見のつもりだったが、気が変わったので、このままピラミッドへ侵入することにした。
フロアで休憩するために気を抜いたら、耳に入ってくる言葉の意味が分からなくなる。
(レべ天の加護がないとこんなになるのか……)
エジプトの母国語はアラビア語のようなので、今俺の耳に入ってきている言葉がそうなのだろう。
珍しいのでそのまま聞いていたら、俺の知っている言葉が聞こえてくる。
「本当にここで合っているのか!? 人がたくさんいるぞ!?」
「ここがカイロの冒険者ギルドって看板に英語で書いてあっただろう!? ちょっと聞いてくるから待ってろ!」
男女数人の日本人がここにきており、先頭の男性が受付へ近づいた。
この中にいた人たちからじょじょに会話が消えて、入ってきた人たちをじっと見始めている。
(こわっ!)
数百人いる人たちが一斉に見つめるので、数人しかいない日本人は委縮しているように見えた。
受付のカウンターでは、ギルド職員の女性が男性に対して塩対応をしている。
「ピラミッドカーニバルへ参加したいんですけど」
英語で自信なさそうに言う男性へ、女性が1枚の紙を渡していた。
「これに記入をすれば参加できるわ」
「すみません、これ……読めないんですけど……」
受付用紙が英語用ではなく、アラビア語用のものを渡されており、男性が困っていた。
すると、後ろから別の日本人女性がペンを持って、字を書き始める。
「これでいいでしょ」
書き終わった紙を受付の女性が受け取ると、先ほどと同じような対応をした。
「あなた方は7日後に北東からの突入になります。詳しい時間は記入しておいたので確認をお願いします」
「どうも」
紙を書いた女性が受付表を渡されると、フロア中から拍手が巻き起こっていた。
ギルドの職員も拍手をしており、日本人の集団は困惑していようだった。
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