夏休み編④~冒険者の税金~
いつも通り数コールで出てくれた佐々木さんへ、税金について聞くと即答された。
「この前、国からの依頼を受けたから、俺たち4人にかかる今年度の税金は免除だ」
「そんな制度があるんですか?」
「ああ、Rank4以上の冒険者は所属する国からの依頼を受ければ免税される制度がある」
佐々木さんに言われたことを前に座るふたりにも伝わるように、オウム返しのように口にする。
そして、何かを悟った佐々木さんは軽く笑いながら電話で話す。
「もう3人の手続きは終わっているから、心配しなくてもいい」
俺たちが集まっていると思ったのか、一番聞きたかった言葉を言ってくれた。
少ししか話をしていないのに、佐々木さんは俺とふたりが一緒だとわかったようだった。
「一緒にいるって言いましたっけ?」
「いいや。きみがこのような電話を自発的にしてくるはずがないと思っただけだ」
「そういうことですか」
確かに俺だけだったら、こんな電話を佐々木さんにかけないだろう。
思い返すと、佐々木さんと電話をする時にはいつも用事があるときだけなので、今度遊びに誘ってみようと考えた。
「ああ、話はそれだけか?」
「はい、今のところ……また電話します」
「ん? わかった」
佐々木さんとの電話を終了させて、ふたりはほっとしているようだった。
真央さんがシートベルトを着けて車を発進させるので、目的地を聞いてみる。
「これからどこへ行くんですか?」
「適当に買い物するために第2地区へ行こうと思っているけど、行きたい店でもあるのか?」
「特にないんですが、服を買いたいです」
花蓮さんが助手席から興味深そうに俺へ目を向けてくる。
「服? 一也、着られればなんでもいいって言っていたのに、どんな心境の変化なの?」
「それは狩りの時だけですよ。夏休みになったので、普通に生活する時に着る服が欲しいんです」
「へー。いいじゃない! 私と真央さんでコーディネートしてあげるわ!」
花蓮さんが嬉しそうに助手席に座り直し、真央さんと俺へどんな服を着させるか相談を始める。
俺は服についてよくわからないので、ふたりに任せることにした。
車をコインパーキングに置いてから、駅前でウィンドウショッピングを開始する。
今日はすべて真央さんが購入してくれるということなので、遠慮なく選べと言ってくれていた。
買い物中に何回か知らない人から写真を一緒に撮ってほしいと頼まれるので、隠密を使用して逃げようかと考えてしまった。
しかし、花蓮さんや真央さんが嫌な顔をせずに笑顔を見せながら対応している姿を見て、くじけてはいけないと思い直す。
ふたりが悩みながら選んでくれた俺の服や、花蓮さんの服を購入した後、真央さんがどうしても欲しいものがあるという店に向かっている。
何が買いたいのか聞いても教えてくれないので、俺と花蓮さんは先頭を歩く真央さんの後を追って歩いていた。
花蓮さんも真央さんがどこへ向かっているのか知らないようなので、予想をしてみる。
「花蓮さん、俺は真央さんが車用品を買いに行っていると思います」
「そんな感じには見えないけど……」
前を歩く真央さんの後ろ姿を花蓮さんが観察しながら言っていた。
妙に気合が込められているので、何を買うのか興味が出てくる。
「なら、花蓮さんは何を買うと思いますか?」
「そうね……私は水着か下着だと思う。たぶん、一也に選んでもらうつもりだと思うから、心の準備をしておくといいわ」
「真央さん俺へそんなことをさせようとしているんですか……」
「ふふっ、私のも頼もうかしら」
俺をからかうように笑いながら花蓮さんが言っている。
心の中で本当にそうだったらどうしようと考えながら歩き始めた。
それからも、花蓮さんと買うものを予想していたら、真央さんがあるお店の前で立ち止まり、俺たちを待っている。
近づいているとお店の中が見えてしまい、俺は苦笑いをしてしまった。
そのお店は水着でも下着でもなく、【アクセサリー】のお店で、真央さんが顔を赤く染めながら待っている。
「さあ、入ろう!」
「……はい」
真央さんが扉に近づくと、自動でガラスの扉が開いて、店員さんに笑顔で出迎えられた。
俺も様子をうかがいながら中へ入り、展示されている物へ目を向ける。
指輪やネックレスがたくさんあり、どれも良い物という印象を受けた。
目についたガラスの棚に入っている指輪を見ながら【鑑定】を行う。
《2カラットダイヤモンド プラチナ》
デザインも俺がかっこいいと思えるもので、値段を見たら7桁に近い6桁だった。
(嘘だろ!? こんなのがそんなにするの!?)
このようなお店に入ったことがないため、鑑定を行いながら商品を確認していたら、リーズナブルな物もあったため、たまたま俺が見た物が高かったようだ。
妙に緊張してしまったので、落ち着くために一呼吸置く。
「一也、こっちにきてくれ!」
笑顔で俺に向かって手を振る真央さんの横には、そばにある商品から目が離せない花蓮さんがいた。
顔をしかめている花蓮さんの表情を見て、おそるおそる足を進めたら、軽く7桁を超える指輪が数個棚の上に並べられている。
「この中から一也が好きなデザインを選んでくれ」
「嘘でしょ……」
真央さんがこういう物が欲しいとは知らなかったため、どんなつもりで買うのか気になってしまった。
選んでいいものか悩んで何も言わないでいると、店員さんがそっと近づいてきていた。
「お客さま、あちらにお忘れ物がありましたよ。こちらへどうぞ」
「え? そんなはずは……」
お店に入ってから何も手から離していないため、忘れ物なんてないはずだ。
確認のために店員さんが示す方向へ向かったら、女性の店員さんが声をかけてくる。
「あちらの女性は数週間前から当店に足を運んでいらっしゃいます」
真央さんや花蓮さんに聞こえないように、背を向けながら小声で話をしてくれていた。
内容が信じられなかったので、俺も小声で聞き返してしまう。
「本当ですか?」
「はい。昨日の夜に太田さまから、【選んでほしい人を連れていく】という連絡がありました」
「そう……ですか……」
「置いてあるものは太田さまが真剣に選んだ物になるので、私からもあなたが気に入った品を選んでいただけるようにお願いしたいです」
女性の店員さんが深く頭をさげるので、俺も覚悟を決めることにした。
「わかりました。ありがとうございます」
そう伝えて戻ろうとしたら、遠くにいる真央さんが指輪をじっと見つめていた。
(よし!)
真央さんの前にある指輪を見下ろして、悩んでも分からないので直感で選ぶことにする。
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