夏休み編③~リヤカー購入へ~
車が止まってくれたので、あいさつをしながら後部座席に乗り込む。
俺がちゃんと座るのを待って、真央さんは車を発進させた。
恥ずかしくてふたりの顔を見られないので、窓から外を眺めていたら、花蓮さんが助手席から後部座席へ顔をのぞかせてきた。
「一也、今日様子が変だけど、なんかあったの?」
「特に……それより、どこへ向かっているんですか?」
「杉山さんのお店よ。アダマンタイトで折り畳み式のリヤカーを作ってくれるんですって」
「豪華なリヤカーになりそうですね……」
いくら余っているとはいえ、リヤカーにアダマンタイトを使うとは思わなかった。
あきれるような声を出したら、真央さんがバックミラーで俺と目を合わす。
「もう壊れてほしくないんだよ。お前が持ち込んだアダマンタイトで作ってもらってもいいよな?」
「いいですけど、製作費は払ってあげてくださいね」
「当たり前だろ。それに、もう相談もしてあって、見積もりを出してもらっているから大丈夫だ」
自信満々に真央さんは俺へリヤカーの見積もりが終わっていると言っていた。
花蓮さんが手で頭を押さえているので、おそらく秘密にしておくつもりの話だったと思う。
口にしてしまった以上、指摘をしなければならない。
気分良く運転している真央さんへ、後部座席から身を乗り出して話かける。
「……それなら、もうリヤカーの買い物終わっていませんか?」
「あっ……えっと……花蓮ちゃん、ごめん……」
真央さんが隠そうともせず、花蓮さんへ謝っていた。
素直に謝られた花蓮さんは文句も言えず、俺を見て苦笑いする。
「どうせ今日は暇なので、付き合いますよ。そのかわり、お金は全部真央さん持ちでいいですよね?」
特に急いでやることもないので、ふたりと遊ぶことにした。
真央さんがほっとしながら運転を続ける。
「まあ……それくらいなら……財布の中身が不安だから、銀行に寄ってもいいか?」
「どうぞ」
車が銀行へ向かい始めるので、ついでにパスポートを持ってそうな真央さんへ質問をした。
「真央さんはパスポートって持っていますか?」
「持ってないけど……海外に行くのか?」
「行きたいんですけど、交付されるのにどれくらいかかるかもわからないですよね」
「そうだな……花蓮ちゃんは知ってる?」
なぜか俺と真央さんの会話を半笑いで花蓮さんが聞いていた。
何かおかしなことを聞いてしまったのかと思っていたら。花蓮さんが急にギルド証を取り出す。
「ふたりとも、これを受け取った時にもらった書類はちゃんと目を通した?」
もらったことさえも覚えていないため、首を横に振った。
真央さんも思い出すように顔をしかめているため、記憶にないと思われる。
俺たちの様子を見た花蓮さんが軽くため息をついて、スマホの操作をしていた。
探していたページが見つかったのか、俺へスマホを差し出してくれる。
そこにはギルド証の身分保障の範囲が書かれており、Rank1でも運転免許証と同じ有効範囲のようだった。
スマホをスクロールする前に、花蓮さんが説明をしてくれる。
「Rank4以上のギルド証は国が身分を保証してくれているから、パスポートの代わりになるの。これをもらったとき一緒に渡された書類に書いてあったから、帰ったら読んで」
「「はい……」」
花蓮さんの言葉に素直にうなずき、もらった紙を探すところから始めようと決意した。
(パスポートの問題がクリアできたから、後は向かうだけか……待てよ……)
エジプトまでの交通手段を考えていたら、車が止まった。
真央さんがシートベルトを外して、軽く謝る。
「お金をおろしてくるから、少し待ってて」
「はーい。たくさんおろしてくださいね」
「そんなに使わせるつもり? まあ、いいけど……」
真央さんが銀行に入る姿を見送っていたら、花蓮さんに話しかけられた。
「一也は銀行口座持っているんだよね?」
「お母さんに作ってもらいました。花蓮さんはないんですか?」
「真央さんが代わりに受け取ってくれているから甘えちゃって……モンスターを狩っても、オークションの手続きは真央さんがやってくれているから、お金がいくら貯まっているのか知らないの」
「花蓮さんでもやらないこととかあるんですね」
そういうことはきっちりするタイプだと思っていたので、花蓮さんの意外な一面を知ることができた。
花蓮さんは軽く笑いながらばつの悪そうな表情をする。
「私、お金にあんまり興味がないから、疎かになっちゃったのよね……」
「花蓮さんのお家って裕福なんですか?」
「んー……どうなんだろう、一也のお父さんと同じ区役所に勤めているから同じくらいなんじゃない?」
俺の父親と花蓮さんのお父さんが同じ場所で働いているなんて聞いたことがない。
おそらく、初めて会った県大会の時に両親が話をしたのだと思うが、家では父親からそんな話をされていなかった。
「そうだったんですね……今、初めて知りました」
「一也……ちゃんと両親と話をしているの?」
「していますよ。昨日も、父親と一緒にゲームで遊びましたし」
「それならいいけど……」
花蓮さんに俺と両親の仲を心配されてしまったので、少し家でコミュニケーションを取ることを決めた。
そんな話をしていたら、妙に挙動不審になって、額に汗を吹き出している真央さんが車へ戻ってくる。
運転席に座った瞬間、置いてあったペットボトル飲料を飲み干した。
息をぜーぜーと取り乱しながら、大事そうにしまってあった預金通帳を取り出して、中身を見ている。
何をしているのかうかがうような目をむけていたら、真央さんがふーっと息をはいた。
「私の預金残高がおかしい……」
「そんなことありますか? ちょっと見せてください」
「いいよ……見てくれ……信じられないんだ……」
真央さんから通帳を受け取って数字を見ると、残高が11桁ある。
この前のクエストの成功報酬である20億もきちんと振り込まれていた。
花蓮さんも興味深そうに俺の手元を見ていたので、通帳を渡す。
数字を数える花蓮さんがかわいいので見ていたら、真央さんが混乱しているようなので説明する。
「最後の振り込まれているお金は、北海道の褒賞金ですよ」
「あれは全部で4億って話じゃなかったか!?」
「言い忘れていました。交渉したら10倍に上がったんですよ」
「そんなことあるのか……」
何度も数字を数えていた花蓮さんは、真央さんへ通帳を返してから腕を組んで不思議そうに通帳を見つめる。
通帳を受け取った真央さんもまだ信じられないのか、残高を見直していた。
「ええ、それに真央さんの口座には花蓮さんの分も入っているようなので、多いんだと思いますよ」
「あ、そうか! ふたり分だったな!」
真央さんが花蓮さんへ顔を向けるものの、腕を組んでいる花蓮さんは軽く首を振っていた。
「真央さん、半分にしても桁は減りませんよ」
「ごめん……」
ふたりは困惑しつつも、大量のお金が振り込まれた事実を受け入れたようだった。
俺にはひとつの疑問が生まれていたので、口に出してしまう。
「税金ってどれくらいかかるんでしょうね」
俺のつぶやきに反応したふたりの動きが固まり、車の中から音が消えた。
真央さんは何も知らないのか、花蓮さんへ引きつった笑顔を向けている。
「花蓮ちゃん……わかる?」
「私が知っていると思いますか?」
「だよね」
頭を悩ませても解決しなさそうなので、知ってそうな人へ電話をすることにした。
「すみません、これから詳しそうな佐々木さんへ電話をして、税金のことを聞こうと思うんですけど、いいですか?」
ふたりが同時に了承してくれたので、スマホを取り出してから佐々木さんへ電話をかけた。
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