北海道解放編⑬~総理への要求~
総理へ2つの要求をして、国会議事堂を後にした。
俺が頼んだことは、【日本冒険者協会会長の解任】と【研究所職員の救済処置】。
静岡のギルドで待ってくれていた3人へ連絡をして、今日はこのまま解散することにした。
ギルド長が最後に電話を替わり、今回の褒賞金をどうするのか聞いてきたので、4人で均等に分けてもらうように頼んだ。
(なんか、最近お金とかどうでも良くなってきたな……あれば両親が喜ぶから貰うけど……)
そんなことを考えながら電話を切る。
俺はレべ天の家にある部屋の中で装備を脱ぎ始めた。
一通り片付けが終わったので、レべ天に一声かけるためにリビングへ向かうことにした。
(ん? なんか様子がおかしいな)
少しだけドアを開けたら、なぜか水と空の守護者であるディーさんとアイテールさんがぐったりとして椅子に座っている。
アイテールさんは服を着ているものの、以前のように紳士的な雰囲気ではない。
理由を聞くために2人へ近づこうとしたら、リビングに入る直前に俺は手を引かれる。
俺の手を引っ張ったのはレべ天で、すばやく俺の前に出てゆっくりと扉を閉めていた。
「一也さん、今、あの2人に会ってはいけません」
レべ天が危機迫る表情で俺をつかみ、リビングから離される。
その行動に疑問を持ったため、首をかしげてしまった。
「俺、なんかしたの?」
「なんかじゃありません! あなたのために2人が限界まで力を使ってくれたんです! それでも足りないと、助けを求めに私の家へ乗り込んできたんですよ!!」
レべ天は小声で俺へ叱るような口調で言ってきていた。
いつもとは違って、俺へ有無を言わせない感じなので、思わずたじろいてしまう。
「守護神さまー? どうかしたんですかー?」
リビングからディーさんの声が聞こえてきた。
レべ天は俺の口を押さえながら、リビングに顔を向ける。
「少し部屋の準備に手間取っているだけなので、気になさらないでください!」
「何か手伝えることがあったら言ってねー」
「はーい」
ディーさんとの会話を終えて、レべ天は俺の手首を持って玄関に移動する。
「一也さんがディーさんに見つかったら、どんな目に遭うかわかりませんよ。今のうちに逃げてください」
「……ありがとう」
俺はレべ天の家に置いてあった靴を履き、そっと玄関からこの家を出る。
扉を閉めようとしたら、中にいるレべ天が頭を下げた。
「北海道解放お疲れ様でした。こっちは任せて、一也さんはゆっくり休んでください」
俺の好きなようにモンスターを倒しただけなので、急にレべ天からお礼を言われて照れてしまった。
思わず背を向けて、軽く手を上げてレべ天の家を後にする。
「おやすみ。天音」
「おやすみなさい、一也さん」
家に着くと、リビングで父親がゲームをしており、母親はテレビを見ながらくつろいでいた。
ちょうどニュースがやっていたので、一緒に見ることにする。
「ただいま」
「おかえり、早かったわね」
「うん。今回は早めに終わったんだ」
県の職員である佐々木さんに母親へ連絡をしていてもらっていたため、疑われることなく生活することができるようになった。
今回は、近くの県へモンスター討伐の遠征に行っているということになっていた。
母親からはあまり討伐内容については聞かれないので、何も言わずにテレビを見ていたら、【緊急速報】とテレビの上部にテロップが映し出される。
内容に注視していたら、【日本冒険者協会会長辞任】と表示されていた。
(辞任? 解任じゃないのか? どういうことなんだろう……)
母親と一緒に見ていたニュースの画面が切り替わり、会長が会見のようなものを開いている。
話の内容としては、非常に無難なく会長の席を退くといったものだった。
全国大会の不正を見過ごしていたことや、警察との癒着を主な原因として辞任する判断をしたそうだ。
最後まで見ていたが、研究所の件には触れることなく会見が終わる。
(総理、仕事が早いな……)
その後のニュースで、北海道の謎の爆発が放置されていた発電施設の暴走によるもので、無人のため死者0名と伝えられていた。
(この内容を疑っても、施設はもうないし、調査をするにも海の生物に邪魔をされて北海道に入れないから確認できないもんな……)
上手いことを考える人がいるもんだと感心しながら部屋へ戻る。
お風呂に入ってからベッドへ寝ころび、明日の予定を考えていた。
すると、枕元に置いてあったスマホが微動して、何か連絡がきたようだった。
画面を見ると、真央さんからメッセージがきている。
【リヤカーは今度の週末で買いに行くことになったから予定を空けておいてほしい】
【わかりました】
返信して寝る直前まで意識が落ちた時、またもスマホが振動していた。
眠い目をこすりながら画面を見たら、今度は花蓮さんから連絡が来ている。
【忘れていると思うけど、明日は終業式だけど、どうするの?】
【未定です】
これを送るだけで力尽きてしまい、それから何度かスマホが震えるものの、画面を見ることができなかった。
翌日、起きてからスマホには花蓮さんから大量のメッセージが届いていたので、【おはようございます】とだけ送った。
久しぶりに制服を着て学校に向かっていると、目にクマがある花蓮さんが立っていた。
俺と目が合うと、まったく視線をそらさずに見つめられている。
数人の人が花蓮さんにあいさつをするものの、俺から目を離さない。
何かしたかと思いながらも、手を振ってあいさつをする。
「花蓮さん、おはようございます」
「おはよう……メッセージの返信を待っていたんだけど……」
にらみながら言いつつも、俺の横へ花蓮さんが自然に並んでくる。
俺でも昨日は動きすぎて疲れていたので、返信できなかった理由を説明した。
話をしていたら、急に花蓮さんが話題を変えてくる。
「そういえば、夏の予定はどうなっているの?」
「夏ですか? 特に考えていないですけど……」
「ふーん……」
それから花蓮さんは黙ってしまい、中学校の校門が見えてきた。
校門の前で花蓮さんが立ち止まったので、後ろを振り返る。
花蓮さんが俺に近づきながら、うかがうように聞いてきた。
「ねえ、2人で一緒に海へ遊びに行かない?」
「海なんて一昨日行ったじゃないですか。もっと戦いたいんですか?」
俺はまたあいつらと戦うのかと北海道の生物たちを思い浮かべるものの、花蓮さんはあきれるような顔をする。
「戦いじゃなくて……遊びよ? バカンス!」
「わかりました……けど、楽しいんですか?」
俺となにもない海に行って、楽しいのか考えてしまう。
花蓮さんは俺の返事を聞いたら、恥ずかしそうに顔を赤くしてから走り出す。
「【2人きり】で行くって約束したからね! 絶対に守ってよ!」
花蓮さんが恥ずかしそうに顔を赤くしながら走って向かってしまい、校門に残された。
花蓮さんの行動に疑問を持ちつつも、今日登校することを連絡していなかったため、田中先生に会うために職員室へ向かう。
終業式はつつがなく終わり、課題や登校日などを連絡されてから放課となってしまった。
校舎から出ると、真上にある太陽に向かって体を伸ばして、明日からの予定を考え始める。
「夏休みか! 何をしようかな!!」
長期休みに思いをはせながら、下駄箱を出た。
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