北海道解放編⑫~WAO日本支部へ~
「あー……そうか。あの男の人も一緒の方がいいな」
怒りに任せて玄関を破壊しそうな勢いで振り上げていた拳を降ろす。
あの男性が持っていた帰還石でここにこれただけで、なにも決定的な証拠はない。
「ふー……」
(本人を連れてくるか。それが一番早そうだ)
今の位置を登録してから静岡県のギルドへ戻ることにした。
佐々木さんに拘束してもらっていた中年男性を回収して、再びWAOの日本支部へ向かう。
建物の前で男性を解放すると、地面へ倒れてしまった。
「ここがあなたが来たがっていた場所ですよね? この資料を渡すので後は好きにしてください……それと、帰還石の処理をお願いします」
数冊のファイルと石を男性の前に放り投げる。
立ち去るふりをしながら、誰からも見つからないように隠密を使用して姿を消す。
(どう動く? 俺を首謀者のところに連れて行ってくれよ?)
振り向くと、男性がゆっくりと立ち上がる。
「ほ……本当にいいのか……」
俺が地面に落としたファイルと石を慌てて拾っていた。
ファイルの中身を見た男性が急に笑顔になり、何かを探すようにきょろきょろと顔を動かしている。
「黒騎士! ありがとう! この恩は忘れない!!」
周囲の人が不審者を見るような目を向けるものの、男性は気にする様子もなく言い切っていた。
満足そうにファイルを両手で抱えるように胸の前で持ち、男性がWAOの建物へ入っていく。
(誰もあげるなんて言っていないんだけどな……まあ、ついていこう)
男性の後を追って、俺も建物の中へ足を踏み入れた。
受付のようなところで、中年の男性が受付の女性と話をしている。
近づいていると、話の内容が聞こえてきた。
「所長はいらっしゃいますか? 研究所の資料をお持ちしたとお伝えください」
「所長……ですか? 少々お待ちください……」
受付の女性は怪訝な顔をしながらも、電話をかけて連絡をしていた。
男性から名前を聞いて、相手に伝えると、受付の女性の表情が明るくなる。
女性がていねいに電話を切り、受付から出ている。
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
男性を会長へ案内するようだったので、ついでに俺もその人のもとへ連れていってもらう。
女性がエレベーターへ男性を誘導していた。
(俺も載せもらうよっと!)
扉が閉じる前に俺も体を滑り込ませる。
女性は階数を押す操作盤の上にカードを当てている。
すると、階数ボタンを押す前にエレベーターが動き始めた。
エレベーターが止まって、扉が開くと女性が男性へ笑顔を向ける。
「会長専用のフロアになります。まっすぐお進みください」
俺と男性がエレベーターを出ると、女性は扉が閉じるまで頭をさげ続けていた。
男性がゆっくりと歩くので、そのペースに合わせる。
重厚な木の扉を前にして、男性が緊張しているようだった。
男性が扉をノックするために手を上げた瞬間、中から声が聞こえる。
「入れ。その扉は高いんだ、ドアノブ以外触れるんじゃない」
「は、はい! 失礼します!!」
中にいる人は男性の様子がわかるように、指示を出してきていた。
男性が部屋へ入ると、冒険者ギルドの会長が椅子に座って、男性を招き入れている。
「よく無事に戻った。ファイルは?」
「ありがとうございます! これを……」
会長が男性へ声をかけてファイルを受け取ろうとしていたので、隠密を解いてファイルを奪う。
会長の手が空振りし、俺はふたりと距離を取った。
「会長……あなたがこの男性へ指示を出していたんですね。残念です」
ふたりは何が起こっているのかわからないようで、目を見開いて俺を見ていた。
(話を統合すると……会長があの研究所の所長だったってことか)
会長は当時、北海道の研究所の所長として、研究していた植物やモンスターを外へ出すように男性へ指示をしていたようだ。
ふたりの関係がわかったので、これ以上ここにいるのは無駄だと思い、ファイルを回収した。
「研究内容は責任を持って処分します。それと、あなたが研究所を残すことになった理由だということを、防衛大臣へ説明しておきますね」
「ま、待ってくれ! これには深い訳があって……」
会長は防衛大臣という言葉に反応して、ようやく口を開くことができたようだった。
しかし、口から出るのは言い訳ばかりなので、すべて聞き流す。
「大丈夫ですよ。今の音声も録音してありますし、おそらく研究所の所長という記録も残っていますよね」
「頼む! それだけはやめてくれ! ただでさえ、この前の大会の処理で俺の地位が危ういんだ!」
会長がその場で土下座をして俺を止めようとしていた。
ただ、俺は会長から被害しか受けていないので、気にせずにワープを行う。
「俺の知ったことではないですね。それでは」
「ま、待て!!」
会長の言葉へ耳を貸さず、俺はワープを止めることなくこの場所を後にした。
ワープをした先は【国会議事堂】で、研究所の職員を解放したことを直接防衛大臣に伝える。
なぜか、議事堂の前には複数台のカメラがあったが、気にすることなく中へ入るために歩き始めた。
入り口で警備員に止められるものの、冒険者証を照合してもらったら、冷や汗をかかれながら道を譲られる。
このやり取りをカメラの近くで誰かが何かを言いながら、撮られているようだった。
(簡単に済ませてさっさと帰ろう……)
撮影されていることが気になりつつも、なんでこんなことになっているのか疑問を持つ。
事前に教えてもらっていた防衛大臣の部屋へ向かおうとすると、正面から誰かが走ってきていた。
「黒騎士!!」
防衛大臣がスーツ姿で走っており、俺の前で手を膝に突く。
息を乱しながら俺へ顔を向けると、眉をひそめているようだった。
「北海道の爆発についてなにか知っていることがあるんだな?」
「話が早いですね。全部調べてきましたよ」
「よかった……」
防衛大臣は安堵するように胸をなでおろし、ふーっと息をはきながら下を向く。
息を整えた防衛大臣が深呼吸をしてから体を起こす。
「聞きたいことがある。一緒にきてくれないか?」
「はい」
防衛大臣に案内された先には、よくテレビでよく見る部屋に内閣を構成する人たちが集まっていた。
一番奥の中央には総理大臣が座っており、俺と目が合うと立ち上がる。
「ようこそ黒騎士。いきなりですまないが、北海道のことを説明してほしい」
「わかりました。それでは……」
俺がスマホで撮影した写真や動画を提示しながら、北海道での出来事を伝えた。
WAO会長のことを含めて解説すると、官房長官が立ち上がる。
「総理、それでは説明をしてきます」
「頼む」
俺から北海道の記録データを受け取った官房長官は、足早に部屋を出ていった。
総理からお礼を言われるので、手を振って確認を行う。
「総理、研究所が動いていた事実を認めますよね?」
「ああ……そうだな……」
総理の言葉を聞いて、俺はため息をついてしまった。
防衛大臣をちらりと見ると、血の気が引いているような気がする。
「なら、今すぐに1億ドルを支払っていただきたい」
「何を言って……研究所か!?」
総理が何かに気付いて、防衛大臣へ顔を向けていた。
「そういうことです。防衛大臣が秘密裏になんとかしようと思っていたようですが、彼らだけでは荷が重すぎましたよ」
そう言いながら総理へ近づき、右手を差し出す。
俺の手を凝視する総理が動かないので、はっきりと聞こえるように声を出す。
「総理、今すぐ俺へ1億ドル渡すか……今から言うことを即実行するか選んでください」
総理は眉をひそめて、悩むことなく俺の目を見返してくる。
「聞こう。何をすればいいんだ?」
険しい顔で戸惑いながらも、総理は俺の話を聞いてくれるようだった。
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