北海道解放編⑨~職員帰還~
「おっかしいな~、絶対に俺なら用意するのに……」
あると思っていたものが見つからないので、探すのを諦めた。
手を止めて、佐々木さんたちが職員を帰還させている食堂へ向かう。
食堂に着くと、佐々木さんのお姉さんが真央さんからボディチェックを受けていた。
会った時とは違い、表情が暗くなっており、この数時間でだいぶ参ってしまったことを察する。
何も言わずに食堂の椅子へ座ると、最後に残されている中年の男性を見た。
「あんたとは金輪際会いたくないわ。2度と姿を見せないで」
「……ああ、そうするよ」
佐々木さんがお姉さんへ帰還石を渡して、帰還させようとしている。
お姉さんは最後に俺の方を向き、声を上げた。
「あんたも殴られたくなかったら、2度と私の前に現れないで!」
俺には関係のないことだったので無視をして、言葉を聞き流す。
お姉さんが研究所で働かなかったら会うことはないと思うので、そうなってくれることを願う。
俺が何もしないでいたら、お姉さんが大きくため息をついて、佐々木さんへ微笑む。
「優、帰ったら食事にでも付き合ってくれる?」
「ああ、もちろんだ。俺もすぐに帰る」
「連絡待っているから」
お姉さんは帰還石を握りしめて、この場から消えてしまった。
最後に中年の男性が残っていたので、近づいてどうするのか伝える。
「佐々木さん、今はまだワープできると思うので、この男性と一緒に静岡へ戻ってもらってもいいですか?」
「この場所を登録して、戻ってくればいいのか?」
佐々木さんがまたここへくると言っていたので、不安要素を消すために指示を出す。
「俺たちの誰かが戻るまで、その男性を逃がさないでください」
「了解した。後は……」
「後は任せてください。その男性をお願いします」
佐々木さんは伊達眼鏡を上げてから、俺の目を見つめてきた。
「…………あまり無茶はするなよ」
「善処します」
佐々木さんのワープを見送り、花蓮さんと真央さんへ顔を向ける。
「これから一緒に研究所を探索しませんか?」
真央さんが不思議そうな顔で俺を見て、首をかしげながら口を開く。
「探索って、何を探すんだ?」
「自爆スイッチです」
「なんだよそれ……」
「説明しますね」
「頼む。なんか、ここへ入ってから理解が追い付かないことばかりなんだ……」
花蓮さんも同意見なのか、真央さんの話を聞きながらうなずいていた。
俺はふたりを食堂の椅子へ座らせて、ここで感じたことや調べてことを説明する。
この研究所を拠点として、長期間、周囲の状況を観測するために存在していたこと。
実際に育てていた植物や、遺伝子操作を行なったモンスターを飼育していた形跡などをふたりに提示する。
最終的にこのような拠点を破棄する場合には、なにも残さないという考えに達して、破壊するための自爆スイッチがあると予想した。
俺の話が終わると、花蓮さんが腕を組みながら、うーんとうなり始める。
「花蓮さん、どうしました?」
「一也が感じたことはわかるんだけど、壊すことまで考える?」
「じゃあ、残してどうするんですか?」
「どうするって……どうもしないんじゃない? 放っておけば壊れるでしょ」
熊による外からの攻撃が効いていないから、この建物が残り続けている。
それがどうして、壊れるという意見になったのかが気になった。
「なんで壊れるんですか?」
「扉を開ければ、この中でモンスターが暴れ回るから、自然に……」
「自然に集まるんですか?」
「……ええ、外のモンスターはこの中に上質なエサがあると思って群がっているって、望さんが言っていたわ」
望さんというのがおそらく佐々木さんのお姉さんだと思うので、あの人が感じていたことなのだろう。
真央さんが花蓮さんの言葉を聞いて、うんうんとうなずいてから口を開いた。
「それに、一也の意見を踏まえるとモンスターも消したいだろうから、この中にモンスターと一緒にドカンじゃないか?」
「……確かに。扉ってどこで開けるんでしたっけ?」
「放送していた場所だと思うけど……」
「それならわかります。行きましょう」
望さんが扉を開けてくれた場所の気配を覚えていたので、ふたりを連れてその場所へ向かう。
館内放送室と書かれている部屋の前に立つと、扉がカードロックで閉められていた。
蹴り壊そうとしたら、花蓮さんが俺の前に立ちふさがって、懐からカードを出す。
「扉が当たって中の機械が壊れたら困るでしょ」
「その通りです……」
「それにここなら、このカードが使えると思うのよね」
防衛大臣からもらった権限のカードを扉の横にあるリーダーにかざすと、赤のランプが緑に変わって、カチャっという音がした。
ドアノブをひねると扉が開いていたので、扉を押しながら中へ入る。
部屋の中には、壁一面に画面が付けられており、建物の外の様子が一目で分かるようになっていた。
奥にはたくさんのスイッチがある操作板が机に埋め込まれており、マイクはその真横にある。
机の前に立ち、スイッチを眺めていたら、扉の開閉ボタンがある。
その近くにはカバーのついている大きな赤いボタンがあり、貼ってあるシールに【要確認】と書かれていた。
「これ、何を確認すると思います?」
壁の画面を眺めていたふたりへ聞くと、こっちにきてくれた。
ボタンを見た花蓮さんが机の引き出しを開ける。
「普通に考えたら、説明書か手順書があると思うんだけど……」
全部の引き出しを開けようとしたら、一番上だけ鍵がかかっていた。
何回か花蓮さんがガンガンと引いたあとに、少しだけ息を吸い込む。
「ふっ!」
力任せに鍵を壊す花蓮さんを見て、数分前に言われたことをそのまま口にする。
「それでスイッチが壊れたらどうするんですか?」
「ごめん……けど、最小限の力で壊したし、見た感じ大丈夫よ」
花蓮さんは苦笑いをしながら引き出しを引くと、中に冊子が入っていた。
それを手に取ると、手順通りに操作を始める。
「それじゃあ、扉を開けますね」
俺は中身にすべて目を通したので、迷うことなくすべての扉を開け放つためのボタンを押す。
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