北海道解放編⑧~研究所からの脱出~
研究所の外で寝ていたら、中からガーっという音がスピーカーから鳴り響いてきた。
「全職員へ連絡します。すべての作業を中断させて、10分以内に食堂へ集合しなさい」
声の主は佐々木さんのお姉さんで、全職員を集めているようだった。
どうなるのかは完全に3人に任せたので俺は立ち上がって体の状態を確認する。
(8割……いや、良くて7割くらいか)
これからのことを考えたら、回復具合に不安を覚える。
軽く右手に魔力を込めて、握りしめた。
(でも、このまま北海道を巨大熊の楽園としてのさばらせちゃダメだ)
熊であふれているフィールドを管理している人が諦めているのは、レべ天に確認しなくてもわかっている。
今まで人に被害がなかったのは、北海道に住んでいる人がすべて逃げた後なことと、海に囲まれているからという理由だけだろう。
(この建物はすごいな)
初めからから、籠城することができるように設計されている建物を見て感心する。
巨大な熊たちの攻撃から中の人を守り、居住やこのように自給自足の生活ができていた。
発電もできており、生活のすべてがこの建物内だけで済むようになっている。
(最初から狙って建てたのかな……ん? 意図的……か?)
植物を眺めていたら、自分の考えに違和感を持つ。
この建物が周りの援助なしで活動できることを前提として作られていたら、この状況は計画的に起こされた事態ということになる。
(そうなると……俺ならどうする……)
自分がこの計画に携わる人間だった場合、ここを離れることになったらどうするのか考えた。
考えがまとまり、気配察知の範囲を最大限に広げて展開する。
(今は……全員が同じ場所にいるから、急に離れたやつが怪しい!)
おそらく、研究所内の人たちが帰還することになったため、その説明を行なっていると思う。
俺はこの中にいる計画を知っていると思われる人をあぶり出すことにした。
すると、まだ他の人が動かないのに、ひとりだけその場から離れようとしている。
ゆっくりと動き始めており、5メートルほど移動したら急に走り出した。
(こいつだ!!)
隠密を使用して、見つからないようにその気配を追った。
その人が部屋へ逃げ込むように入って行くので、扉を蹴破って中へ押し入る。
中年の男性が部屋一面に資料を広げて、手にはまだ配布されていないはずの帰還石が握られていた。
帰還石を使われる前に奪うため、手刀で腕を切り落とす。
「ギャアアアアア!!」
地面に落ちた腕から握られていた帰還石を回収する。
痛いとわめかれて、うっとうしいので腕をつけてあげた。
「う、腕が付いている……」
膝を付いて戸惑うように右腕を見ていた男性の胸を蹴り、地面へ押し倒す。
床に叩き付けられた男性の頭部から鳴ってはいけない音が聞こえる。
即座に治して、男性を踏みながら見下ろす。
「この資料室で何をしようとしていたんですか?」
「お、お前は!? 黒騎士!? どうしてここへ!?」
怯えるように男性へ目を向けていたので、踏んでいる足に少しだけ体重をかけた。
苦しそうに声を漏らす男性に、俺の質問へ答えるように言い聞かせる。
「次、質問した以外のことを口にしたら、1本ずつ四肢を切り落とします。いいですね?」
俺の言葉を理解したのか、男性は何度も頭を縦に振ってくれた。
足にかけている体重を緩めると、男性が少し安心したように脱力する。
「あなたはここで何をしていたんですか?」
「…………研究資料をまとめていた」
「私物以外は持ち出さないように言われましたよね?」
「……言われた」
佐々木さんたちへ事前に研究所内のものについて話し合っていたので、帰還をさせるとすれば資料などは持ち帰れない。
その忠告を無視して行動していたこの男性が、この状況を作り出した計画者へ繋がっていると予想した。
帰還石を見せつけるように、男性へ差し出す。
「これは誰からもらったんですか?」
「しょ……所長からもらった」
「その時に何か言われたことありますか?」
男性が黙って俺から目を背けてしまった。
口を割らせようと手を振り上げた時、集合していた気配が散らばってしまう。
(説明が終わったかな)
あまり時間をかけていられなくなったので、また腕を切断しようとしたら、男性が口を開こうとしていた。
「言うからやめてくれ……研究資料1年分につき、1億で買い取るから残ってくれと頼まれたんだ……」
「それが聞ければ結構です。もう、行っていいですよ」
俺が足を離すと、男性が資料に目を配っているのがわかる。
持ち出されるわけにはいかないので、追い払うように手を動かす。
「早く出ていってください。何も持ち出させませんよ」
「ひとつくらいいいだろう!? こんな場所で5年も粘ったんだぞ!!」
「他の人も同じですよね? あなただけ得をするつもりですか?」
「それは……」
男性が部屋の出口で粘っていたら、複数の気配がこちらへ近づいてきている。
特に気にせず、男性が立ち去るのを待っていたら、廊下から慌ててこちらへやってくる足音が聞こえてきた。
「扉がない! どうなっているの!?」
「姉さん!? どうした!?」
俺が蹴破った扉があった場所へ、佐々木さんたちがお姉さんと一緒にやってきている。
血や資料が散らばる部屋にいる俺と男性を見て、佐々木さんのお姉さんが男性の前に出てきた。
「黒騎士!! あなた、こんなところでなにをやっているの!?」
「残念でしたね。時間切れです。ここにいる所長代理へすべて白状しますか?」
お姉さんの後ろに隠れる男性に声をかけると、顔から血の気が引いていく。
そんな男性の変化に気づかないお姉さんは、さらに俺へつめ寄ってきた。
「何を言っているの!? この人は私の補佐官で婚約者よ!! あなたよりもこの人について知っているわ!」
「利用するために近づいたんですか? 資料1年分につき1億ですもんね」
「何を訳の分からないことを!!」
お姉さんが手を振り上げた時、後ろから佐々木さんが手をつかんで、俺を見る。
「黒騎士……今の言葉の説明をしてもらえるか?」
「面倒なので、説明なんてしないですよ。これを流すので、聞いていてください」
俺は男性へ尋問を開始した時からスマホのボイスレコーダーで記録していた音声を再生する。
流している最中から、お姉さんの視線が男性へ突き刺さっているのが分かった。
流し終わってから、涙目で男性をにらんでいたお姉さんへ確認をする。
「他に資料の保管室はありますか?」
「……ないわ。資料が残っていたとしても、個人のパソコンの中だから私にはわからない」
「それじゃあ、パソコンやスマホの持ち出しも不可ですね。これらは燃やします。ファイヤーアロー」
部屋から全員を追い出して、資料に向かって魔法を唱える。
コンクリートでできた部屋が資料と一緒に魔法でめちゃくちゃになった。
満足したので、ぼうぜんとしていた佐々木さんへ声をかけて立ち去ることにした。
「佐々木さん、帰還の処理はお願いします」
「あ、ああ……」
俺は研究所から人がいなくなった後のことを考えながら、研究所の探索を行う。
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