北海道解放編⑦~研究所内~(佐々木優視点)
「それではみなさんこちらへどうぞ」
数年振りに会った姉が俺たちを研究所内へ案内しようとしてくれていた。
花蓮と真央はこちらへ歩いてくるものの、一也がその場から動こうとしない。
「みなさんは中で帰還石を配ってきてください。全部終わったら連絡をお願いします」
「お前はどうするんだ?」
黒騎士装備を付けている一也は、そのまま地面に横たわった。
ああなっては動かすことができないので、3人で姉に付いていくことにする。
「姉さん、あいつはいかないようだから……」
「あの人って黒騎士よね?」
「そうだけど」
「そう」
姉は寝ている一也に近づき、見下ろすように顔を向ける。
何も反応が見えない一也のそばで、姉が息を思いっきり吸っていた。
「あんた! 私たちになんの恨みがあるの!!??」
それでも一也が微動だにしないので、姉は顔を向けるために強引に腕を引こうとしている。
姉が一也へ触れる直前に、姉の手が振り払われた。
「外の生物が巨大化した理由はあなたたちのせいでしょう? こんな研究所が必要ですか?」
一也が寝そべりながら話をしている。
俺もこの畑の様子を見て、この研究所が植物を大きくしているのだと薄々思っていた。
(もしかして……モンスターの巨大化も意図的に行なっているのか!?)
レッドベアよりも大きな熊しかいなかった外の様子を知っている。
それに、海にいたウニやマグロなど多種多様な巨大生物を知っているため、姉へ疑惑の目を向けてしまう。
姉はさらに激昂して、一也へつかみかかろうとしている。
「何も知らないくせに!! 私たちは生きるのに必死だったのよ!!」
姉が何かを知っていることが分かったので、とりおさえに走ろうとしたら、花蓮が姉の腕を持って止めていた。
「優さんのお姉さん、今のお話を詳しく聞いてもいいですか?」
「な、なんなのよ……」
真央も一也との間に体を入れて、姉と一也を離す。
真央がダガーに手をそえながら、姉の行動を注視していた。
「この壁の外に巨大化した熊がひしめき合っているんですけど、何か知っていますよね?」
「あ、あなたたちもそいつと同じで、私たちを見捨てようとしているの!?」
姉が誤解をしているようなので、止めるために姉と真央の間に入るために急ぐ。
真央が姉の腕を切り落としてでも口を割らせようするような殺気を放っている。
「姉さん、1度冷静になって話さないか? ここだと落ち着かないし……2人もだろう?」
3人からにらまれて、胃がキリキリと痛むのを感じる。
姉が小さくため息をついて、踵を返し、研究所へ向かってくれた。
「中で話をしましょう」
俺はまだ緊張が解けず、武器に手をそえている真央と花蓮へ、冷汗をかきながら笑顔を向ける。
「2人とも、俺たちの目的は研究員の救出だ……わかるな?」
「……佐々木さんのお姉さんでも、理由しだいです」
花蓮が剣から手を離して、研究所へ向かう姉に付いていく。
安心していたら、真央が後ろを向いて一也を見ていた。
「おい、お前はどうするんだ?」
「ここで寝て休んでいるので、中のことはお任せします」
「…………わかった。ゆっくり寝ていろ」
真央も歩き出すので、ようやく肩の荷が少しだけ降りた。
歩き出そうとしたら、足をつかまれる。
「佐々木さん、悪だと感じたら背中の物は渡さないでくださいね」
「俺に判断しろというのか?」
足から手が離されて、本当に寝るのか体勢を整えながら一也が言葉を放つ。
「ここへくるときに見た、ウニやマグロで年間何名亡くなっているのかご存じですよね?」
「そ、それは…………」
「俺はこの後に備えて休みます。中はみなさんに託しました」
「わかった」
俺が答えると同時に、本当に一也が寝息を立て始めてしまった。
最後に研究所へ入ると、3人が視線で火花を散らすようににらみ合っている。
俺に気が付いても、視線を外そうとしない。
「姉さん、案内をしてもらってもいいかな?」
「いいけど……このふたりは太田真央と谷屋花蓮よね? なんでここにいるの?」
姉は黒騎士以外にも、ふたりのことを知っており、早く話が進みそうだった。
なぜか姉が所長代理のようなので、俺たちがきた理由を説明する。
「俺たちは防衛大臣から依頼を受けてこの研究所へ来たんだ」
「どういうことなの!?」
「姉さん、まずはこの研究所の人たちを集めてほしい。本州へ帰る手段を用意してきた」
俺は背負っているリュックから、帰還石をひとつ取り出して姉に見せた。
それを見た姉は、息を呑んでから俺へほっとしたような顔を一瞬向ける。
しかし、俺の後ろで控えている2人を見たら、眉をひそめていた。
「全然助けにきたって感じじゃないんだけど」
「ここまでの道のりが険しすぎるんだ。ここで行われている研究を疑うのは当然だろう?」
「それは……」
「何が行われているのか、正直に話してほしい。2人が納得しないと、この石は配れないんだ」
「納得しなかったら?」
姉がうかがうように聞いてきているので、優しい言葉をかけてあげたい気持ちもあるが、俺は一也の意志を汲み取る。
「ここには誰もいなかった。そう判断される……話の内容に虚偽があった場合も同様だ」
俺の言葉を聞き、姉がつかみかかってきて泣きながら訴えてくる。
「優!! あんた、私たちがどんな気持ちでここに閉じ込められていたのかわかるの!?」
「わからない! けれど北海道の外では年間数人が亡くなっていて、この研究所がある限り巨大なモンスターが増え続けるんだろう!? どうなんだ!?」
俺が怒鳴るとは思わなかったのか、姉が数歩後ろにさがり、うなだれるようにうつむいてしまった。
それから、力なく後ろを振り返り、研究所の奥へ進んでいく。
「何が起こったのか全部説明する……付いてきて」
「ああ……」
姉の横へ追いつくと、ぽつりぽつりと思い出すように話を始めた。
「仕方がなかったのよ……所長や管理職が残っていた帰還石でこっそり逃げて、私たちは置いていかれたの……」
「何が起こったんだ?」
「管理していた植物やモンスターがなぜか外で繁殖していて、気づいた時にはもう手遅れだったわ」
研究していたものを、帰還した誰かが実験のために定期的に外へ排出していたという証拠が用意されていた。
中身を見たら、事前に用意できないほど詳しく流出してしまった量や物が記載してあり、記入者は空欄となっている。
「それがここから出られない理由よ。外のモンスターはこの中に上質なエサがあると思って群がっているの」
それからは、研究所内を歩きながら、姉が管理しているという巨大な植物や、食べるために養殖している大きな魚や牛を見せてくれた。
モンスターは倒すこともできなくなり、手に余った管理者が独断ですべて外へ放出してしまったらしい。
巨大化した理由の一番の理由は遺伝子操作だという。
それだけであのような巨大なものができるのかと疑ってしまったが、姉でも信じられないくらい異常な速さで強くなってしまったのがモンスターだと言っていた。
「なにか特別な力でも働いていたのかしら……」
自嘲気味に笑う姉を横目に、後ろを歩く2人を見たら、完全に姉を責める気はなくなっているようだった。
俺は決断して、横を歩く姉へ言葉をかける。
「姉さん、今すぐこの研究所にいる全職員を集めてくれ」
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