北海道解放編⑥~熊群攻略戦~

 グリーンドラゴンに群がっている熊たちへ、先制の一撃を繰り出す。


「五月雨バーニングフィスト!!」


 格が【5】に上がったことで、50個の炎の塊が俺の拳から放たれる。

 ひとつひとつが熊を焼殺しながら進むものの、全体の1割も削れていない。


 この攻撃で俺たちの存在に気付いた熊が一斉にこちらへ向かって走り出してくる。

 俺が空けた空間が瞬く間になくなり、熊が押し寄せてきていた。


「ライトニングストーム!!」


 佐々木さんが範囲魔法を行うものの、一部の熊がしびれて動きを鈍らせるだけで、倒すことができない。


「ふたりはとどめを! 俺は周りを処理します!」


 動きの鈍った熊へ真央さんと花蓮さんが襲いかかる。

 そんなふたりに向かう熊たちを止めるために、脚に魔力を込めた。


 上空へ数メートルほど浮き上がり、脚を振り下す。


「旋風脚!!」


 近づいていた熊たちが地面に倒れるので、進む方向を示す。


「このまま一直線に向かいます! 遅れないでください!」


 地上にいる熊を減らしながら研究所へ近づいていると、急速に飛んでいる俺へ近づいてくる気配を感じる。

 顔を向けると、グリーンドラゴンを打ち落とした巨大な手が俺に迫っていた。


 地上へ向けてテレポートを行い、3人と一緒に走り始める。


「皇帝が出てきました。これからが勝負です」


 俺の横を走る真央さんが、ダガーを振りながら荒々しく声を出す。


「お前、飛べるなら戦わなくても、そのまま研究所まで行けばいいだろ!?」

「できればそうしたいんですけど、1日5分くらいしか飛べないんですよ」


 空神の力で空を自由に飛べるようになって、空と一緒に雲の上で遊んでいたら、すぐに飛べなくなってしまった。

 苦情を言いに数日かけてスカイロードを探して、全裸男に話を聞いたら、まだモンスターを倒し足りないと言われた。


 それからスカイロードのモンスターを根絶やしにするものの、1度に現れるモンスターに制限があり、また、ダンジョン自体も行きにくい場所にあるため、空神の力がまだ十分に使える状況ではない。


(今、2分くらい飛んだから、3分ほどか)


 戦う時には相手より上にいた方が有利な点が多いため、できるだけ力を残しておきたい。

 考えながら走っていたら、上空から凄まじい勢いで何かが降り注いでこようとしていた。


 俺たちの行く道を阻むように皇帝グリズリーが地面をまき散らして、着地している。

 拳に魔力を込めて、20メートルほどある紫色の熊に挑む。


「駆け抜けます!! 正面の敵は任せてください!!」


 囲まれての消耗戦は避け、あまり皇帝グリズリーを倒さないように注意しながら進みたい。

 ただ、俺の知っている皇帝グリズリーはこんなに大きくなかったので、モンスターの勢力が増しているのが理由なのかと考察した。


(そのうち、この熊たちが海を越えて本州にくるのも時間の問題だな……)


 皇帝グリズリーの跳躍力を考えたら、北海道から本州まで跳んできてもおかしくない。

 また、熊が泳げるのも知っているので、海のモンスターがむしろ北海道から熊が出るのを防いでくれている可能性も考えられる。


(なんにせよ、俺の知っている皇帝グリズリーなら今は倒しちゃだめだ)


 正面の皇帝グリズリーを拳で吹き飛ばし、進む道を作る。

 周囲から迫る熊を妨害するために、地面へ思いっきり足を踏み込んだ。


「五月雨アースネイル!!」


 土が大量に隆起して、熊の姿が見えなくなるほど高い壁を作り出す。

 しかし、壁がただの土のため、皇帝グリズリーには簡単に破壊されてしまった。


「足止めにもならないか!」


 こうなれば、俺が戦って熊を倒さないように止めながら進むしかない。

 皇帝グリズリーの背後には、他の上級グリズリーもきている。


 3人へなるべく戦わずに研究所へ向かってもらうことにした。


「俺が熊を止めます! 3人で研究所内へ行ってください!!」


 後数分も走れば研究所の入り口に着くので、自分の体に残る魔力を黄色に爆発させた。

 速度向上に特化したするため、雷へと変換した魔力をまとう。


「リバイアサンよりも速い俺に付いてこられるかな!!??」


 3人を守るように皇帝グリズリーと戦うものの、どうしても上級グリズリーまで手が回らない。

 ただ、PTメンバーとしてきてくれた3人は、守られるだけの存在ではなかった。


「一刀両断!!」


 花蓮さんが脇から急に現れる上級グリズリーを切断する。

 その隙を狙う熊の急所へ、すでに真央さんのダガーがねじ込まれていた。


「ふたりとも止まるな! ライトニングボルト!!」


 雷の束を受けた上級グリズリーがしびれて止まるので、俺が確実にとどめを刺す。

 研究所への扉に辿り着き、真央さんが入り口の横にあるカードリーダーへカードキーを押し付ける。


「反応しないぞ!?」


 真央さんが何度もカードを押し付けるものの、扉が開こうとする気配がない。

 扉を背にして、熊に囲まれてしまい、俺の魔力も尽きそうになっていた。


 その時、ガーっという音とともに、スピーカーのような場所から何かが聞こえてくる。


「5秒間だけ扉を開きます。その間に入ってください!」


 女性の声が終わったと同時に扉が動き出し、1メートルほどだけ開かれるので、中へ飛び込む。

 熊が中にこないように、最後の魔力を振り絞った。


「マルチプルファイヤーアロー!!」


 数千の炎の矢が入り口に群がる熊へ襲いかかり、無事に扉が閉められる。

 ようやく入れた研究所内は、緑が生い茂っており、全体が畑のようになっていた。


「なにこれ……」


 花蓮さんが剣を鞘に入れて、肩を上下に揺らしながら周りを観察している。

 ただ、実っている果実や野菜が普通の物よりもだいぶ大きい。


 俺たちが畑を見まわしていたら、建物の中から30代前半の女性が歩いてきていた。

 腰ほどまである長い髪を揺らしながらこちらへ近づいてきている。


 交渉事は佐々木さんへ任せているので、いつものように背中を押そうとしたら、自分から女性の方へ向かっていく。


「ねえさん……」

「久しぶりね、優。冒険者を辞めたあなたがきてくれるとは思わなかったわ」


 佐々木さんが姉と呼ぶ人物と話をしており、俺たちは混乱してしまった。

 俺の表情は布で見えないので、おそらく花蓮さんと真央さんの顔を見て女性があいさつをしてくれる。


「みなさん初めまして、ここの所長代理をしている佐々木ささきのぞみです。いつも、弟がお世話になっています」


 佐々木さんの姉と名乗る女性は、ゆっくりと頭をさげた。

 その女性は、顔を上げてから、俺をにらんでいるように思える。

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