北海道解放編④~ふたりの気持ち~
熊の大軍と戦い始めてから数時間。
一向に相手の勢力が衰えないため、俺は盾をリュックにしまって、拳で戦い始めていた。
「五月雨バーニングフィスト!!」
炎の拳で強引に熊のいない場所を作り、進行を続けている。
日は沈み、夜になろうとしているのにもかかわらず、熊の数が減らない。
それでも戦い続けていたら、洞窟のような場所を見つけたので、アースネイルで入り口を塞いだ。
外から熊の唸り声が多少聞こえるものの、洞窟の中には何もいないので一時的に安全を確保できた。
上陸してから6時間以上戦い続けていたので、俺を含めて全員が疲労を隠せていない。
佐々木さんが真央さんのリヤカーに乗せていたキャンプ用のライトを洞窟内に設置をして、休む準備を進めている。
モンスター避けの香を焚いているものの、モンスター以外の脅威を警戒したい。
そのため、見張りを行うため、ふたりずつ休むように提案をした。
「なにが起こるかわからないので、男女別で見張りをしませんか?」
「まあ、普通に考えたらそうだな……だけど……」
スープを持った真央さんがキャンプ用の折りたたみ椅子に座り、俺の意見に同意してくれた。
しかし、真央さんは心配そうに佐々木さんの方を向く。
佐々木さんが地面に座ってうなずきながら寝そうになっている。
しかし、俺はまだ少し余力があるため、先に女性陣を休ませたい。
「佐々木さん、もう少し起きられますか? 僕と佐々木さんで見張りをしませんか?」
「ああ……まか……せろ……」
佐々木さんは頭をゆらゆらさせながら、かろうじて言葉を口にしている様子だった。
「これじゃ、見張りは無理ですね」
「…………すま……ない」
佐々木さんが俺にもたれかかりながら意識を失った。
真央さんと花蓮さんを見て、リヤカーを引きながら戦っていた真央さんの方が疲れているように見える。
(もう男女別なんて言っていられないな)
俺はそう判断し、佐々木さんを抱きかかえながら二人に近付く。
「真央さんもリヤカーを引きながら戦ったので、先に佐々木さんと休んでください」
「わかった。佐々木さんを運ぶよ。一也と花蓮ちゃんで見張りを頼む」
真央さんが見てはいられないと、佐々木さんの肩を担いでテントへ向かっていく。
残された花蓮さんへ勝手に決めたことを一応謝る。
「勝手に決めてすみません、花蓮さん」
「勝手じゃないわよ。よく見ているわ。佐々木さんは気を失っていたし、真央さんも隠そうとしていたけど、相当疲れてた……だから、良い判断よ」
「ありがとうございます」
花蓮さんが妙に饒舌になり、俺をほめてくれていた。
素直にほめられたことがないため、嬉しくなってしまう。
それから、お互い飲み物を飲みながら、椅子に座った状態でランプを見続けて沈黙してしまった。
外からの唸り声が聞こえなくなり、洞窟内が静寂に包まれる。
そんな時、花蓮さんがコップを地面に置いて、椅子を俺のそばへずらしてきた。
肩が触れ合う距離に座り、花蓮さんが少しだけ顔を赤く染めている。
「一也、ずっと言えなかったんだけど……私を強くしてくれてありがとう」
「急にどうしたんですか?」
花蓮さんにお礼を言われるなんてことは今まで1度もなかったため、何を言われるのか身構えてしまう。
俺の様子を見た花蓮さんは、首を振りながら微笑していた。
「私ね、今までずっとお姉ちゃんやあなたのことを倒すんだ。って思いながら戦っていたつもりなんだけど……本当はそうじゃなかったみたい」
「最初は絵蓮さんへの劣等感がひどかったですよね」
そうねと言いながら花蓮さんが軽く笑みを浮かべている。
ランプを見つめながら過去を振り返ってみた。
「花蓮さんと最初に会ったのは、修練場でしたね」
「そうね。頭のおかしい男の子が丸太を相手に1日中武器を振っているって第一印象だったわ」
「直接言われてショックでしたよ」
「ちゃんとフォローしたじゃない」
数か月前のことなのに、この期間にたくさんのことがありすぎてものすごく昔のように感じてしまった。
懐かしむように笑っていたら、花蓮さんが両手を握り、自分の手を見つめている。
「今思うと私はすごく弱かったし、視野が狭かった」
「…………」
どんな言葉をかけるのがいいのかわからず、口が動かなくなってしまった。
花蓮さんが俺の肩に頭を預けるようにもたれかかってくる。
「花蓮さん?」
「私が今も強くなりたいと思う理由は……あなたと少しでも多く一緒にいたいからよ」
言っていることがよく分からないし、花蓮さんの重みを感じて思考が上手く働かない。
(強くなるのと、俺と一緒にいたいということが同じ意味になるの?)
何か言葉を絞り出そうとするが、俺からはなかなか出ない。
動けずにいると、花蓮さんの頭が俺の肩から離れる。
花蓮さんの方を見ようとしたら、頬に柔らかい感触がする。
俺の頬から花蓮さんの唇が離れるのがわかると、俺は思わず言葉を失ってしまった。
「一也は、姉にとらわれていた私へ広い世界を見せてくれて、今も多くのことを与えてくれているわ……だから……もうどうしようもなくあなたのことが好きなの」
花蓮さんの目がうるんでおり、本気で俺のことを好きだと言ってくれている。
しかし、俺は花蓮さんから嫌われていると思っていたので、感じていたことを聞いてしまった。
「…………え? 毎日、俺へ殺す殺すって言っていませんでした?」
「それは……その……そうしないと恥ずかしいじゃない……」
言い訳をしながら花蓮さんが手をもじもじといじっている。
(恥ずかしさを紛らわすために殺意を向けてきていたのか……)
俺じゃないと相手が死んでいると思うほど花蓮さんの殺意を強烈に受けていた。
ただ、好意を向けられても今の俺は応えることができないので、丁重に断る。
「花蓮さん俺は──」
「いいの! わかっているから!」
花蓮さんは手で俺の口をふさいできた。
俺が何を言うのか分かっているのか、花蓮さんは目を赤くしている。
「明も断られていたし、一也が何を言いたいのかだいたいわかるわ! だけど、私の気持ちだけは知っておいて」
俺はその言葉にゆっくりとうなずき、それ以上なにも言葉を交わさなかった。
数時間後。
佐々木さんと真央さんがこちらに来て、俺たちに休むように言ってくれる。
「ありがとうございます。それじゃあ……」
「おい」
「はい?」
休むためにテントへ行こうとしたら、真央さんに呼び止められる。
なんだろうと立ち止まると、いきなり両手で胸ぐらをつかまれた。
すると、思いっきり引き寄せられて、唇同士が力一杯くっつけられ、ガチっという歯が当たる音と、血の味がする。
何が起こっているのかわからず、無抵抗でいたら、投げ捨てられるように突き放された。
「これは私の気持ちだ。知っておけ!」
「ええ……」
唇から血が出ていたので、ヒールを行い治療した。
テントで横になるものの、唇の感触が忘れられない。
「ねえ、一也」
「なんですか?」
少し離れたところで横になっている花蓮さんが俺の背中に声をかけてきた。
寝袋の中で反転して、花蓮さんの方を向く。
「……私もしていい?」
「明日もモンスターと戦うので、早く寝ましょう」
「うるさい」
なぜか花蓮さんは少しだけ不機嫌そうに寝袋ごと俺へにじり寄ってきていた。
俺はこれ以上何かが起こったら頭が処理しきれなくなるので、花蓮さんを気絶させる。
翌日、早く起きて食事の用意をしていたら、テントから不機嫌そうに出てきた花蓮さんに全力で顔を殴られた。
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