北海道解放編③~北海道へ~

 防衛大臣から連絡があった次の日の午後。

 俺は北海道に一番近い青森の埠頭に来ていた。


 北海道上陸に希望したメンバーは、花蓮さんと真央さん、佐々木さんの3名である。


 夏美ちゃんは晴美さんと一緒に、弓道の総会のようなものに出席しなければいけないと言われたそうだ。

 絵蓮さんは静岡駅まできていたものの、大学の学長が呼び止めに来てしまっていたため、握りしめた手から血を落としながら、行けないと悔しそうになげいていた。


 見送りに来ていた明が、花蓮さんへ「今回がラストチャンス」とよく分からないことを伝えていたことを不思議に覚えている。


「あれが北海道か……遠いな……」


 埠頭からは北海道の大地がかすかに見える。

 テレポートで跳べるような距離ではない。

 どこから聞きつけたのかわからないが、地元の冒険者や国会議員が応援に来ていた。

 花蓮さんが腰に手を当てながら北海道を見ている。


「さて、リーダー、ここからどうするの?」

「佐々木さん、杖を真下の海へ向けてくれますか?」

「ん? ああ、わかった」


 佐々木さんが持っていた杖を海に向けてくれたので、笑顔でアドバイスをする。


「それで、声高らかに魔力を込めて、ウォーターロード!! って叫んでください」


 急に大声を出したので、周囲の人が俺と佐々木さんに注目した。

 佐々木さんは首をかしげながら、小声で話をしてくる。


「そんな魔法あるのか?」

「思いっきり言うだけでいいですよ。あー、後なんか詠唱っぽいことをしてくれれば効果絶大です」

「……やってみる」

 

 佐々木さんから数歩離れたので、みんなが佐々木さんの動向を見守っていた。

 深く息を吸い込み、全力で佐々木さんが魔法を唱え始める。


「我が道を作れ!! ウォーターロード!!」


 その声を聞いた人々から歓声のようなものが聞こえるものの、実際には何も起こっていないように見える。

 魔法を唱えた本人でさえ、発動していないのを疑問に持っているのか、困った顔をしていた。


「よっ! と」


 この雰囲気でごまかすように、俺は大声を出しながら埠頭から海へ飛び降りる。

 あちらこちらから悲鳴のようなものが聞こえるものの、俺は【水神の寵愛】を発動させた。


 無事に海の水面に立てたので、わざと来ていた全員に聞こえるように声を出す。


「流石佐々木さん!! こんな魔法を使えるなんて!! さすが日本一の魔法使いです!!」


 海に降り立った俺を数人の人が目を見開いてのぞきこんできている。

 魔法を唱えたとされている佐々木さんまで、信じられないという表情をしていたので、周りの人に気付かれないように声をかけた。


「さあ、佐々木さんの作ってくれた道で進みましょう!!」


 俺の言葉を聞いて、3人が俺の近くに向かって飛び込んできてくれた。

 水神の寵愛の範囲を広げて、全員が水面に立てるようにする。


 あくまでも水面に立っているので、揺れる地面を不思議そうに見ていた。


「じゃあ、向かいましょうか。俺から離れると海に落ちますよ」


 小声でそう言ってから歩き始めると、3人は慌てながら付いてくる。

 花蓮さんが足元を気にしながら、俺へ声をかけてきた。


「ねえ一也、これはどうなっているの?」


 後ろでは他の人たちも海に飛び込んでおり、失敗して海中へ吸い込まれていた。

 その音を聞きながら質問をされたので、笑いながら答えてしまう。


「これはウィンディーネさんの力で足場を作っているだけですよ」

「……なら、どうしてわざわざ佐々木さんへあんなことさせたわけ?」

「演出……ですかね?」


 花蓮さんがあきれた顔をしており、気にせずに歩き続けていたら、黒い槍のようなものが迫ってきていた。


「パリィ!!」


 盾で槍のようなものを弾いたら、砕けてしまい、黒い破片が飛び散った。

 破片を手に取ると、黒い結晶のようなもので魔力を帯びているように見える。

 攻撃は下から来ており、海底に巨大なウニが広がっていた。


(本当にウニのモンスターがいるのか!?)


 最初の攻撃を防ぐと、次々に黒い槍が俺たちに襲いかかってきていた。


「全部弾きます! そうしたら走ってください! ブレイクパリィ!!」


 衝撃波ですべての槍を砕くと、黒い結晶が四方に舞う。

 海上に黒くてキラキラしたものが飛散して、幻想的な風景を作り出す。


 その空間を花蓮さんが先頭になり、佐々木さんやリヤカーを引いている真央さんが突き進む。

 俺も花蓮さんに追い付くように走り始めた。


 その進路が急に海面が下り坂になり、滑り落ちてしまう。

 佐々木さんが杖で踏ん張ろうとするものの、海には杖が刺さらない。


「なにが起こっているんだ!?」


 佐々木さんがうろたえており、俺にもなにが起こったのかわからない。


(いきなり海に渦ができて、中心に閉じ込められた!?)


 数秒前まで何もなかった水面に巨大な渦ができていた。

 その中で何がくるのか警戒していたら、渦の側面から巨大な魚が飛び出してくる。

 

 盾で俺たちへ当たらないように軌道をずらした。

 坂に吸い込まれていく相手の姿を確認した佐々木さんが叫ぶ。


「クロマグロだ!」

「はぁ!?」


 クロマグロと呼ばれたものは、少なくとも全長が10m以上あった。

 渦の海側にはクロマグロの群れがぐるぐると回っている。


(こいつらは群れで渦を作り出しているのか!!)


 マグロの動きを止めれば渦が無くなると判断して、黄色の魔力を身にまとう。

 盾に魔力を注ぎ込み、渦を作っているクロマグロたちに向かって全力で放り投げた。


「ライトニングシールドブーメラン!!」


 雷をまとった盾が海の中を駆け抜ける。

 渦が弱まり、脱出できる深さになったので、戻ってきた盾を受け取りつつ指示を出そうとした。


「一也! やばいぞ! また下から何か来てる!!」


 突然足元の海面が激しく揺れ始めており、真央さんが警戒していた。

 すぐに、なにか赤いごつごつしたものがせり上がってきている。


「みんな俺に触ってください! テレポートで出ます!」


 足元からは、俺たちをはさむように巨大な赤い鎌が現れていた。

 全員が俺に触れるので、上空へ向かってテレポートを行う。


 眼下には俺たちが直前までいた場所で、カニがクロマグロを簡単に鎌で砕いていた。

 このまま落ちるとカニと戦わなければならないので、今度は佐々木さんにテレポートを頼む。


「佐々木さん! お願いします!」

「テレポート!」


 佐々木さんがテレポートを行い、なにもない海面に降り立つ。

 油断ができないので、北海道へ向かって走り出した。


「もうすぐです! もう駆け抜けましょう!」


 俺たちは足元から迫る槍や、クロマグロの追撃を振り切り、なんとか北海道へ上陸を果たす。


 土地に足を踏み入れた瞬間、俺は花蓮さんと真央さんに質問をした。


「そういえば、ふたりでレッドベアを倒しに行ったって絵蓮さんから聞いたんですけど、倒せましたか?」


 真央さんのトラウマの原因であるグリズリーの上級種であるレッドベア。

 急に質問だったが、真央さんが戸惑いながらも俺へ答えてくれた。


「なんとか倒せたけど、この状況と関係あるのか!?」

「こいつら1体1体がレッドベア以上のモンスターだと思ってください」


 北海道で俺たちを待ち受けていたのは、白や茶色のグリズリーの上位種だった。

 俺は進路を確保するために、熊の群れに向かって走り出す。

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