全国大会編28~エキシビションマッチ~

 競技大会個人戦は、各県の代表が参加する大会なので、実質日本一を決める大会と言っても過言ではない。

 それが突如、行われないことになったようだ。


「ギルド長、流石に意味が分かりません」


 一歩だけギルド長へ詰め寄ると、それに反応した夏美ちゃんが俺の背後に寄ってくる。

 息を呑みながらギルド長が言葉を絞り出した。


「静岡県代表以外の選手が棄権した。自動的にお前たち3人が日本代表だ」

「…………役員室へ棄権を承諾した理由を聞きに行ってきます。では」

「ダメだ! 止まれ!」


 花蓮さんと夏美ちゃんが俺の行く手を阻もうとしていたので、錬気を身にまとう。

 ふたりが競技場よりも緊張した顔になり、武器を構えていた。


「邪魔をするんですか?」

「一也、あんたが行っても何も変わらないわよ!」


 花蓮さんはアダマンタイトの剣を俺へ向けて、必死に説得を試みようとしている。

 しかし、聞く耳を持ってはいないので、置いてあった盾を拾った。


 無言で盾に魔力を込めてブレイクアタックを行い、花蓮さんと夏美ちゃんごと控室の壁を吹き飛ばす。


「きゃあ!」

「夏美!!」


 剣で衝撃波をガードした花蓮さんとは違い、夏美ちゃんは直撃して壁に打ち付けられて、そのまま崩れた壁の瓦礫と共に飛んでいく。

 夏美ちゃんを助けるために花蓮さんが手を貸そうとしたが、俺を見て止めて、剣を振るってきていた。


「止まりなさい!!」

「無理ですね」


 花蓮さんの剣をパリィで弾き、盾を胴体に食い込ませる。


「ガッ!?」


 肋骨の折れる感触が手に伝わり、花蓮さんが吹き飛びながら廊下を転がっていく。

 瓦礫の上を進んで廊下へ出ると、吹き飛ばされたふたりの傍に佐々木さんと真央さんが武器を持って立っていた。


「佐々木! 太田! 佐藤を止めろ! 役員室へ殴り込もうとしているんだ!」


 ギルド長がふたりに俺を制止するように大きな声をかけると、緊張した面持ちで武器を構える。

 

「立ち塞がるのなら、あそこで倒れているふたりと同じことになりますよ」


 俺は足を止めずに、背中を向けて役員室へ向かい始める。

 後ろから佐々木さんの声が聞こえてきた。


「ライトニングボルト!!」


 周囲の壁を破壊しながら太い雷の束が俺をめがけて放たれている。

 この量の攻撃魔法を1度のパリィでさばけないので、両手の盾で守らなければならない。


(さすがに佐々木さんの魔法を無防備で受けると痺れが残る!)


 心の中で舌打ちをしながら、2枚の盾でガードを行う。

 この隙を逃さないように、足元から黒い影が現れる。


 真央さんが俺へ強襲し、ダガーを俺へ向かって振り抜こうとしていた。


「嘘だろ!?」


 しかし、俺の背後から現れた人に阻まれて、その攻撃が俺へは届かない。

 ダガー防がれた真央さんは信じられないといった表情をして、俺の横に立つ人物から目が離せないようだ。


 俺は一言だけその人へお礼を言って、ここを任せることにする。


「絵蓮さん、この人たちを頼みます」

「ええ、任せて。あなたの邪魔はさせないわ」


 4人の対応を絵蓮さんに任せて、俺は廊下を進み続ける。

 廊下を歩いていたら、建物を微動させているかのように大きな声が聞こえてきた。


「お姉ちゃんどいて!!!! このままあいつを行かせちゃだめよ!!!!」


 花蓮さんが復活したのか、スイッチを入れて絵蓮さんと戦い始めたようだ。

 地響きと共に、ガラスが割れるような音が聞こえてくる。


 絵蓮さんに任せて数分で、後ろから迫ってくる気配を感じ、自分の体に流れる魔力を加速させた。


(気配は3人……絵蓮さんは花蓮さんに足止めされたか……)


 廊下の窓から3人と戦うためにちょうど良い場所を見つけたので、盾で壁を叩き割る。

 十分に通れる広さの穴が開き、俺は競技場へ足を踏み入れた。


 俺が競技場に上がると、まだ帰っていなかった観客の人からざわめきのようなものが生まれ始める。

 気にせず待っていたら、俺の開けた穴から真央さんたちがゆっくりと現れた。


「面倒なので、みなさんをここで行動不能にしてあげます。それとも……このままあそこへ向かってもいいですか?」


 役員室がある場所を視界にとらえると、中で慌ただしく動く影が見える。


「マルチプルショット!!」


 俺の言葉に返事をすることなく、夏美ちゃんから大量の矢が俺を射るために放たれていた。

 夏美ちゃんが上級スキルを使って、魔力の矢を飛ばしてきている。


 矢を無力化するために、両手の盾に魔力を込めた。


「ブレイクパリィ!!」


 体を回転させて、両手の盾で衝撃波を放ち、矢を防ぐ。

 矢を弾いている最中に、俺の頭上が暗くなった。


「頭を冷やせよ!!」

「真央さんしつこい!!」


 メイスが俺の眼前まで迫っており、盾は矢を弾いているため、テレポートで回避するしか選択肢がない。

 回避するためにテレポートを行ったら、俺の右肩にものすごい衝撃が走り、競技場へ打ち転がされる。


「いっつぅ……佐々木さん、俺がテレポートするのを待っていましたか……」

「これが連携だ。ようやくきみへ攻撃が当たったよ」


 俺が肩を治療して、3人が集まったとき、花蓮さんと絵蓮さんも競技場へ上がってきた。

 絵蓮さんは俺の横へ、花蓮さんは3人のところへ行っている。


「面白い! 明日の個人戦もなくなったし、ここで戦いましょうか!!」


 この言葉を皮切りに、俺たち5人による戦闘が開始された。


「ガァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!!」


 すでにスイッチが入っている花蓮さんは、再度自分を奮い立たせるように、俺が今まで聞いたことがない程大きな咆哮を放ってきた。


 神経がひりつくような感覚が全身を走り、花蓮さんを迎撃するために動こうとした瞬間、矢や魔法が飛んでいる。


「マルチプルショット!!」

「ファイヤーアロー!!」


 絵蓮さんではこの2種類の攻撃を完全に遮断することができないので、俺がなんとかするしかない。

 魔法や矢と並走するように花蓮さんと真央さんが来ていた。


「絵蓮さん、ふたりを頼みます!」

「なんとかするわ!」


 絵蓮さんは剣と盾を使用して、ふたりの進行を妨げてくれる。


「先輩! どいてください!」

「ふたりともダメよ。彼の邪魔はさせないわ!」


 俺たち5人による戦いの火蓋が切られた。


 この結果、競技場は使い物にならないほど破壊してしまった。

 レべ天と明によって強制終了させられる頃には、俺はもう戦っている目的を忘れてしまっていた。


 満足感に浸りながらホテルの部屋にあるテレビを見ていると、団体戦は結果のみ発表され、その後に行われた俺たちの戦闘風景がエキシビションという名になって流れている。


 なんでこの戦いをしているか理由について考えて、首をかしげていたら、アナウンサーの女性が真剣な表情で説明を行っていた。


「この戦いは静岡県代表が力を示すために行った際の様子です」

「そんな理由だったかな?」


 自分には身に覚えがない説明を聞き、思わずテレビと会話をしてしまう。

 俺の疑問を解決してくれるように、アナウンサーとコメンテーターの人が会話を始める。


「静岡県以外の選手は個人戦を棄権したようですが……これについてはどう思いますか?」

「賢明な判断だと思います。団体戦の決勝やエキシビションを観戦して感じましたが、今年の静岡県代表は他県と次元が違います」

「そんなに違うんですか?」

「ええ……特に、静岡の鉄壁と呼ばれる佐藤選手に関しては、この中でも頭一つ抜けている印象を持ちました」

「というと?」


 アナウンサーが興味深そうに身を乗り出して聞いている。

 俺のどのような分析がされているのか気になり、テレビから目が離せない。

 コメンテーターの男性は、戦闘中の画面へ目を向けた。


「2対4の戦闘ですが、4人の攻撃を佐藤選手のみで無力化しております」

「言われてみると……そうですね。谷屋絵蓮選手が防いだのは最初だけです」


 コメンテーターの男性は表情を曇らせて、声のトーンを落として話を続けた。


「ここへ来る前に、佐藤選手についての分析を同業者と行ったのですが、全く理解できませんでした」

「全くですか!?」

「ええ……こんな風に盾で戦うなんて芸当、世界中を探しても彼にしかできないでしょう……」

「そんなに強いんですか」

「私はそう思います」


 テレビを切って、ベッドへ横になる。


(そういえば、個人戦が無くなったから戦ったんだっけ……理由は……もういいや)


 考えるのも面倒になったので、もう寝ることにした。


(明日は何をしようかな……)


 個人戦がなくなったので、暇になり時間が余ってしまう。

 明日の予定は明日考えることにして、眠りについた。

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