全国大会編27~団体決勝戦②それから~

 花蓮さんが控室でも大人しくしてくれないので、首を絞めて意識を落としてから地面へ寝かせた。

 夏美ちゃんが地面に座りながら競技場を映しているテレビへ顔を向けて、花蓮さんに倒された選手が運ばれている様子を見ている。


「次の対戦やると思う? 最後の相手震えていますよ?」

「この試合順を組んだ大会組織が悪い」


 夏美ちゃんが気配を読んでいるのか、呆れながら俺に質問をしてきた。

 俺は運営でもないため、やるといったらやるつもりだ。


(この大会は強行すぎるからな……)


 普通、4チームのリーグ戦なら連戦になんてならない。

 しかし、俺たちのチームはなぜか3連戦で試合をするように試合日程が組まれていた。


 俺たちならなんの問題もないが、他のチームだったら消耗してしまい、3戦目は戦う力が残っていないだろう

 しかも、3戦目の相手が開催県のチームなので、俺たちのことを潰しにかかっているのは間違いない。


(こうなるなんて予想していないから、止めるとは思えないけどな)


 対戦を組んだ大会の役員も、1対10で戦おうとするなんて想像もしてないだろう。

 次は俺の番なので、準備体操をしていたら、部屋の隅に寝かせていた花蓮さんが首をさすりながら歩いてきた。


「ねえ。首が痛いんだけど、また無理やり締めたでしょ」

「花蓮さんが暴れて部屋がこんなになったので、仕方ないじゃないですか」


 部屋にあるすべての机やパイプ椅子が壊れてしまい、立っているか地面に座るしかできない。

 壊れてしまったものをどうしようか考えるのも面倒なくらい控室が散らかっている。


 なんとかテレビは死守したため、競技場の様子を見ることができていた。

 花蓮さんがこの散乱している部屋を眺めながら、夏美ちゃんの隣へ座る。


「一也がスイッチを入れろって言ったから、あんたのせいよ」

「それでいいですよ……ん?」


 花蓮さんに呼ばれることに違和感を覚えて首をかしげていたら、ドアがノックされて係の人が競技場へくるようにと声をかけてきた。

 呼びに来てくれた人が部屋の中を覗いて二度見をするものの、何も言わずに苦笑いをしながら扉を閉める。


「絶対花蓮さんがやったことになりましたよね」

「さっさと行って、どうせ素手で戦うんでしょ?」


 花蓮さんたちとは違って、俺の拳はスキルによって攻撃力が向上しているので、盾よりも危険な武器だ。

 それを忘れているのか、花蓮さんは俺へ何も持たずに競技場へ行けと言っている。


「俺が素手で戦うと相手は確実に死にますけど……」

「そうよ!! 絶対に使っちゃ駄目よ!!」


 はっと思い出した花蓮さんが注意をしてくるものの、俺は最初から拳を使う予定はない。

 杉山さんに用意をしてもらった、俺が今まで使ったことのない武器を取り出す。


 ポイズンスネイクの弾力のある皮で作ってもらった【鞭】。

 ゲームでも使ったことがなく、一応上級武器のため使用する機会そのものに恵まれなかった。


 今回、使い心地を確かめるためこの大会で使うことを決めていた。

 それを取り出すと、ふたりが引いているような顔を俺へ向けてきている。


「何か文句でもありますか?」

「えっと……一也くん、相手をいたぶるつもり?」

「防具があるから大丈夫でしょ」


 初めて使う鞭を持って、意気揚々と競技場へ向かって歩き出した。


(新しい武器を使う時は毎回楽しみだ)


 競技場で待っていたのは、見に覚えのある緑の鱗が付いた防具に身を包み、アダマンタイト製のような武器を持った人たちだった。


 武器や防具の性能を引き出せるのか不安になってしまうものの、俺は鞭を全力で振るうだけだと気付くとなんとも思わなくなってしまう。


 競技場の中央へ向かいながら試すように何度か鞭を振るうと、パァン!っと乾いた音が会場に響く。

 すると、相手の何人かが曇った表情になってしまい、俺と目を合わそうとしない。


 先ほど花蓮さんの試合中に起こったことを見ていたので、開始前に相手へ警告をしておく。


「最初に言いたいんですが、ここは全国大会の決勝なので先ほどのチームのような無様に逃げるような選択はしないでくださいね」


 存分に鞭を使いたいため、ひとりでも多くの人と戦いたい。

 そういう気持ちを込めて放った一言で会場中から雑音が消えてしまった。


(さっきの塩試合の後だから盛り上がると思っていたのになぜだ……)


 少なくとも会場からこの県の人たちへの応援が聞こえると思っていたのに、なにも声援がない。

 あまり支持をされていないチームなのかと首をかしげる。


 近づいてくる相手の装備を鑑定して、さらに混乱してしまう。


グリーンドラゴンの防具

アダマンタイトの剣


(俺の戦利品たちをオークションで落としてくれていたのはこの人たちだったのか!!)


 花蓮さんたちが狩ったグリーンドラゴンや、俺が何本か不要になった鬼の棍棒を佐々木さんに頼んでオークションに出してもらっていた。

 毎回、値が跳ね上げて購入している人が全部同じだった。


(こんな大会のためにいくら使ったんだ……まあ、俺には関係ないか)


 どこからそんなお金が出ているのか俺の知ったことではない。

 装備に似合うだけの実力があれば文句はないので、審判へ試合開始の合図をしてもらう。


「始めましょう」

「いや……しかし……」


 またもや審判が即座に試合を始めてくれないので、威嚇のように鞭を打ち鳴らす。

 もう勝手に始めてしまおうかと思い始めた時、相手の選手が苦笑いで俺へ話しかけてきた。


「なあ、棄権してくれないか?」

「……どうして?」

「俺たちの装備を見てみろよ、そんな鞭1本で勝てると思うのか?」

「もういい。早く始めろ」


 これ以上耳障りなことを聞かされたくないので、審判をにらみつける。

 審判は相手の選手と俺を数回交互に見た後、声を張り上げた。


「試合開始!」


 開始直後、相手集団は俺が何をしてくるのか様子をうかがうように固まって防御を固めていた。

 その姿が面白すぎて、声高らかに笑ってしまう。


「嘘だろ!? 俺へあんなこと言っておいて、誰も攻撃してこないじゃないか!! お前らは装備を付けているだけなんだな!!」


 相手を見ていたら、試合中であることを忘れてしまった。

 グリーンドラゴンの防具を全身に着けている集団が身を寄せて防御を固めるなんて、俺には想像もつかない戦法だ。


 俺を油断させて何かをしてくるのかとも考えていたが、俺が横を向いているのに誰も動こうとしない。


(つまんない……さっさと終わらそう)


 ひとしきり笑った後、我に返り、自分が期待していた戦いにはならないことを悟る。

 ゆっくりと歩きながら、岩のように固まっている集団へ近づく。


「ファ、ファイヤーアロー!!」


 その中から、何本か炎の矢が俺へ向かってきている。

 しかし、威力が弱すぎて、当たっても着ている服が焦げるだけでなんのダメージもない。


 集団が鞭の有効範囲に入る直前、3名が俺に対して走り始めてきた。


 鞭を振るい、パァン!!っと乾いた弾ける音が聞こえると、走っていた中のひとりが塵のように吹き飛ぶ。

 人数分鞭を振るい、俺へ近づいてきていた選手が全員場外に出てしまった。


(ロクな装備も作れないんだな。杉山さんを見習ってほしいもんだ)


 鞭を振るうたびに緑色の鱗が防具からはがれていた。

 せっかくの素材が台無しになっている。

 ため息をつきながらまだ動かない集団に視線を移す。


 なにもせずに固まっているだけ集団は、この光景を見て誰も動こうとしていなかった。

 全力で鞭を防具へ打ち込んでいる俺は、手を大きく広げた。


「あなたたちはなんでここにいるんですか? 戦う気が無いならどこかへ行ってください」


 倒れている選手から目を離して、再び集団へ向けて歩き出す。

 集団は俺の言葉を聞き、すぐにでも逃げようとしている。


 最初に俺へ声をかけてきた選手も逃げようとしているので、制止させた。


「最初に話しかけてきたあなたはダメですよ! あんなことを俺へ言っておいて、さすがに棄権しないですよね?」


 俺の言葉を聞いて、その人だけがそこに留まり、他の人は競技場から逃げてしまった。

 その選手は試合前と違って、まったく俺と目を合わそうとしない。


 相手の持っている武器が剣だったので、踏み込めば攻撃が当たる距離まで近づいても何もしようとしてこなかった。

 そして、ようやく俺を見たと思ったら、武器を落として震える声を出してくる。


「俺たちの負けでいいからもう終わりにしてくれよ……頼む……」

「はぁ!? ふざけるな!!!!」


 湧いてきた感情を込めて持っていた鞭を地面へ向けて何度も振り抜く。

 負けを宣言した選手は驚いて腰を抜かして、漏らしてしまっていたようだった。


「し、試合終了!! 勝者静岡県代表!!」


 審判が試合を止めるためにアナウンスをするものの、俺は感情をまだ抑えられていない。

 鞭が千切れてしまい、しなっていた部分が競技場に落ちる。


 会場中を見回して、高らかに宣言をしなければならない。


「静岡県代表は明日の個人戦で会場に上ってきた選手を戦闘不能にするまで戦いを止めない!! 戦う選手は覚悟を持って俺たちの前に立て!!」


 明日も同じようなことをされたらおそらく素手で思いっきり殴ってしまうので、はっきりと自分の意思を伝える。

 俺が去った会場は、団体戦の決勝が終わったとは思えないほど静かになっていた。


 控室に戻るとギルド長が来ており、中の様子を見て戸惑っているようにも見える。


「どうしたんですか?」

「来たか……佐藤……それが……」


 先に話を聞いていたのか、夏美ちゃんと花蓮さんはそわそわと俺の反応を気にしているようだった。

 ギルド長は目で花蓮さんに合図をして、控室の扉の前に立ち塞がる。


「佐藤……明日の個人戦は行わないことになった」

「意味が分からないんですけど」

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