全国大会編26~団体戦決勝①~

 夏美ちゃんは全身に防具を装備した人に対して、掌底を打ち込んで場外まで吹き飛ばす。

 小柄な女性が行う攻撃が信じられないのか、動けないまま数人がそのまま夏美ちゃんの手によって倒されていた。


「嘘でしょ……こんなに弱いの?」


 横に座る花蓮さんは、思わず俺の思っていたことと同じことを呟いていた。

 弓を使わずに素手で戦う夏美ちゃんが相手を圧倒する姿を見て、花蓮さんが俺へ困惑している顔を向ける。


「超越者ってこんなことができるようになっちゃうの?」

「身体能力向上のLvが20くらいあれば素手で車を壊せますからね。後、夏美ちゃんはお祖母さんから護身術を習っていたって美、晴美さんから教えてもらいました」

「車を破壊って……私はなんにも習っていないけど……」


 ものの数分で対戦相手をすべて倒した夏美ちゃんが、涼しい顔で競技場の中央で一礼をしてから退場していた。

 休憩後に次の対戦のため、どうしようか悩んでいる花蓮さんへアドバイスをする。


「【スイッチ】を入れればいいんじゃないですか?」

「それでいいならそうするけど……相手、大丈夫かしら……」

「花蓮さんの長所なんで、披露すればいいじゃないですか。一昨日は不発したみたいですけど」

「……うるさい」


 花蓮さんと話をしていたら、夏美ちゃんが控室に戻ってくる。

 夏美ちゃんは用意された飲み物を取って、静かに椅子に座った。


「半信半疑だったけど、武器無しで全力を出せば、殺さずに済んだよ」

「それはよかった。会場に与えた印象も最高だよ」


 素手で戦うのが楽しかったのか、俺が手を上げたら控えめに微笑みながらタッチをしてくれた。

 花蓮さんも苦笑いで手を上げて、夏美ちゃんとハイタッチをする。


「次は花蓮さんですよね? どうするんですか?」

「スイッチを入れるわ」

「え゛!? 相手は大丈夫なんですか!?」

「そうなのよね……」


 花蓮さんは時計を見て、剣を置いたまま控室を出ようとしていた。

 不安そうに歩いていたので、少し曲がっている背中へ声をかける。


「花蓮さん、遠慮しないほうがいいですよ」


 部屋を出る直前に立ち止まって、軽く左手を上げながら横顔を俺へ向ける。


「相手が死にかけたら治してあげて」

「わかりました」

「なら安心して戦えるわ」


 控室を出た後、夏美ちゃんが不安そうな顔で俺を見てきていた。

 何が言いたいのか大体わかるので、俺も競技場に向かう準備をする。


「俺は回復するために行くけど、夏美ちゃんはどうする?」

「応援へ行きます」


 競技場に着くと、審判が俺たちふたりを見て駆け寄ってきた。

 対戦相手や会場も俺たちの動向を気にしているようだ。


「早く上ってください!」

「今回もひとりだけの参加です。どうぞ、始めてください」

「本気ですか!?」

「はい。俺たちは応援にきただけなので、気にしないでください」

「いや……しかし……」


 審判がどうしても始めようとしてくれないので、相手を見て挑発してみることにした。


「あの相手なら彼女だけで十分ですよ」


 それを聞いた花蓮さんと夏美ちゃんがため息をしているような感じがする。

 審判の人はそのまま引き下がり、競技場の中央へ向かう。


 俺の声が聞こえていたのか、対戦相手は花蓮さんへ怒りを込めた視線を送っていた。

 ここからだと花蓮さんの後ろ姿しか見えないが、この会場中の視線を浴びても動じていないように見える。


「花蓮さん変わりましたよね」

「そうなの?」

「私が会った頃は、周りの目ばかりを気にしていましたから」

「そんなこともあったね」


 花蓮さんのたたずまいから目を離さずに、夏美ちゃんが安堵しながら口を開いていた。

 俺も言われて気が付いたが、他人から評価されないと嘆いていた彼女の面影がまったくない。


「試合開始!」


 審判が行った合図と共に花蓮さんが服に隠していた右手を勢いよく出した。

 全員がその手に注目してしまい、一瞬誰も動かない時間ができる。


「ウォオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 花蓮さんは自分を奮い立たせるように、咆哮を行う。

 空白の時間に爆発した音の爆弾は殺気を含み、聞いてしまった者を心から震え上がらせた。


 これは、【宣言】のスキルを習得した花蓮さんが全力を出す前にしている行為。


 仲間を救うためにモンスターの攻撃をすべて自分に引き寄せる。

 そのため、この儀式をした直後の花蓮さんは全力で敵を倒すために、あらん限りの力を振るう。


 しかし、反動も大きく、魔力が尽きるか、モンスターがいなくなるまで戦いに熱中してしまい、自分で止めることができない。


 俺たちは花蓮さんが行う雄叫びを【スイッチ】と呼び、この状態を【狂暴化バーサーカー】と認識している。


 狂暴化した花蓮さんは、敵に向かって一直線に突っ込み始める。


 ファイヤーアローなどの魔法がくるものの、手で強引に振り払った。

 手が焼かれるものの、ヒールで強引に治して速度が落ちるることはない。


 先頭にいた選手が剣を振る最中の手首をつかんで、放り投げるように地面へ叩き付ける。

 その後、手に持った選手を何度も地面に叩き付け、呆然としている他の選手に向かってぶん投げた。


 地面に叩き付けられた選手の口から血がこぼれ、握られた腕がもげようとしている。

 その姿見た他のチームメイトが、背を向けて競技場から逃げようとしていた。


「うわぁああああああああ!!」


 数人が逃げようとするもの、試合終了の合図は行われていないので、俺は止められない。

 花蓮さんは逃げる選手の防具の襟元を持って、地面に倒すと馬乗りになる。


 力任せに顔面を殴り続け、抵抗するために花蓮さんを押しのけようとしていた手がだらりと地面に落ちる。

 数秒で動かなくなった相手から離れて、次の選手を捕まえては戦闘不能にしていた。


 観客席からは悲鳴のような声が聞こえ始めるものの、他の選手が競技場から逃げきっていないため、試合は終わらない。

 ようやく試合終了の合図が出たのは、最後の選手が競技場から出られる直前に足を折られて倒れてからだった。


 これでようやく俺と夏美ちゃんは競技場へ上がることができる。


 夏美ちゃんは花蓮さんを取り押さえるために駆け出し、俺はまだ死んでいない選手の治療を始めた。


 花蓮さんが威嚇をするように逃げた選手に向かって吠えていたので、夏美ちゃんが力任せに花蓮さんを抱きかかえて、控室に戻ろうとしている。


 俺も死なない程度に治療を終えたので、競技場を後にした。


 会場に残されたのは、競技場に血を垂れ流している選手と静寂に包まれた観客だった。


清水夏美スキル


体力回復力向上Lv20

(Lv5) ┣[+剣熟練度Lv5]攻撃速度向上Lv20

(Lv10)┗キュアーLv10


メイス熟練度Lv20

(Lv3) ┣[+ヒールLv3]身体能力向上Lv20

(Lv10)┗魔力回復力向上Lv20


ヒールLv20

(Lv5) ┗移動速度向上Lv20


弓熟練度Lv20

(Lv3) ┣気配察知Lv20

(Lv5) ┗鷹の目Lv20



谷屋花蓮スキル


体力回復力向上Lv20

(Lv5) ┣[+剣熟練度Lv5]攻撃速度向上Lv20

(Lv10)┗キュアーLv20


剣熟練度Lv30

(Lv3) ┣挑発Lv30━[上級]宣言Lv10

(Lv5) ┣バッシュLv30

(Lv10)┗ブレイクアタックLv30


メイス熟練度Lv20

(Lv3) ┣[+ヒールLv3]身体能力向上Lv20

(Lv10)┗魔力回復力向上Lv20


ヒールLv30

(Lv5) ┣移動速度向上Lv30

(Lv10)┗[上級+キュアーLv10]ホーリーヒールLv10

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