全国大会編25~解体部門、団体戦予選~
解体部門の競技は実際にダンジョンで行うため、会場では映像が映し出されていた。
解体作業は競技場で行うようなので、参加者全員にここへの帰還石が配布されている。
基本的には、その場で数人のグループを作り、1体のモンスターを倒すようだ。
倒したモンスターのランクや素材の状態を点数化し、人数割りをした結果が個人のポイントとなるため、同率同位という結果になる。
そのため、同行する人などは事前に目星をつけておくらしい。
また、この競技だけは世界大会は無く、1位になった人が個人戦や団体戦のサポーターとして同行できるようだ。
昨日の運営組織による不正容認の疑いもあり、解体競技では公平を期すために多数の監視官が付けられていた。
そんな説明が会場に流れている最中、まだチームを組もうとしている人からダンジョンへ向かうひとりの姿が映し出される。
(真央さんだ。うんうん、一人の方が効率が良いよね)
真央さんがダガー2本だけを持って、ダンジョンへ向かって走り始めた。
それを全力で監視官が追い始める。
監視官の頭部の防具につけられたカメラの映像が映し出された。
ワイルドボアなどの動物系モンスターが多数現れるものの、軽くあしらいながらダンジョンを進んでいる。
監視官から悲鳴のようなものが聞こえ、防具を付けていない真央さんが立ち止まって心配するように見ていた。
「大丈夫ですか? 危ないし遅いので抱えますね」
「え!?」
真央さんは自分よりも大きな男性と思われる監視官を肩で抱えて、今まで以上の速さで走る。
他にも参加者がいるはずなのに、競技場で見る映像は真央さんを映しているものばかりだ。
急に真央さんが立ち止まり、監視官の人を放り投げる。
「すみません、モンスターを発見しました。危ないので離れていてください!」
「え……ひぃ!?」
監視官の悲鳴と共に画面に映し出されたのは、赤い鱗で覆われているレッドドラゴンだった。
会場からも緊張感が漂う中、真央さんはダガーを構えて果敢に攻撃を始める。
レッドドラゴンも真央さんを振り払おうと、尻尾を振り回したり、ブレスを吐いたりしているが、真央さんが速すぎてまったく当たる気配が無い。
その動きを見た会場の一部から、真央さんのことを【疾風迅雷】と呼ぶような声が聞こえてきた。
その名の通り、ドラゴンの周りを縦横無尽に動き回り、真央さんが通った後に鱗のない場所から血が噴き出している。
芸術のように美しい戦いに、会場中が目を奪われていた。
悔しそうにしているのは俺の周りにいる花蓮さんや夏美ちゃんぐらいだ。
「今もう一回切れたのに!!」
「ああ、真央さん緊張してる!!」
二人とも画面を見ながら必死に応援しているものの、真央さんがいつも通りの力を発揮できていないことが歯がゆいらしい。
ドラゴンは瀕死になると逃げようとする習性がある。
しかし、真央さんはドラゴンに撤退をする余裕さえ与えず、ものの数分で倒してしまった。
倒れたレッドドラゴンの急所へダガーを突き立てて、止めを刺した。
少し汗をかきながら、ダガーを引き抜いた真央さんは監視官へ近くまでくるように手招きをしている。
「倒したので、会場へ帰ります」
「は、はい……帰還……了解しました……」
真央さんが帰還石を取り出して、力を込める。
次の瞬間には、競技会場にレッドドラゴンが現れた。
それと共に現れた真央さんへ、称賛する拍手が会場中から向けられる。
当の本人は、集中しているのか拍手にこたえることなく、解体の準備を黙々と進めていた。
この時点でまだチームを組んでいる人が画面に映されるが、誰も見ていない。
真央さんの解体は、俺でも真似ができないほどの神業だ。
それ以外に例える言葉がないくらいモンスターが圧倒的な速さで捌かれている。
競技開始から1時間もしないうちに、全長10mほどあるドラゴンに対して、討伐から解体まですべての作業が終わってしまった。
検品をしている最中、真央さんがどこかへ行こうとしている。
監視官が近づくと、当たり前のように言葉を放つ。
「時間に余裕があるので、またダンジョンへ行きます。問題ないですよね?」
通常1体から2体のモンスターを解体するのがこの大会の平均だが、この日真央さんは1体のドラゴンと、数十体のグリズリーの討伐から解体まで終わらせた。
2位に圧倒的大差で勝ち、歴代最高得点で優勝した真央さんは最後にやっと笑顔になっていた。
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U-16の団体戦の予選バトルロイヤルは、非常につまらなかった。
袴姿の夏美ちゃんがほぼすべての敵を近づく前に矢で倒してしまうので、俺と右手を服の中に隠した花蓮さんはほとんど何もすることがないまま勝ち残る。
決勝は個人戦と同じように4チームのリーグ戦を行う。
このままではなんの成果も得られないため、控室で緊急会議を開くことにした。
花蓮さんもつまらないのか、俺が貸したアダマンタイトの剣を左手に持って眺めている。
「もう全部夏美ちゃんに任せれば? この剣で切ったら、相手が死んじゃいそう」
「確かに……」
「……矢でも殺さないようにするのが大変でした」
最初は相手を殺さないように用意をした盾も、今では立派な凶器になってしまっている。
予選で軽めにシールドブーメランを行って、何十人も致命傷を負わせてしまったので盾も気軽に使えない。
「失礼します。そろそろ、試合を始めるため準備をお願いします」
3人で頭を悩ませていたら、係の人に呼ばれてしまった。
今までと同じように作業になるのかと、重くなった腰を上げた時、ある考えが頭に浮かぶ。
ふたりも武器を持って用意をしようとしていたので、花蓮さんを椅子へ戻して、夏美ちゃんの弓を取り上げる。
「急になに?」
「いじわるですか?」
「夏美ちゃん、これを貸してあげるからひとりで戦ってきて」
夏美ちゃんへアダマンタイトのフィストガードを差し出した。
俺の言葉を聞いた夏美ちゃんは肩を落として、俺を見る。
「私に素手で戦ってこい。そういうこと?」
「そう。ひとりで」
「……わかった。あと、それは一也くんだけのものだから、必要ないよ」
夏美ちゃんが俺へ冷ややかな目を向けてから、何も持たずに競技場へ向かい始める。
「冗談でしょ……私も行くわ!」
花蓮さんが一緒に行こうとするので、左腕をつかんで止めた。
逃がさないようにがっちりとつかみ、控室にあるテレビの電源を入れる。
そこには競技場が映されており、すでに対戦相手のチームが揃っていた。
「もう行かないから離しなさい」
「はい」
花蓮さんが勢いよく俺の横に置いてある椅子に座り、詰め寄ってくる。
「それで、どういうつもり? 夏美が素手で戦えると思うの?」
「他人事みたいに言っていますけど、花蓮さんも次同じ条件で行くんですからね」
「はぁ!? 聞いてないけど!!」
「今言いましたから」
テレビに夏美ちゃんだけが競技場に現れると、会場中がざわついていた。
現状でも団体戦に参加しているチームの中でも最低人数だった。
対戦相手も動揺して、審判が夏美ちゃんに確認をしている。
「静岡県代表の《谷屋花蓮と愉快な仲間たち》チームの他のメンバーは……」
「いません。私だけで戦います」
「え!? 始めてもいいんですか!?」
「お願いします」
袴姿の夏美ちゃんは堂々とひとりで相手チームと向き合っている。
試合開始が宣言されても相手が動かないので、夏美ちゃんが袴を風になびかせながら走っていた。
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