全国大会編29~個人戦の日~

(今日は久しぶりに空とダンジョンへ行こう!)


 個人戦が無くなり、朝食を食べたら空とスカイロードを探そうと思った。

 そんな俺を待ち受けていたのは、ホテルのドアを開けた瞬間に笑顔で俺へ詰め寄る明だった。


「一也さん、おはようございます」

「おはよう……いきなりどうした?」


 明の顔が至近距離まで近づき、サラサラの髪から良い匂いが漂ってくる。

 朝から癒されていたら、明が突然怒涛の勢いで話を始めてきた。


「一也さん、今日は暇ですよね!? 個人戦が無くなって時間があると思って来たのですが、今日のご予定は!?」

「空とダンジョンを探そうかなーって思っていたんだけど……」


 その瞬間、明が満面の笑顔になり、俺の手を握ってくる。


「ここに探し物の達人がいますよ! ぜひご一緒にどうですか!?」

「えーっと……」


 俺が回答できずにいたら、明が追い打ちをかけてきた。

 距離がさらに近くなり、髪の毛が俺の鼻を触る。


「そもそも、ギルド長を助けた時やリバイアサンの時に約束したデート一日をまだしてくれていませんよ! 一也さんは約束を守れないんですか!?」


 あの時は明にだいぶ助けられたので、今日くらいは明に付き合ってもいいと思った。

 それに、適当に飛んでもスカイロードが見つけられないのは確かなので、明の力を借りることにする。


「デートがダンジョンでいいなら、喜んで行こう」

「はい! では、朝食後、よろしくお願いします!」

「ああ、1時間後に部屋に来てくれたら、一緒にワープしよう」

「わかりました!」


 明が上機嫌で廊下を歩き始めた。

 その姿を眺めていたら、立ち止まって不思議そうな顔を向けられる。


「一也さんは朝食へ行かないんですか?」

「行くよ」

「一緒に行きましょう」

「そうだね。行こうか」

「はい!」


 明と一緒に食事をしてから、準備をして部屋で待っているとドアがノックされる。

 まだ約束の時間には少し早いけれど、明が来たのかと思って扉を開けたらレべ天が立っていた。

 

 レべ天は前にリバイアサンのことを悩んでいた時と同じような顔をしている。


「ご相談があるんですが、今お時間いいですか?」

「大丈夫。入れよ」

「ありがとうございます」


 予想通り、レべ天が困っていたようだったので、部屋で話を聞くことにした。

 しかし、レべ天を椅子に座らせても、なかなか話を始めない。


 今度は枕を投げつけようかと思い始めた時、うつむきながら話を始めた。


「私の家に住みたいって人がいるんですけど、どう思いますか?」

「……俺に相談すること?」

「一応……私の家には一也さんの部屋もあるので……」

「天音がいいならいいんじゃない? 俺は気にしないよ」

「分かりました……」


 前回の内容とは違い、そんなことを相談するために来たのかと拍子抜けするようなことだった。

 レべ天に詳しく誰が来るのか聞こうとしたとき、ドアがノックされる。


 時間を見ると、明と約束していた時間になっていた。

 ドアを開けるとジャージ姿の明が立っている。


「準備したみたいだね……他の荷物は?」

「守さんに預けました。中へ入ってもいいですか?」

「いいよ。天音がいるけど気にしないで」

「失礼します」


 この部屋に3人も入ると、手狭になってしまう。

 レべ天に荷物を任せて、俺と明は富士山へ向かうことにした。


「天音。俺はこれから明とダンジョンへいくから、荷物を部屋に送っておいてくれる?」

「わかりました。ちなみにどこへ?」

「スカイロードだよ。明が探してくれるって」

「ああ、全裸の……」


 レべ天はスカイロードの守護者が全裸だということを知っているらしい。

 明にも話をしておかないと、嫌なものを見る可能性がある。


「理由知ってるの?」

「すべてに縛られたくないみたいですよ。私には理解できません……」

「そんな理由なのか……」


 ひとりだから寂しくてあんな風になってしまったのかと哀れんだ自分が情けない。

 明に軽く、これから行くダンジョンの守護者が全裸だと説明したら、呆れた顔をしている。


 ワープホールを行って空と合流すると、事前にレべ天へ連絡をしていてもらっていたので、白龍がいつものようにお弁当を作ってくれていた。

 白龍は俺の後ろにいる明を見て、守護者ということを見破ったらしい。


「ふたり分しか用意していませんが……」

「急に来た私が悪いので、気になさらないでください」


 白龍と明が話を始めたのを見ていたら、空が俺の袖を引っ張ってきた。


「ねえ、一也、あの人って、僕が驚かせちゃった人?」

「そういえば、そうだ。あの後に、捕まえようとした人を止めていたんだよ」

「そうだよね! 匂いを覚えているもん!」


 空は笑顔でそう言って、話をしていた明に抱き付く。

 白龍は驚いた顔をして、空を見ている。


「お姉ちゃん、あの時は驚かせてごめんね!」

「覚えていてくれたの!?」

「うん!」


 空が心を許したのを見て、白龍は俺たちに少し待つように言ってきた。

 待っている間、3人で話をしていたら、白龍が追加のお弁当を持ってきてくれている。


「明さん、これをどうぞ」

「え!? いいんですか?」

「いつも急なら困りますが、今回は特別です」

「ありがとうございます!」


 準備が調ったので、スカイロードを探すために空に龍になってもらい、背中に乗った。


「お母さん、行ってきます!」

「気を付けてね。水蛇にやられた時みたいに油断しちゃだめよ」

「わかってるよ! 僕はお母さんより強くなるんだから!」


 空が飛び立つと、白龍は手を振って見送ってくれていた。

 明は空に乗るのが初めてなので、俺の後ろで抱き付いてきている。


「明、落ちないとは思うけど、しっかり持っててね」

「はい! 離しません!」


 元気に返事をした明の腕が俺の腹部を軽く圧迫してくる。


(バイクのふたり乗りなんてしたことがないけど、こんな感じなんだろうか……)


 明の案内で簡単にスカイロードを発見することができた。

 スカイドラゴンのフィールドへ入る直前に、明へアドバイスをする。


「明、これから俺以外の声が聞こえた方向を見ない方がいいよ」

「例の全裸さんがいるからですか?」

「そう。刺激が強いだろ」

「わかりました」


 空と一緒にスカイドラゴンのフィールドへ入ると、待ち構えていたかのように火のブレスを放ってきた。


「バーニングフィスト!!」


 スカイドラゴンのブレスを炎の拳で相殺し、空へ戦うように頼む。


「空!」

「今日こそ倒す!」


 空が赤い雷を身にまとって、スカイドラゴンへ挑んでいった。

 すると、後ろから男性の声が聞こえてくる。


「また会えましたね」

「お久しぶり……です……」

「はい。素敵なレディを連れてきていただいて嬉しいです」


 守護者は全裸ではなく、タキシードを着ていた。

 明のそばまで来ると、優雅に一礼して微笑んでいる。


「初めましてお嬢さん。私はこのダンジョンの守護者、【アイテール】と申します」

「ご親切にありがとうございます。私は安倍明です」

「今後ともよろしくお願いします」


 ここの守護者は、俺の時とはまったく違い、アイテールという名前まで名乗りながら明へ挨拶をしていた。


 その後ろでは空がスカイドラゴンを相手に、前回よりも善戦していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る