全国大会編23~谷屋姉妹決着~
全国剣術大会決勝の試合が開始される合図と共に、一筋の暴風が絵蓮さんへ襲い掛かる。
花蓮さんが自身の能力を全力で展開して絵蓮さんに剣を振るっていた。
常人では何が起ころうとしているのかわからないだろう。
鬼神のごとく剣を振っている花蓮さんがありえないものを見るように目を見開く。
絵蓮さんは剣を【抜かず】に、まるでダンスでもしているかのようにすべての攻撃を避けていた。
現実が受け入れられない花蓮さんへ、絵蓮さんがほほ笑んでいる。
「あら、花蓮、もう終わりなの?」
「お姉ちゃん……まさか……」
「私の番よ。いくわ!」
絵蓮さんはそう言い、疾風の如く急加速した。
花蓮さんはなんとか攻撃を防ぐものの、絵蓮さんの剣に対応が遅れている。
ふたりの剣が打ち鳴らす音を聞いていたら、真央さんが俺の横へ近づいてきていた。
「一也、お前……先輩に何をしたんだ……」
「特別なことは何もしていませんよ」
「じゃあなんで先輩が花蓮ちゃんと同等に戦えているんだ!」
「なんかそれ、絵蓮さんに失礼じゃないですか? まあ、でも言いたいことは分かります。京都で鬼1体に苦戦していた絵蓮さんが、どうしてここまで強くなれたのかということを聞きたいんですよね?」
この場にいる全員の驚いた顔を見られただけでも、満足してしまいそうになる。
絵蓮さんが強くなったのは本人の努力なので、真央さんへ教えてあげることにした。
「真央さんたちと同じことをしたからですよ」
「京都以降の私たちが手を抜いていたって言うのか!?」
「自覚はあるんですか?」
「ない! 私たち4人は常に全力でモンスターと戦っていたはずだ! お前も見ていただろう!?」
「ええ、そうですね。【4人】で戦っていましたね」
真央さんの言葉を聞きながら、すでに答えを言っていたのでつい笑ってしまう。
それを聞いていた佐々木さんが気付いたのか、俺へ確認をするためにふたりの戦いから目を離していた。
「なら、彼女……絵蓮は俺たちがやってきたことをひとりでやってきたというのか!?」
「それ以上ですよ。戦闘中、誰も守ってくれないし、励ましてもくれない。それに、絵蓮さんはみなさんのようにゆっくりと休憩なんてしている時間なかったですから」
全員が俺の説明を聞いて絶句しているようだった。
競技場で行われている戦闘を見ないのがもったいないので、ふたりの戦いを見るように手を向ける。
「これは絵蓮さんの努力の結果です。見守るのが礼儀だと思いますよ」
俺の横に立っていた真央さんが力なく椅子へ座り、競技場へ顔を向けた。
なぜかその目には涙を浮かべており、両手を思いっきり握っている。
ふたりの戦いは、互角になっていた。
戸惑いを消した花蓮さんは暴力的に剣を振るい、絵蓮さんを圧殺しようとしていた。
しかし、絵蓮さんが培ってきた体さばきで、花蓮さんの極わずかな隙へ剣を振るうため、攻めきれていない。
距離を取ったふたりは対照的な表情を浮かべている。
荒々しく息を吐き、攻撃が届かないことに憤り、睨みつけながら顔をゆがめる花蓮さん。
絵蓮さんは、戦いを楽しんでいるようで、雰囲気に浸り気持ち良さそうに軽く微笑んでいた。
「花蓮、あなたの攻撃はその程度なのかしら? もっと速く鋭くないと私へ届かないわよ」
「もう私は昔の私じゃないの!! 絶対に負けない!!」
「ええ、そうね……それは……私も同じよ!!!!」
【テレポート】を行い、その場から消えた絵蓮さんが花蓮さんの頭上に現れる。
なにが起こっているのか分からない花蓮さんは、剣で身を守ることしかできない。
絵蓮さんは両手で剣を振り上げている。
「一刀両断!!」
その声と共に、花蓮さんの剣と右腕が絵蓮さんによって叩き切られた。
右腕を失った花蓮さんがその場に崩れ落ち、剣を顔の前に突きつけられている。
「花蓮、今回は私の勝ちよ」
会場中が目を疑い、倒れている花蓮さんから目を離せないのだろう。
勝負がついたのに、数秒経ってもなんのアナウンスもない。
焦るようにスピーカーから声が聞こえてきた。
「し、試合終了!!」
審判が試合を終了させ、花蓮さんに駆け寄っていた。
そんな中、絵蓮さんが切った右腕を持って、花蓮さんを抱きかかえている。
そして、競技場から出るように走り出すので、俺も後を追う。
それ以降、会場中からなんの声も聞こえなくなっていた。
廊下を走っていたら絵蓮さんがこちらに来てくれていたため、空いている部屋を探す。
人の気配が無い部屋を見つけたので、そこへ絵蓮さんを誘導した。
「この中へ!」
「ええ!」
部屋に入って、絵蓮さんに抱きかかえられていた花蓮さんの治療を行う。
「ホーリーヒール」
花蓮さんの体を緑色の光が包むと、血が止まり、腕が元通りになる。
安心した絵蓮さんが花蓮さんを降ろそうとするので、そのまま連れていってもらうことにした。
「絵蓮さん、そのまま花蓮さんを救護室へ連れていっていただけますか?」
「私もう大丈夫だけど」
「ふたりで話をする時間が欲しいですよね?」
「それは……」
花蓮さんが絵蓮さんの顔をうかがうように見ていた。
妹の迷いを気にすることなく、絵蓮さんは部屋を出ようとしてくれていた。
ドアを開けようとした俺へ、絵蓮さんが立ち塞がる。
「今夜、部屋で待っているから。約束忘れないでね」
「わかっています。花蓮さんをお願いします」
「ええ、任せて」
絵蓮さんは絵本で見た王子様のように、花蓮さんを抱えて颯爽と部屋を出ていってしまった。
(何を聞かれるんだろうな……)
今日の大会が終了したので、俺はホテルへ帰ることにした。
絵蓮さんのスキルを思い出して、これからどんな成長を見せてくれるかと思うと足取りが軽くなる。
◆
谷屋絵蓮スキル
体力回復力向上Lv30
(Lv5) ┣[+剣熟練度Lv5]攻撃速度向上Lv30
(Lv10)┗キュアーLv30
剣熟練度Lv30
(Lv3) ┣挑発Lv30━[上級]宣言Lv30
(Lv5) ┣バッシュLv30
(Lv10)┗ブレイクアタックLv30
両手剣熟練度Lv10[上級+剣熟練度Lv10]
(Lv10)┗一刀両断Lv10
メイス熟練度Lv15
(Lv3) ┣[+ヒールLv3]身体能力向上Lv15
(Lv10)┗魔力回復力向上Lv15
ヒールLv30
(Lv5) ┗移動速度向上Lv30
杖熟練度Lv12
(Lv3) ┣ファイヤーアローLv12
(Lv5) ┣ライトニングボルトLv12
(Lv10)┗テレポートLv5
◆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます