全国大会編⑲~全国大会への想い~
リバイアサンを倒してから数週間後、無事に全国大会が開催されることになった。
この大会を迎えるにあたって、何度花蓮さんから怒りをぶつけられたかわからない。
(俺は花蓮さんが適当でいいって言うから、つけただけなのに……)
全国大会は、射撃、剣術、解体、個人戦、団体戦の各部門が1日毎に行われる。
今は静岡県ギルドが取ってくれたホテルで、大会の日程等がまとめられている冊子を眺めていた。
【団体戦U-16の部 静岡県代表 PT
他のPTはカッコいい4文字熟語や、特徴を表した名前が並んでおり、俺がつけた静岡県の名前だけやけに目立ってしまっている。
花蓮さんが評価されないと悩んでいた時期に書いたものなので、花蓮さんを目立たせる名前にした結果だ。
(これはこれで面白い。それなのに、なんであんなに怒るんだろう……)
この名前は大会の情報と共にニュースでも取り上げられ、花蓮さんがすごく目立っていた。
学校にも他県から花蓮さんに対して取材が来たりしていたので、宣伝効果は抜群に良いはずだ。
それなのにもかかわらず、花蓮さんはこの名前が分かってから毎日のように俺へ恨み節を唱えてきた。
(花蓮さんも評価されたいとか、目立ちたくないとか、言っていることがコロコロ変わってよくわからん)
別のページには、全国大会の詳しい日程と内容が書かれていた。
初日は射撃部門の日程で、四方に発射される的を的確に撃つ競技が行われる。
的が出る方向のランプが点灯し、その数秒後に的が発射されるようだ。
競技者は他の音が聞こえないようにヘッドセットのようなものを付けなければならない。
予選は2回のスコアの合計で、決勝は上位4名で一発勝負のスコアの競い合いをする。
それでも同点の場合は、差が付くまで競技が行われるようだ。
(ふーん……的当てゲームか)
剣術大会は県大会と同じ形式で、トーナメントの一発勝負のみ。
組み合わせ表を見たら、花蓮さんと絵蓮さんは当たるとしても決勝だ。
絵蓮さんはシードに配置されており、表の角に前年度の成績と一緒に名前が載っている。
花蓮さんの名前は2回戦で去年の優勝者と対戦する場所に書かれていた。
(静岡県で1位になってもこんなところに入れられるんだ)
解体部門は、以前真央さんから聞いていた通り、自分でモンスターを狩ってくるようだ。
倒したモンスターのランクと、素材の質や量で総合的に判断されるらしい。
(場所はこの周辺にあるフィールドかダンジョンみたいだな)
競技大会の個人戦もトーナメント、団体戦は県大会同様。
個人戦の準決勝まで、俺は佐々木さんや夏美ちゃんと当たることはない。
それ以上は決勝リーグが行われるようだった。
(上位4名による総当たり戦か! ふたりと1対1で戦う機会なんてなかったな!)
団体戦の内容を読もうとした時、扉が数回ノックされる。
ここのホテルはオートロック式なので、冊子を机に放り投げてから扉へ向かった。
ドアノブを押して扉を開けたら、明が立って待っている。
明は応援という名目で俺の家族と一緒に来てくれていた。
立たせ続けるのも悪いので、部屋へ入れる。
「何か話? とりあえず入る?」
「いいんですか!? ありがとうございます」
ホテルの部屋にはベッドと小さな机しかないので、俺はベッドへ腰を下ろす。
明を椅子に座らせるために、椅子を引いて用意する。
「狭いから明はこれに座って」
「……横じゃだめですか?」
空いているベッドの横を見てから上目づかいで聞いてくる。
座りにくいから椅子へ座らせようとしたので、明がこっちでもいいならそれでもかまわない。
「別にいいよ」
「はい! 失礼します」
なぜか俺へ密着するように座ってきた。
この状況は予想していなかったので、思わず離れようとする。
明の手が自然に俺の太ももに置かれていた。
「幸せを補充にきました……」
「明ってそういうことを堂々と言うようになったよね」
「そうしないと一也さんがまったく動じないってわかりましたから……」
「それは陰陽師の力?」
「ぶー、私の経験ですー」
明は頬を膨らませながら、不満そうな顔を向けてくる。
仕草がかわいいので、思わず意地悪をしてしまう。
両頬を手で押し込むように軽くつかむために、明の顔に触れた。
「むぎゅ!?」
「その状態で話してみるがいい」
手を離さず、俺は笑いながら明をからかう。
聞こえはしないが、ゆるしてくれと言うように口を動かすので、手を放してやる。
明は両頬をおさえながら俺を見てくる。
文句のひとつでも言われると思っているので、立ち上がって俺が椅子に座った。
「あ!」
「横にいると話しづらい」
唇を尖らせて文句を言う前に、明の意見を聞かない態度をとる。
それでも、なぜか明は何も言わずに頬を撫でていた。
「夏美ちゃんのところには行ったの?」
「ここへ来る前に行きましたよ。晴美さんが扉の前にいて、なっちゃんは集中したいみたいなので、誰も入れてくれないようです」
「へー、緊張しているのかな」
腕を組みながら緊張をしている夏美ちゃんを想像しても、俺には思い浮かばない。
俺の考えがわかるのか、明がほのかに笑みを浮かべる。
「たぶん、大会参加者で緊張していないのは一也さんだけですよ」
「俺は競技大会だけだし、佐々木さんも大人だから緊張していないんじゃないかな」
「佐々木さんと廊下ですれ違いましたが、数日前から不安でろくに食事ができないって言っていました」
「そんなに追い詰めたか……」
大会の一週間ほど前、絵蓮さん以外をスカイロードへ放り込んだ。
狩りが終わる時に、負けたら海へ突き落とす体験をさせると言ったのを思い出す。
(あれがそんなにプレッシャーになってしまったのだろうか……)
3人とも身体能力向上を使えるため、海に落ちてもちょっと痛いだけで済むと思う。
今度やらせてみようかと本気で考えていたら、明が俺の額を指で弾いてくる。
「今は私との会話に集中してください」
「してるよ。ふたりの緊張の理由を考えているだけ」
「そういう余裕がみんな無いんですよ」
「そういうもん?」
明が深呼吸をして、自分の胸に手を当てる。
俺も自分の胸に手を当ててみるが、別に普通に鼓動を感じるだけだった。
「みんなのことを考えると、参加しない私でも緊張しているくらいですから」
「ふーん……俺が緊張しない理由は簡単だよ。全力を出せる相手が出ればいいと思っているだけだから」
「花蓮さんたちではだめですか?」
「俺がこの大会に参加している意味を一番分かっているのは明だろう?」
「占いましたが……意味が分かりませんでした……」
「ちなみに、占い結果は?」
明が目を閉じると、全身がほのかに青く光り、占いを行っていた。
俺は自分の考えが占いに反映されているのか期待して待っている。
光が収まった明は目を開き、静かに口を動かす。
「《冒険者制度を終わらせる》、そう出ています」
俺は明の頭を撫でて、占いの結果を褒める。
「正解だ。ただ、この大会ではできない」
「それは……この上にある世界大会ですか?」
「そんなところ。喉が渇いたから何か買ってくるけど、まだここにいる?」
「いいえ、部屋に戻りたいと思います」
「そう? おやすみ」
「話していただいてありがとうございました。おやすみなさい」
俺は頭を下げる明を置いて部屋を出る。
ホテルを出て、夜風に当たりながら黒騎士に与えられた【Rank8】の冒険者証を眺めた。
(この腐りきった冒険者制度を終わらせる……そのために俺はこんな大会への参加を続けるんだ)
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翌日の射撃大会では、夏美ちゃんとその後に行った主催県の男性選手が予選で2回の競技ですべての的を破壊した。
他の選手は圧倒的に点数を離され、決勝の様子を見守っている。
決勝でも、夏美ちゃんと主催県の選手はすべての的を外すことはなかった。
これからサドンデスが行われるので、2ヵ所同時に競技が始まろうとしている。
俺の横にいた明が、顔を赤くして怒り始めた。
「あの選手、耳から的が出る方向の指示を受けています!」
「まあ……そうだろうな……」
俺は大会の冊子を手に取り、歴代の結果のページを開く。
そこには、世界大会へ進出している一覧が掲載されていた。
(団体戦は1枠、個人戦は3枠、それ以外は2枠なのに、これは異常すぎる)
歴代の世界選手権参加者を見ると、団体戦以外には必ず主催する県の選手の名前が載っていた。
(これでなにも不正が行われていないと言う方が無理だ)
サドンデスでもふたりとも的を外すことはない。
しかし、何十回か続いた後、左右同時にランプが点灯している。
この場合は、距離が遠い方を破壊した方の勝ちだ。
主催県の選手はどちらが遠くに放たれるかわかっているのだろう。
(そこまでして自分の県の選手を優勝させたいのか!?)
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