全国大会編⑱~ウィンディーネの部屋~

「はあ……ウィンディーネさん……ですか……」

「はい!」


 ウィンディーネという女性は返事をしてから、なぜか俺を見ながらソワソワしていた。


 どうしたのか聞くよりも、ここがどこなのかの方が気になってしまう。

 目を動かして周りの様子を探ると、洞窟のような場所なのに家具が置いてある。


 この部屋のいたるところに布で作った人形のようなものや、マネキンが置いてあった。


 奇妙な部屋の中とは違い、窓から見える風景は大量の魚とサンゴのようなものが見える。


「もう我慢できないわ!!」

「わっ!?」


 ウィンディーネさんはいきなり膝の上俺へ覆いかぶさるように抱き付いてくる。

 それと同時にまばゆい光が俺の全身へ降り注いできた。


 押さえつけられて身動きが取れないでいる俺の上で、ウィンディーネさんが興奮している。


「あなた本物の人間よね!? どれだけこの瞬間を待ち望んでいたか!! もう離したくない!!」

「ゔー! ゔー! ゔー!」


 呼吸ができずにもがく俺に気が付いたのか、押さえつけられていた力が弱まる。

 ウィンディーネさんが手を放して、俺へ顔を近づけながら心配をしてきた。


「大丈夫ですか? いきなりごめんなさい……」

「いえ……平気です」


 顔をよく見たら、今まで見たことがないような美形で、膝の上に頭を乗せているのが恥ずかしくなってきた。

 起き上がって、少し距離を取ってから座り直す。


「あ……」


 なぜか切なそうな声を出されたので、理由を知りたくなってしまう。


 発言から推測して、この人はリバイアサンのいる【海底回廊】ダンジョンの守護者だと思われる。


 全身を眺めたら、座っている姿だけでも絵になりそうなほどの造形美だ。


(この人が絶望したからリバイアサンに乗り移って、ダンジョンごとモンスターを掃討したのか……そんなことできるんだ……)


 今までのやりとりで、この人がそのようなことを自発的に起こしたとは思えない。

 悲しそうな顔をしているウィンディーネさんへいくつか質問をしてみることにした。


「聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「いいわよ! なんでも聞いて!」


 表情が一変して、なぜか距離を詰めて俺の横に座ってきた。

 ついでに俺の手を握ってくるので、心臓が飛び跳ねそうになってしまう。


 ただ、この世界に来て少し女性への耐性が付いた俺は、平常心を装って話を始める。


「ウィンディーネさんは……」

「私のことは【ディー】とお呼びください」

「わかりました……ディー……さん」

「はい!」


 ずいっと俺の手を引き寄せて、身を寄せるように密着してくる。

 なぜこんなにぐいぐい来るのか不明だが、こんな女性に頼まれて断れるはずがない。


 ディーさんはニコニコしながら俺の言葉を待っている。


 しかし、この状況になり、自分の聞きたいことを忘れてしまった。

 何も話さないわけにはいかないので、この空間を見回して気になったことを口にする。


「これはディーさんの趣味ですか?」

「全部私の願望よ」

「願望?」

「私は今まで1度も人と会ったことがなかったの……だから自分で作ってみたのよ……」

「上手にできていて器用ですね」


 俺が何気なく手に取った、人のようなぬいぐるみと同じようなものが部屋のいたるところに並べられていた。


 数十体以上のぬいぐるみと、どうしても目に入る数体のマネキンが気になって仕方がない。


 ディーさんは恥ずかしいのか、頬を赤らめながら俺の持っているぬいぐるみを見る。


「私はずっと人と話をして、こうして触れ合いたかったの……」

「はあ……」


 いつの間にか俺の腕に、ディーさんの両手が絡み付いており、離れることができなくなっていた。

 腕を動かそうとしただけで、上目づかいで子犬のような目を向けられる。


(なぜこんな状況に……そもそも、俺はなぜここにいるんだ?)


 驚きの連続だったため、自分の置かれた状況を冷静に分析することができていなかった。

 横にいる人物を無視して、考え事を始める。


 すると、ディーさんが独り言のようにつぶやき始めた。


「ドンちゃんからいつか私の所にもあなたが来るって聞いて、ずっと待っていたの……」

「ドンちゃん?」

「ポセイドンのドンちゃん、知っているでしょう?」

「それは知っていますけど、連絡があったんですか?」

「毎日毎日、きみが来て、モンスターの掃除が大変って自慢してきたのよ」


 俺の腕を締める力が強くなり、ディーさんの顔に影が落ちていた。

 後でポセイドンへ苦情を言うことを決めて、目の前で落ち込む女性へ遅れたことを謝罪する。


「来るのが遅くなってすみません……」

「違うの! そういうことじゃなくって!」


 俺から手を放して、慌てながら否定をしてくれていた。

 リバイアサンのことを思い出して、それとなく聞いてみることにする。


「それが理由でリバイアサンに?」

「リバちゃんには無理を言っちゃったわ……」

「無理ですか?」


 おそらく、リバちゃんというのはリバイアサンのことだと思うので、ディーさんが頼んだことを知りたい。

 表情を曇らせたディーさんの言葉を待っていたら、ゆっくりと話を始めてくれた。


「私がわがままを言って、リバちゃんは私をダンジョンの外へ出そうとしてくれたの」

「それで暴走しちゃったんですか?」

「そうよ……それでダンジョンも滅茶苦茶になっちゃったし、リバちゃんも消えちゃった……」

「あなただけでも元に戻ってよかったです」

「ありがとう……」


 ダンジョンは無くなっていないそうなので、暇ができたら来ることを頭の片隅に入れておく。

 とりあえず、リバイアサンの脅威から世界中の海を守ることには成功したらしい。


(そういえば、俺は力を全部使って動けなかったはず……ディーさんが介抱してくれたのかな?)


 魂まで燃やして、体の隅々に至る力を絞り切ったはずなので、俺がこうして生きているのはディーさんのおかげとしか考えられない。


 今度は俺からディーさんの手を握って、お礼を伝える。


「ひゃっ!?」


 手を握った瞬間にかわいい悲鳴が聞こえて、信じられないような目で俺を見てきていた。

 あまり会わない人だと思うので、伝えることだけ伝えてここを去ることにする。


「ディーさん、俺のことを助けていただいてありがとうございます」

「そ、そんなこと当然よ! 私の方こそ、迷惑をかけてごめんなさい!」


 言いたいことが終わったので、俺は手を放して立ち上がった。

 ディーさんは顔を赤らめたまま自分の手を不思議そうな顔で眺めている。


「それじゃあ、俺は帰ります」

「え!? ちょっと待って!!」


 急にディーさんが立ち上がるものの、俺はワープホールを発動させていた。

 手を振りながら最後の言葉をディーさんへ笑顔を向ける。


「また今度、ダンジョンに来ますね」

「待ってよ!! まだ話を……」


 ディーさんが何かを言っている最中に、ワープホールで移動してしまった。

 悪いことをしたと思いながらも、俺はレべ天の家にある部屋で装備を脱ぎ始める。


(レべ天に連絡をするのを忘れていたな)


 アダマンタイトの装備がボロボロになり、頭に巻いていた赤い布はいつの間にか取れていた。

 装備を一新するプランを考え始めた時、扉が急に開け放たれる。


「一也さん!!??」

「天音、俺は今、着替え中なんだけど……」

「ごめんなさい……」


 レべ天はそう言いながら扉を閉めてくれた。

 着替えを再開しようとしたら、また扉が勢いよく開けられる。


「って違います!! 一也さん、私の力を勝手に使ったでしょ!?」

「身に覚えがないんだけど……」

「私もどうやったかわからないんですが、確かに使われたんです!!」

「はあ……それで?」

「それで? じゃ、ありません! 体は無事なんですか!?」

 

 やけにレべ天が俺の心配をしているので、手に力を入れたり、体を触ってみたりしても何も違和感が無い。


 騒がしいので、一旦落ち着けるために、さっさと着替えを終わらせる。

 レべ天は着替え中の俺の体を注視してきているため、だんだんムカついてきた。


「いつまで見ているんだよ、変態か?」

「そんなんじゃありません! ……一也さん、今までどうしていたんですか?」

「ディーさ……ウィンディーネって人に助けてもらっていたよ」

「あの人に!?」


 レべ天は急に俺の体へ顔を近づけて、匂いを嗅ぐように鼻をスンスン鳴らし始めた。

 意味が分からないので、とりあえず理由だけは聞いてやることにした。


「天音、俺がお前を突き飛ばさないうちに、理由を言ってみろ」


 レべ天は俺へ目を向けるものの、鼻を止める気はないらしい。

 長い金髪をひっぱるために手を伸ばして、まとめるように髪をつかむ。


「私以外の匂いがする!!」

「なんだよそれ……」

「スキルを確認してみてください!」

「ああ……ん?」


 俺は自分にスキル鑑定を行い、レべ天の言っている意味を理解してしまった。


(これにはなんの効果があるんだ……)


スキル


体力回復力向上Lv40

(Lv5) ┣[+剣熟練度Lv5]攻撃速度向上Lv40

(Lv10)┗キュアーLv40


剣熟練度Lv40

(Lv3) ┣挑発Lv40━[上級]宣言Lv40

(Lv5) ┣バッシュLv40

(Lv10)┗ブレイクアタックLv40


両手剣熟練度Lv40[上級+剣熟練度Lv10]

(Lv10)┗一刀両断Lv40


メイス熟練度Lv40

(Lv3) ┣[+ヒールLv3]身体能力向上Lv40

(Lv10)┗魔力回復力向上Lv40


ヒールLv40

(Lv5) ┣移動速度向上Lv40

(Lv10)┗[上級+キュアーLv10]ホーリーヒールLv40


杖熟練度Lv40

(Lv3) ┣ファイヤーアローLv40

(Lv5) ┣ライトニングボルトLv40

     ┃(Lv10)┗━[上級]ライトニングストームLv40

(Lv10)┗テレポートLv40━[上級]ワープホールLv40


短剣熟練度Lv40

(Lv3) ┣鑑定Lv40

(Lv5) ┣スキル鑑定Lv40

(Lv7) ┣急所突きLv40

(Lv10)┗[上級]隠密Lv40


盾熟練度Lv40

(Lv5) ┣[上級]パリィLv40

(Lv10)┣シールドバッシュLv40

(Lv10)┗[上級]シールドブーメランLv40


拳熟練度Lv40[上級]

(Lv3) ┣アースネイルLv40

(Lv5) ┣[+ファイヤーアロー等]魔力放出Lv40

     ┃(Lv10)┗属性付与Lv40

(Lv5) ┣旋風脚Lv40

(Lv10)┗錬気Lv40


弓熟練度Lv40

(Lv3) ┣気配察知Lv40

(Lv5) ┣鷹の目Lv40

     ┃(Lv10)┗[上級]暗視Lv40

(Lv10)┗[上級]マルチプルショットLv40


槍熟練度Lv40

(Lv3) ┣[上級]騎乗Lv40

(Lv5) ┣[上級]ソニックアタックLv40

(Lv10)┗[上級]五月雨突きLv40


銃熟練度Lv1


[シークレットスキル]

守護神の加護

海王の祝福

水神の寵愛(New)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る