全国大会編⑰~リバイアサン戦~
『5メートル頼む!!』
『細かい作業は苦手じゃ!!』
ポセイドンへ指示を出しながら、区切られた海域をカウアイ島に向かって狭めた。
このまま海で戦っていても、俺が消耗することは目に見えてわかる。
俺が勝つためにはなんとしてでも陸地へリバイアサンを打ち上げなければならない。
拳では海中で有効的なダメージを与えることができなかった。
最初の一撃は、予想していなかった攻撃に驚いただけのようだ。
ただ、海から出たときに与えた一刀は確実にリバイアサンの鱗を削っている。
(海から叩き出さない限り、勝機はない)
海から援護を受けているかのように、海中にいるリバイアサンは防御力が高くなっているように思える。
速さでは同等以上になったものの、この状態ではダブルスペルの魔法が使用できないため、攻撃力が足りない。
(せっかく速くなったのに満足に戦えない!)
相手の有利な場所で戦い続けることがこんなにも不利になるということを身に染みて感じる。
もっと速くて鋭く戦えるように雷が走る範囲を広げようとすると、錬気以上の激痛と共に魔力が消費されていく。
この状態で戦っても何もできないまま魔力が尽きると判断して、迅速果敢に挑んだ。
(俺の魔力がなくなる前にリバイアサンを倒せばいい!!)
リバイアサンよりも速く動けるようになり、先回りをして雷の拳を打ち込み始めた。
しかし、動くたびに筋肉が引きちぎれそうになる。
ダメージを回復する余裕がなくなり、加速状態の維持が長く続かないことを悟った。
限界まで身体能力を高めて、拳を止めずに打ち続ける。
カウアイ島まで残り数十mまで追い詰めた時に、それは突然訪れた。
雷を維持できなくなり、体が動かかなくなってしまう。
(嘘だろ!? もう少しなのに!!)
もう島の浜が見える距離までリバイアサンを殴り続けたのに、この数秒後には再び逃げられる。
ポセイドンの結界も限界に近く、俺たちの考えた対策が無駄になる。
振り上げた腕さえ下ろせず、絶望していたら頭の中に声が響いてきた。
『思いっきり上に向けてテレポートをしてください!』
残っている魔力を絞り出すようにテレポートを行う。
空に飛び出した俺の手には両手剣が握られている。
『それを海に向かって思い切り振りきれば状況が変わるそうです!!』
この剣を今の状態で振っても少しの水しぶきが上がるだけだろう。
レべ天の言う思い切りというのは比喩ではなく、俺の持てるすべての力を注ぎ込まなければいけない。
今の俺にはそれをする余力がなく、力なく海へ向かって落ちる。
(俺は諦めようとしているのか……自分にできることをすべてやったのか?)
自問自答を繰り返し、俺は持っている剣に託された気持ちを思い出す。
レべ天が今回の件で思い詰めて、夜な夜な泣いていたのを知っている。
誰よりもこの世界のことを考え、全世界の守護者を説得して俺をこの世界へ召喚した。
(その思いに応えられるのは俺しかいないんだ!!)
自分を奮い立たせて、両手剣を握りしめる。
かつての【俺】がしたように、自分の願いを叶えるために魂を燃やす。
(やり方は【俺】が教えてくれた!! あとは……勇気だけだ!!)
魂を燃やすという行為で自分へどんな影響がでるのかわからない。
京都では、【俺】の魂が完全に消えてしまった。
(俺はそんなことよりもモンスターを倒せないことの方が悔いが残る!)
自分の全てをかけてモンスターを倒す。
それが俺のこの世界での生き方。
あの感覚を思い出して、自分の魂を業火にさらすように滾らせる。
魔力とは違う力が全身を駆け巡り始めた。
その力で錬気を行ったら金色の光が俺の全身を包む。
武器にも
「一刀両断!!」
俺が剣を振り抜くと、海が割れるように切断された。
リバイアサンも例外ではなく、体の一部が切られたままその場を動かない。
剣を投げ捨てながらそのまま切られた海の中を落ちて、リバイアサンへ向かって拳を振り上げる。
「燃えろ俺の魂ぃいいいい!!!!」
「ギャオオオオオオオオオオ!!??」
今度は俺の力でリバイアサンを海上へ放り出した。
空中で身動きが取れない相手を追いかけ、島へ向かって拳を打ち出した。
「これが……俺の……全力……だ……」
金色の塊がリバイアサンに当たり、カウアイ島の浜辺に打ち付ける。
遠くでリバイアサンの体から黒い煙が上がっているのを確認した。
(終わった……指の先さえ動かせないぞ……)
本当にこれ以上動けるような力が残っておらず、俺は目を開けるのも辛くなる。
元に戻った海面に叩き付けられ、アダマンタイトの重りでそのまま海底へ向かって沈んでしまう。
(ポセイドンの力も無くなったか……)
海に沈んで呼吸ができないことに気が付き、ポセイドンが力も使い切ってしまったことを知る。
俺は息ができない苦しさよりも、リバイアサンを倒した充実感を覚えてしまった。
まぶたに感じる光も薄くなり、自分がどんどん沈んでいるのを理解する。
最後にレべ天へリバイアサンを倒したことを教えてやりたがったが、その前に俺の意識は無くなった。
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頭に温もりを感じ、ゆっくりと目を開ける。
「気が付きましたか?」
「え……?」
青い皮膚をしている女性が俺をのぞき込んできていた。
髪まで青いので、この人が人間でないことは確かだと思う。
起き上がろうとするために力を入れようとしても、体が動いてくれない。
「まだ完全に治っていないので、大人しくしていてください」
「はい……あなたは?」
俺の頭をなでながら優しい笑顔で俺の瞳を見つめてきた。
目も青く、その美しさに思わず魅入ってしまう。
「私はウィンディーネ。あなたから守護神様の力を感じて、正気に戻されたものです」
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