全国大会編⑯~海中海神戦~
徳島県を出発してから約2時間。
目的地であるカウアイ島の沖合に着いた。
船長を含めた船員たちは疲労で倒れそうになっている。
俺は船の先端から海に向かって飛び降りた。
数人の船員が力のない声で俺が飛んだ瞬間に声を出すものの、止めるために動く人はいない。
海面に立ち、船長へお礼を伝えるのを忘れていたことに気が付く。
「船長! 運んでいただいてありがとうございます。ここから動かなければ被害は受けないので、終わるまで待っていてください!」
手を上げながら船長へ待機してもらうように指示を出す。
船長は辛うじて俺の言葉に反応して、手を振って見送ってくれた。
平然と海の上を歩く俺をこの人たちはどんな風に眺めているのか気になるが、今はリバイアサン討伐へ向けて準備を行う。
カウアイ島に近づくように走り始めて、レべ天の合図を待つ。
『そこです!』
しばらく走っていたら、レべ天の声が頭に響いたので急停止する。
付近には海以外は何もなく、遠くに俺の乗ってきた船とカウアイ島が見えた。
気配察知で周辺を探っても、モンスターの気配はまったくしない。
『ここでいいんだな?』
『はい。明ちゃんが今の場所なら作戦を実行すれば出現すると言っています』
『わかった。天音、合図をしたら例の【モノ】を頼む』
『わかりました』
俺は空へ顔を上げて、上に向けてテレポートを行う。
海を見下ろして、落下しながらレべ天に合図を出す。
『天音!』
『はい!』
合図と共に俺の足元に現れたのは、以前他の中学校の教員を盾で蹂躙したとき、賠償金の代わりに入手した【M60】。
戦車という兵器を海へ叩き込んで、リバイアサンをおびき寄せる。
これが世界中のどこにいるのかわからないリバイアサンと戦闘を行うための方法だった。
(明の話では、今日、この時間とこの場所なら、戦車でもリバイアサンが来る)
その占いを信じて戦車と一緒に海へ向かって落下している。
すると、急に海面から水圧カッターのようなものが飛び出してきた。
(釣れた!!!!)
戦車が攻撃を受け始めて、俺も余波を受ける。
アースパリィでなんとかしのぎながら、海を見つめた。
リバイアサンの攻撃だと判断した俺は、ポセイドンへ一言だけ言い放つ。
『囲ってくれ!!』
『わかった!』
見た目ではわからないが、俺の周囲100mほどの海域からリバイアサンは出られなくなったはずだ。
超高圧水流の攻撃で戦車はバラバラになり、海へ飛散していく。
そのまま俺も海へ飛び込んだら、俺の想像していたリバイアサンよりも数倍大きな巨体をしたモンスターが海の中を暴れまわっている。
(あれが守護者と同化したリバイアサンか……)
海竜リバイアサン。
海蛇のような体に無数のヒレを持つ、海中では最速で最強のモンスター。
体はあらゆる攻撃を防ぐ鎧のような鱗で覆われており、戦車を簡単に破壊する水圧カッターの攻撃を行ってくる。
(守護者がどの程度影響を与えているかわからない……けど、この姿を見る限り、確実に弱体化だけはしてない)
ただでさえ手強い相手がさらに強くなって俺の目の前で暴れ狂っている。
動いた後に海が渦を巻くように海流を巻き起こし、この中を自由に動けるはずの俺が行動を縛られる。
(まさか、この流れすべてに魔力が込められているのか!?)
リバイアサンの移動速度が異常なため、おそらくスキルを使用している。
しかし、移動した後の海流に魔力が残るほど強力なスキルを俺は知らない。
残像が見えるほどリバイアサンが速い。
なんの対策のないまま来たら、まともに攻撃を当てられるか不安になってしまうだろう。
(さあ! 攻略を始めよう!!)
この時のために俺は明へ数日捧げる覚悟をしてきた。
リバイアサンと戦えるのなら、それくらいなんの問題もない。
魔力を全身に駆け巡らせて、いつでも攻撃ができる準備を行う。
『正面へ雷の塊を撃ち出してください!』
「五月雨ライトニングフィスト!!」
レべ天の合図とほぼ同時に、海の中で撃ち出された雷の拳は、飛散することなく俺の正面へ40個打ち放たれた。
すると、何もいなかった空間へ急にリバイアサンが現れて攻撃が当たり始める。
雷属性の攻撃に弱いリバイアサンは、攻撃を受けて俺を敵と認識したようだ。
リバイアサンが俺の前で止まり、俺を見据えてきた。
俺もようやくリバイアサンの姿をはっきりと確認して、拳を握りしめる。
(戦闘開始だ!)
それから行われたのは一方的な蹂躙だった。
明の指示を受けるものの、リバイアサンはその連絡よりも速く俺へ攻撃をしてくる。
明の占いをレべ天が中継をして俺へ伝えているため、どうしてもタイムラグが生じていた。
京都では、明の心の指示が的確に伝わってきたが、守護している場所以外では力が十分に発揮できないらしい。
リバイアサンの体当たりや水圧レーザーの攻撃を受け流していたが、俺より先に防具が限界を迎えた。
魔力による身体能力上昇でダメージを抑えるものの、俺の体が確実に削られる。
ホーリーヒールで体を治しながらリバイアサンへ攻撃のチャンスがないか探るものの、すべての行動を俺では対応できない速度で行なってきていた。
ダメージを与えることが一切できていない状況が続いてしまう。
『次は右後方より攻撃が来ます!!』
『もう来てる!!』
レべ天が俺へ必死に明の占いを伝えてくれるものの、それが届く時にはもう遅い。
明の力もいつまで使えるのかわからないので、いったん止めてもらうことにした。
『天音、明を休ませろ。こっちはなんとかする』
『なんとかって!? どうするんですか!?』
『それを考えるんだよ!! お前も休んでおけ!!』
一方的に心の連絡を遮断して、リバイアサンの攻撃を防ぐことに全力を注ぐ。
ただ、こんなことを続けていたら、ポセイドンの力もやがて尽きてしまう。
(考えろ……相手はモンスター、必ず倒せる手段があるはずだ……)
右腕や左の腹がえぐれても、この程度の傷なら死ぬことはない。
いくらダメージを受けても考えることを止めず、活路を見出すために目を閉じて黙想を始める。
(相手は音よりも速く、明の指示で俺が攻撃をしようとしたらもうそこにはいない)
速度で負けている相手と戦うためにどうすればいいのか自分にはまったく分からない。
もう、自分が戦うために必要なことが1つしか思い浮かばないので、実行することにした。
(相手が自分よりも速いのなら、自分が相手よりも速くなればなんの問題もない)
体がリバイアサンによってボロボロにされていたので、ホーリーヒールで全部治す。
体中を駆け巡る魔力を黄色に変えて、雷の力を体外へ放出する。
魔力に体を委ねて、自分自身を雷に変えるイメージをした。
(駆けるんだ!! 雷よりも速く!!)
身体能力向上や移動速度上昇など、能力を高めるバフ魔法をすべて黄色の魔力で行う。
こんなことは魔力の色を変えた錬気中に試したことがない。
俺の体の周囲に黄色い雷が走り始める。
(この感覚は!!??)
雷をまとった瞬間から、リバイアサンの動きが遅く見え始めた。
追いかけるために海を蹴り出し、長い胴体に向けて拳を振り上げる。
「ギャオオオオオオオオオオ!!??」
海の中にいたリバイアサンを海上へ向けて打ち抜けた。
海から出たリバイアサンが悲鳴のような咆哮を上げる。
俺は追撃するために、リバイアサンを追いかけてテレポートを行う。
「一刀両断!!」
俺の渾身の手刀をリバイアサンの胴体に当てるものの、力が足りずに俺の右腕が粉砕した。
ただ、全くダメージがないわけではないようで、鱗の一部が欠けている。
(これなら戦える!!)
右腕を治して、海へ叩き付けられたリバイアサンを追いかけた。
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